第4話 変態な女神と大変な私


 遥か天空に巨大な建造物がそびえ立っている。全ての世界と繋がる場所、神の領域。天界と呼ばれる場所。



 幾重にも層を作る建造物の最上階に最も近い所。そこは最高位の神だけが住まうことを許される。



 そんな場所の一室、無機質な柱が立ち並ぶ回廊の先。翼が形取られた豪華な椅子に、創造神シルヴィスは腰を下ろす。



 「さて…あのは無事に転生できたかな?」


 

 シルヴィスが右手を前に掲げ、滑らかに下に降ろすと美しい彫刻が縁を彩った鏡があらわれた。そこにはシルヴィスが転生させた1人の娘の姿が映った。



 カレンは転生後の自分の姿の変化に驚いているようで、目を見開いてプルプルと震えている。



 カレンのそんな姿を見て、普段は無表情なシルヴィスも同様に身体を震わせた。



 「なんということだ、か、可愛すぎるじゃないか…大きくてクリっとしたつぶらな瞳も、艶やかにぷくっと膨らんだ唇も、整った小鼻も、均整のとれた体つきも全てが愛おしい…」



 創造神シルヴィスはカレンにゾッコンだった。



 「はぁ、猫耳尻尾姿も良く似合っている。あの娘の

可愛さを形容するすべがない…ああ、今すぐ会いに行って思いっきりペロペロチュッチュしたい…」



 そして、シルヴィスは変態だった。


 


×××××




 シルヴィスがカレンを転生した場所は聖域と呼ばれる場所で、魔物等が寄り付かない所である。



 聖域の奥にむ邪竜の存在も魔物を寄せ付けない要因の一つであったがカレンにかけた加護の力で悪意あるものは自ら彼女に近づけないようになっている。



 そういった要因を考慮した結果、シルヴィスはカレンを聖域に転生させたのだが、カレンにとっては試練の連続だった。


 


 カレンが、池で足を滑らせた。


 


 「な、なんということだ!」



 シルヴィスはその光景に痛々しげに目を瞑った。



 しかし数秒後。



 「なゃ!!こ、これは…なんと、けしからん!!」



 フスーっと鼻息高く、瞳を見開く。



 濡れたカレンの肢体に、ピッタリと貼り付く服。控え目に膨らんだ胸の形が、幼さに妖艶さを帯びている。



 目を爛々らんらん耀かがやかせてその様子を凝視するシルヴィスは、その背後から近付く気配に気付けない。



 「…シルヴィス様。失礼を承知で申し上げますが、流石さすがに私、ドン引きしております」



 シルヴィスはハッと我に返り、声の主に振り返る。



 「…どこから見ていた、アルマ」



 透明度の高い白い肌にベリーショートの白い髪。背中には4枚の羽が生えてえおり、糸目の瞳が微笑ほほえんでいるように見える。全てを見抜く"見透す者"という称号を持つ彼女は、智天使アルマ。シルヴィスの側近である。



