第3話 無自覚最強バスターズ


 「ユキナッ!!シャル!!ショウくん!!」


 

 私、篠森カレンが得たスキル。"猫召喚" を使用して開いた光の輪には、私が住んでいたマンションのリビングが映っていた。


 淡いピンクのソファー、白いローテーブル、液晶テレビと並び、その左奥、大きめの猫用ベッドの中。

 

 お互いに寄り添うように、三匹の子猫は寝息をたてていた。


 駆け出した私は、歓喜し、その光景に飛び付いて手を伸ばす。

 

 

 だけどその手は虚しく空を切った。


 

 

 ―――どうして?


 わたしは、向こうには、行けないの?


 眩しい世界、手を伸ばせば届きそうなのに…。



 

 涙が、とまらない。溢れ落ちて、地面に幾つもの染みを作っていく。


 

 私は力が抜け、地面にヘタりこむ。


 

 ああ、どうか、神様、お願いします、私も、あの場所に


 

 その時だった。


 

 『ぐぅぅぅぅ』


 

 真ん中に寝ていたショウくんの、お腹の虫が部屋に鳴り響いた。

 

 その音に、ピクッと、ユキナのミミが反応し、ゆっくりと顔を上げる。


 ユキナは音の発信源を探して、キョロキョロと見回すような仕草をして、泣きじゃくる私と、目があった。


 

 「にゃおん?」【…カレ、ン?】



 残りの二匹もユキナの鳴き声に反応して、私を見た。そして三匹ともに勢いよく向こうの世界から飛び出して、私にのし掛かった。



 【カレンッ!!カレン、カレンカレン!!!】


 【カレン、ほんとうに、カレンなの!帰って、来てくれたの!!】


 【カレン!!しん、心配したんだぞ!!ま、まったく、うぅ!】


 「み、みんな、心配かけて、ごめんね。もう居なくなったり、しないから!」


 しばらくの間、私は三匹をやさしく抱き締めた。もう絶対に離れないように。



 

 そして、ゆっくりと離れてから今更ながら気付いたことがあった。


 

 みんなの言葉が、わかる。


 そしてそれは彼女達も同じだったようだ。



 【カレン、私たちの言葉がわかるの!?】


 【ミミとシッポ、シャル達といっしょ、なの】


 【カレン、いつの間にニンゲン辞めたんだ?】


 「いや、辞めてないよっ!?これには訳があって、あ、こうなった理由は分かんないんだけどっ、…とにかく何があったのか、説明するよ」


 


 私はこれ迄の経緯を説明する。子猫を助けて死んでしまったこと、創造神に命を救われたこと、この世界に転生して、気付けば半分猫になっていたこと。わかる範囲で事細かに説明した。


 

 【…カレン、猫助けをしたことは誇ることだわ、だけど、自分を犠牲にするようなやり方は、やめて…】


 「…うん、ごめん、ユキナ。…皆も、もう絶対に皆を置いていかないって、約束する」


 【うみゅ、シャル達もカレンといっしょがいいの】


 私の話を最後まで聞いて、ユキナとシャルが真剣な表情?でそう言ってくれる。それがとても暖かくて…私はまた泣きそうになった。


 

 そんな感動の再開を遮るように、カレンが呟く。

 

 

 【…ねぇ、ショウは?】


 「ん?ショウくんならそこ…に…、あれ?」


 さっきまで、すぐそこにいた気がするが、まさか。


 【ショウくんなら、お腹へったからタベモノとってくるっていってたの】


 「ええ!?そんなっ!」


 まだ転生してからこの場所を殆んど動いていない。どういう世界なのか、どんな危険が潜んでいるか解らない。大変だ!すぐに探さないと!!


 「ユキナ、シャル!一緒に行こう!!」


 【はぁ、全くあの食欲バカは、ご飯と遊ぶことしか考えてないんだから…シャル、分かる?】


 【たぶん、匂いで追えるとおもうの】


 はわわ、ウチの子達が頼もしい!そうだ、まだ近くにいるはず!!


 私達は、シャルの嗅覚を頼りに駆け出した。


 あたりは暗くなり始めており、濡れた身体は、肌寒さも増していく。私は前を走るユキナとシャルを見る。


 泣き言は…言ってられない。私は愛する家族を守らなきゃいけないんだ!!


