第6話 龍王?いや、ゴスロリ幼女です。



 私、篠森カレンが華麗な右ボレーで怪物を吹っ飛ばした所から、少し時をさかのぼる。



 ◆黒曜竜の巣◆


 

 【カレン!!僕おっきくなっちゃった!!】



 「ええ!?嘘でしょ!!」

 


 私は、アメショのショウくんの劇的なビフォーアフターに驚愕する。

 

 ちょま、えげつないって、可愛すぎん?この子。

 モデル並みのスタイルに、思考を埋め尽くすほどの存在感を放つ胸筋おっぱい…。

 キリッとした瞳に、長い睫毛がクリッと上向きにカールしている。ボーイッシュな感じのショートボブの髪型なのに、しっかりと女らしさを感じさせる体つき。

 いやー、うん、ホントにおっきい。色々おっきい。

 女として負けた気がする…。とりあえず言いたいことは山程あるけど…



 「ショウ君さん…不躾ぶしつけではありますが、おっぱい揉ませ…」



 ドボッ!



 ユキナのヘッドショットがカレンの急所(お腹)に入った!


 カレンに5000のダメージ!!ぐはッ!!



 「おおお……す、すいませんでした…」



 私が腹を押さえて謝罪あやまるとフンっと不満そうな顔をしたユキナが疑問を呈した。

 


 【ねぇカレン、さっきから気になってたんだけど、奥の方にも部屋があるみたいよ?】



 ユキナが指す先には、この空間には似合わない小さな扉がちょこんと設置されていた。



 ピクッ



 ん?なんか動いた気が…



 【もしかしたら食糧とか、この世界についての何かがあるかもしれないわ】



 ピクピクッ



 おや?



 【食糧!!ゴハン!!】



 ピクピクピクッ!



 おやおやおやー??


 

 【かれん…そのさん、生きてるの】



 ビクッ!!



 シャルが告げる。うん、なんかめっちゃ反応してるもんね。



 「あのー、生きてます?」



 私は、少し離れた場所から、横たわる黒龍に問いかけた。しかし、返事はない。



 「えーと…返事が無かったら料理してウチの子達とむしゃむしゃ食べちゃいますけど」



 「ぎゃー!!そ、それだけはやめてほしいのじゃあ!!」



 そんな、可愛らしい声と共に、黒曜竜の身体がみるみる縮んでいき―――



 そこには、ゴシックロリータ風の服装を身に纏った黒髪の幼女が頭を両手で押さえながらしゃがみこんでいた。

 命だけはぁーって小声で言いながらぷるぷる震えている。

 どうやら、ショウくんの強さにビビって、死んだフリ(仮死状態)をしていたらしい。



 えぇ……嘘ぉ……この子さっき威圧感放ちまくってたドラゴン?…すっごく庇護欲掻き立てられるんですけど…


 私はぷるぷるしているロリッ娘の頭を優しくナデナデした。「ふぅおお」っとロリッ娘から声が漏れる。可愛い。



 ドラゴン幼女は恐る恐る顔を上げて、うるうるとした瞳を上目遣いで見上げる。可愛いなおい。


 

 「そ、そなた、我を食べないのじゃ?」



 「え?食べるけど」



 「ぎゃーーーーーーーー!!!」



 【カレン…あんた………】


 【どらごんさん、可哀想なの…】


 【いやー、叩きのめしたの僕だけど、さすがに…】



 あ、やばい。家の子達が引いてる。

 だって反応が可愛すぎるんだもん、このドラゴン。



 「う、嘘ダヨー?私達、皆いい子ダヨー?」


 「ほ、ほんとなのじゃ?」


 「うん!!ホントにホント!」


 「ふぃー、良かったのじゃあぁ」



 トサッと両手を後ろに回し、足を伸ばして座り込むドラゴン。マジにさっきの禍々しい竜と同一人物かな?


 

 気の抜けるようなやり取りに、すっかりと恐怖心は無くなっていた。いや、この子にビビってたとか、ちょっと考えられない。



 「えっと、あなたは黒曜竜ボロス、ちゃんで良かったかな?」



 すくっと立ち上がり、腰に手を当て、仁王立ちになる幼女ちゃん。はい、ドヤ顔入りまーす。



 「いかにも!わらわはキリシア大陸最強の龍、黒曜竜ボロス・ムー・ヴァレンシアじゃ!」


 「名前長いなぁ…ムーちゃんって呼んでいい?」


 「ムーちゃんじゃと!?この妾を黒龍の王と知っての狼藉ろうぜきかや!?」



 【なんか生意気なドラゴンね…】



 ユキナが、ずぃっとムーちゃんに近づく。あ、龍王だったの?