 「ペロペロチュッチュからです」



 淡々と告げるアルマ。



 「…そうか。こ、コホン、それで何かあったのか?」



 「あなた様の変貌ぶり程に変わったことではありませんが、最高神様がお呼びになられております」



 「そ、それは忘れてくれ…。わかった、すぐに向かう」



 部下の鋭い指摘に狼狽えつつ



 きっとあの娘の事だろうとシルヴィスは思っていた。


 時間がなかったとはいえ、神が地上の魂に手を出すには本来、神々の頂点に立つ最高神に認可してもらわなければならない。



 シルヴィスが指を一つ鳴らすと、鏡は光の粒となって消えた。最後にはカレンがトボトボと歩く様子が映っていた。その背中に一つ魔法を掛けて。



 「カレン、また必ず会おう…」



 シルヴィスはそう言って足早にその場を後にした。




×××××




 私、篠森カレンは頭を抱えていた。ここまでにかなりの精神を消耗していた私は目の前の光景を受け入れるには余裕がなかった。



 アメショのショウくんが巨大な竜をワンパンした。



 到底信じれる話ではない。ショウくんは私の飼い猫である。生まれてから1年半、ずっと傍でその成長を見てきた。正真正銘、ただの猫である。



 それが、物語での異世界では大体頂点に君臨する魔物であろう竜を一撃でたおす、なんて事はあり得ない。



 視界にチラチラ入る死骸ですら圧倒的な威圧感を放っている。



 とはいえ、誉めて誉めてと、頭をスリスリしてくるショウくんが嘘を付いているとも思えなかった。



 であれば、確認するしかない。ステータスという、この異世界特有のシステムを。



 「…ショウくん、ステータスって唱えてくれる?」



 【すてーたす?ん?わわ!なんか出てきた!!】



 聞き返すように発言したものでも、本人がステータスと言えば出てくるのか。私は新たな発見と共に、続けて質問をする。



 「ショウくん、そこに書いてある文字は読める?」



 【うん!なんでか分かんないけど読めるよ!】



 猫でも文字が読めるなんて事ではもう驚かない。おそらく本人に最適化が行われてるんだ。



 「よかった。じゃあ次は、レベルって所に書いてある数字はいくつ?」



 【れべる?あ、これか、えーっと…いち、ぜろ、なな、はち?】




 1、0、7、8?レベル1078!?レベル1078!?な、ななななななななななんだって!!



 私は言葉を失った。



 私が転生後に見た自分のレベルは1。そのレベル差は1077………。



 理解させられた、竜を斃したのは事実なのだと。



 続けて、他の攻撃値等の数値も聞いたけど、【数字いっぱいで分かんない】と言われてしまった。更には、竜殺ドラゴンスレイヤーしと、神の使途、英雄の眷属という称号まで持っていた。

 


 あと他に気になっているものは…



 「ショウくん、スキルってどうなってる?」



 【なんか選択肢みたいなのがたくさん出てるねー、えと、スキルポイントっていうのを使えば?手に入るみたい】



 なるほど、恐らくレベルが上がれば取れるスキルも増えていく仕組なのだろう。



 【ショウ、人化の術は選択肢にあるかしら?】



 今まで静観していたユキナが口を挟んだ。確かに私も気になる。



 【うーん、…あ!あるよ!!スキルポイント500使えば使用可能だって!】


 「え、使えるの!?」


 【うん、スキルポイント10万あるから!】


 「じゅっ、じゅうまん…」

 

 【解放の条件はわかる?】


 【えっとねー、ネームドモンスターの討伐って書いてあるよ】


 「それって、そこの竜がネームドモンスターだったって事かな…」


 【ねぇカレン、ちょっと気になるんだけど、ステータス開いてくれないかしら?】


 「気になること?うん、いいよ」



 私は右手を前に出し、ステータスと唱えた。





 そして、またもや言葉を失った。





 【レベル】 1 ⇒ NEW "648"



 なんでぇえええ!!!?



 【やっぱり、そういう事ね…】


 「ゆ、ユキナ、どういう事?」


 【さっき聞いた、英雄の眷属って称号なんだけど、私のステータスにもあったの、多分シャルにも。

つまり英雄はカレンの事で、私達はその眷属って事ね】


 「わ、私が英雄!?わたたた、そんな!まだ何もしてないのに!」


 【よっぽど創造神とやらに気に入られたのね。

それと私達の英雄と眷属って関係はステータスにも影響してると思うわ、私のレベルもかなり上がってる】


 【シャルもいっぱい強くなってるの、も、うはうはなの!】



 つまり、ショウくんがあの黒曜竜を倒したことで、全員に経験値が共有されて、皆強くなったって事?

いやいや、ズルッこ過ぎません!?



 【ショウ、取り敢えず人化の術の性能も見たいから、使ってみてくれるかしら?】



 狼狽する私をおいて、ユキナがそんな指示をする。



 【おっけー!!ちょっと待ってて!…これに、こうして………。っよし!出来た!

それじゃあ行くよ~、超位スキル、人化の術!!】



 ポンっ………軽快な音と共に、ポップな煙りに包まれて、ショウくんの姿が見えなくなる。やがて、徐々にヒトガタのシルエットが現れてくる。



 愛猫が擬人化する。私は不安と同時にその状況に、胸の高鳴りを感じていた。



 そしてその瞬間は訪れた。


 

 スラッとした長い手足、きゅっと引き締まったお腹からお尻にかけてのラインと、それと対照的に、これでもかと主張してくる胸部。キリッとした瞳に、シャープな顎のライン、柔らかくカーブを描くショートボブにピンと立った猫耳。尻尾は、ショウくんの喜びを示すようにブンブンと振れている。



 気がつけば写真でしか見たこと無いような、モデルばりのスタイルの超絶美少女がそこにいた。

 




 


 

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