 



 【っ!!止まって!!】


 方角も分からない森の中、捜索を始めて十数分ほどだろうか、私達はシャルの声で立ち止まる。


 【…匂いが、ここで途切れてるの】


 目前には、大きな岩壁があった。苔むした岩肌に目を凝らすと、洞窟のようなものが続いていた。


 洞窟の中は深い闇に包まれており、不気味な唸り声のような音が外まで広がっている。


 ショウくんが、ここにいる。怖いけど、今の私にはユキナとシャルがいる。二人と顔を見合せ、頷く。


 【カレン、大丈夫。アタシ達が付いてるから。それにこっちの世界に来てから力が漲る感覚があるの】


 【ユキナもそう、なの?シャルも身体中がうずうずするの】


 「そうなの?私は何ともなかったけど、やっぱり私が異世界に連れてきた影響で身体に変化が起きてるのかな?」


 【どうしてか力の使い方が頭に流れ込んでくるのよ、まぁ見てて】


 ユキナが一歩前に出る。私は言われた通り見守る。


 【光明こうめい!】


 ユキナの発した言葉と共に、まばゆい光球が現れる。その光源は辺り一帯を照らし出し、洞窟の入り口を明確に見れるようになった。


 「ユキナ!!凄い!凄いよ!これで洞窟内を捜索できるね!」


 【ふふん、このぐらい造作もないわ!】


 私が素直に誉めるとユキナはシッポを揺らしてドヤる。


 「これって、魔法だよね?」


 【そうね、他にも色々と使えそうよ?特に…火属性と光属性に適正があるみたいね】


 【シャルは、みずと、かぜにがあるの、それに、ひとか?のじゅつ、が使えるの】


 【あ、それ私も使えるわ。人化じんかの術って奴】


 「え!?人化の術?」


 私は驚きを隠せず、二匹に詰め寄る。私が食いぎみに言ったせいか、二匹はビクッと身体を跳ねさせる。


 【ちょっ、近いわよ!!で、でも使えるようになるには条件があるみたいね…】


 ユキナは考え込むようにうつむく。


 【シャルも、いまはつかえな―――】




 ドゴォオオオオオオオオオオオオン!!!!!


 

 「ッ!!なに!?」


 突如、洞窟内に鈍く重い破砕音が響きわたる。私は吃驚して二、三歩後ろに下がり、ユキナ、シャルも驚きに身を震わせ、尻尾の毛を逆立てて、フシャーと威嚇体勢を取る。


 「これって…、ショウくんに何かあったのかも知れない!!ユキナ、シャル!!急ごう!!」


 ユキナの魔法【光明】を頼りに私達は洞窟内に乗り込んだ。




×××××




 洞窟の中は単純だがかなり広く、所々にクリスタルのような結晶が散らばっており、ユキナの光魔法に反射して、走る私たちの姿を幾つも映している。


 ひらすら続く一本道を突き進んだ先に、巨大な扉が見えてきた。なにか鉱石で作られた扉には異界の文字で大小様々な円が描かれている。


 扉の目の前に到着した私たち。すると眼前にステータスと同じようなウィンドウが姿を現した。


 

 【黒曜竜ボロスの巣へ入りますか?】


 【 YES ・ NO 】



 「こくようりゅう?凄くヤバそうな名前…」


 【さっきの音はここから聞こえたみたいね…】


 ユキナの言葉にシャルが頷く。全員の緊張が高まった。


 「…皆、行くよ!!」


 私は表示された"YES"の文字を、押した。


 10メートル以上はありそうな扉が騒音と共に開かれる。石の擦れる衝撃で、パラパラと砂ぼこりが舞う。ドーム状の空間の真ん中。


 


 


  そこで私たちは見た。




 


 【あ、みんな!!ご飯手に入れたよ~!】


 

 


 呑気な声で笑う一匹の子猫。


 その傍らに、光沢を放つ巨大な黒い竜の亡骸。




 その光景に私達は言葉を失った。あっけらかんとしたショウくんを除いて…


 

 【どしたの、みんな?ッアハハッ、カレン面白い顔になってる~】

 

 「………ショウくん、これ、何があったの?」


 私は角が折れ、ピクリとも動かない竜を指差す。


 【あー、なんか急に叫び声を上げて爪で攻撃されたから、殴ったら動かなくなっちゃったんだよ】



 へなへなと力が抜けて私は地面にヘタりこむ。もう何がなんだか…。


 

 【カレン!これでご飯作ってよ!!】


 

 「できるかぁああああああ!!!」


 

 今日一番の叫びが洞窟内に木霊こだました。








  

 


 


 

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