 「ッ!!と、言うのはほんの冗談じゃ!す、好きに呼ぶとよい!」


 「キシリア大陸最強…?」


 「………だったのじゃ」



 ありゃ、幼女がまたしゅるしゅると小さくなっちゃった。



 「…いや、ごめん。そうじゃなくて、キシリア大陸っていうのがこの場所の名前?」


 「なんじゃ?まさか知らずにこの地に足を踏み入れたのかや?」



 いや、えーと、転生してから出会った第一村人(竜)があなたなんですぅ、この世界の事わかりませーん。



 「えっと、実は私達、別の世界から来たの」



 なんじゃと!?驚愕に目を見開くムーちゃん。



 「…いや、確かに…そこの獣達は1000年以上生きる妾も初めて見る生き物じゃ…こんな怪物…にゃんにゃん言って油断させておいて、阿保みたいな強大なオーラを纒いおって…あ、思い出したらチビりそうなのじゃ」



 なんか私も可哀想に思えてきたので、怖くないアピールをしていたら、ショウくんが前に出てくる。そして私のほうに振り返って、ムーちゃんを指差す。



 【なぁ、こいつ食べちゃダメなの?お腹空いて死にそうなんだけど】



 あ、忘れてた。そう言えば私も空腹だ。腹の虫がぐぅうっと鳴る。



 「ごめん、ムーちゃん!実は私達、腹ペコで倒れそうなの!何か食べ物は無いかな?」


 「あ、あるぞ!!だから妾を食べないでほしいのじゃ!!」





 ×××××





 お互いに自己紹介をして、先ほどユキナが見つけた小扉に入ると、そこには西洋風の可愛らしいお部屋が広がっていた。中は意外と広々としていて、所々にアンティークな小物が飾られている。



 幼女姿のムーちゃんだと違和感ないけど、厳つい竜の姿とのギャップに、クスリと笑ってしまう。



 「あぁ、妾の威厳が……誰にも見せたことなかったのに…」



 さっきはこの可愛らしいお部屋を見られたくなくて反応してしまったようだ。



 暫くして、しおらしく紅茶を淹れてくれたムーちゃんが、大量の焼き菓子を持って来てくれた。その中から私はパウンドケーキを1つ取る。



 ショウくんは人化しているから大丈夫だと思うけど、ユキナとシャルは食べても大丈夫かな?そんなことを思ったが、異世界に来てからかなり変化しているし、いざとなれば魔法を作って回復すれば大丈夫か、と気付いて、私は手を合わせる。



 「ムーちゃん、ありがとう!頂くね!」


 「うむ!く、口に合うといいんじゃが…」



 パウンドケーキを一口、口にいれる。しっとりとした食間に、卵の風味と、優しい甘みが口に広がっていく。…うまっ!!ユキナ達も、マカロンやフィナンシェなどの焼き菓子を、目を輝かして夢中になって食べている。



 「ムーちゃん、めっちゃ美味しいよこのケーキ!」


 「そ、それは良かったのじゃ!…今朝焼いたのがあって良かったのじゃぁ…」


 「えッ!手作りなの!?」


 「うむ、いつもは部下に買ってこさせるんじゃが、たまに妾も自作するんじゃよ」



 嘘、でしょ…竜王さん女子力高過ぎ。本日二度目の敗北。



 そんなやり取りをしつつ、私達は大量の焼き菓子を綺麗に平らげ、紅茶で流し込んだ。



 【はじめて食べたけど、悪くないわね!!】



 一番多く食べていたユキナがふん、と鼻をならす。口ひげの回りにミルクがついているのは気付いてないみたい。



 【シャルも、とってもおいしかったの!ムーちゃん、ありがとうなの!】



 シャルは素直で良い子だなぁ。



 【いっぱい食べたよ!カレン、誉めて!!】



 ショウくんはやっぱり少年っぽく笑う。


 和やかな雰囲気が部屋中を包んだ。そんな中―――



 

 「あ、あのじゃな……そ、その…わ、妾には、友人と呼べるものがおらんのじゃ…そ、それでじゃな…」



 ムーちゃんが頬を朱色に染めながら、口ごもる。数秒の間があり、意を決したように口を開く。



 「わ、妾と…と、友達に!!…なって欲しいのじゃ」



 俯いて目を瞑り、最後のほうは声が小さくなりながら、そんな健気な想いを口にするムーちゃん。思わずふふっと笑みがこぼれる。嫌なんて、言うわけがない。



 「もちろん!!私達は、友達だよ!!」


 

 バッと顔を上げたムーちゃんはまるでお花が咲いたような明るい表情になる。



 「ほ、本当なのじゃ!?」



 「うん、最初は見た時は怖かったけど、色々良くしてくれたし、そうじゃなくても、こんなに良い子なムーちゃんからお願いされたら、断れないよ」



 【そうね、特別に、と、友達になってあげてもいいわ!!】


 【シャルも~お友だちなの~】


 【僕も、もっと食べ物くれるなら良いよ!!】



 


 人と、猫と、竜。なんだか不思議な組み合わせだけど、これも縁なのかもしれない。転生して、初めて会ったのがムーちゃんで良かった。



 そうして友達になった私達は、眠りにつくまでの間、お互いの世界について語り合ったのだった。

 



 



 



 



 


 



 


 

 



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