第2話 泣き虫にゃん子


 皆さんこんにちは、にゃんにゃん大好き現役JK、篠森カレンです。え?分かってて使ってる?って、どういう意味ですか?にゃんにゃん、がなんですか?

………はい?………え?いや、ち、違います!!猫!猫が大好きなんです!!決して、イヤらしい意味じゃないです!!


 ち、ちょっと取り乱しましたが、それはとりあえず置いておいて……私、転生しました。


 ちょっと前に、目の前でトラックに轢かれそうになった猫を助けて、私が死んじゃいました、てへ?


 そんな私をシルヴィスという神様(創造神)が、救ってくれて、第二の人生を謳歌中です!やった!!



 

 いま私の目の前には、その辺の木の枝が雑に組み上げられている。所々に燃えかすのような黒いシミが出来ていた。


 「はぁ…、詰んだ…」


 一本だけあった切り株に腰掛けながら、ひとり呟いた。やばい、涙でそう。



 


 ×××



 


 転生した先は、森の中だった。目覚めた私は、状況を確認するために歩きだそうとするが、すぐに立ち止まる。


 って、いやいや!森の中にひとり、めっちゃ怖いって!!無理無理無理!!


 うん、一旦冷静になろう。すていくーる。私は大丈夫。


 辺りを見回すと、この周辺だけ少し開けているようだった。木々の隙間から木漏れ日が射して、この場所を照らしているみたいだ。


 日の高さからみて、今は昼間っぽい。幸いなことに、近くから水の流れる音も微かに聞こえる。


 とりあえずここを拠点にするのがベストだろう。


 とそこで改めて、自分の格好を見てみる。私が通っていた高校の学制服だ。明るいブラウンのブレザーに、ダークブラウンのプリーツスカート。靴も学校指定のローファーを履いている。


 そのままじゃん!ってことは!


 私は慌ててブレザーのポケットをまさぐると、白い猫のラバーケースに包まれたスマホが出てきた。


 残念ながら圏外、スマホ無双は出来なかったが、カメラ機能を開いて、インカメラで自分の姿を確認する。さっきから何となく気になってたんだよね。


 転生前と同じ容姿。


 だけどなにか違和感が…。


 

 「あれ?眼の色がちがう?そ、それに…みみッ!?なんで!?ね、猫耳生えとる!!」


 

 現実を受け止められないまま、もしかしてと思い、恐る恐る自分のお尻を触って確認する。


 「や、やっぱり…、尻尾もある…」


 見慣れた自分の姿に、こちらも見慣れた猫耳と尻尾。だけど自分に付いてるとなると話が変わる。


 耳も尻尾も、触ると感覚がある。うん、自分の意思でうごく。ちょっと楽しい…、じゃなくて!!なんこれ!!わたし、半分猫になっちゃった!?


 わたわたと、しばらくの間自分の身体を確認していたが。


 「はぁ、考えても仕方ないか、何も分かんないし、それよりも」―――


 

 ぐぅぅぅうぅううう



 「………お腹へったぁ」


 盛大に音を立てるお腹に手を抑える。なにか食べれるものを探さないと…


 私は先程から聞こえていた水音を便りに歩きだす。さっきまでの恐怖心は、ビックリしすぎていつの間にか薄れていた。


 


 水源は、あっさり見つかった。目覚めた場所から100メートル位歩いた所、2メートルほど盛り上がった岩肌から蛇口くらいの量の水が流れて、小さな池を形成していた。よく見ると池にはヤマメのような魚が泳いでいるのが見える。


 「へへっ、順調じゃん!私!」


 急くように手で器を作り、湧き水を掬って飲む。


 「うんまぁ!めっちゃ冷えてる!」


 自然の湧き水は、適度に冷えていて渇ききった喉を潤してくれる。転生して間もないとはいえ、森の中でひとりと言うこと、自分の容姿の変化という状況に抱えていたストレスが洗い流されるようだった。


 「さてと、次は…」


 視線を池の方に移し、悠々と游いでいる魚を見る。普段なら可愛いなぁ、と観賞したりするものだが、今はかなりお腹が空いている。ごめんね、生きるためだから。


 私はローファーを脱いで、続いて穿いていたハイソックスを丸めてローファーに入れる。見たところ池の深さはそこまでで、膝下くらいの水深だろうか?


 念のために膝上数センチ位に穿いていたスカートをたくしあげる。そこから隠れていた太股が顔をだす。我ながら細身でちょっといい足だと思う。だからと言って恥ずかしいから普段は見せることなどないのだが。それはさておき。


 意を決して右足を池の中に突っ込んだ。


 「ふぁっ!!冷た!」


 この世界の季節は分からないが、冬服でも丁度よい気温なので、晩春ほどの気候だろうか、池の水もよく冷えていて、無意識に声が出た。


 「ふっふっふ、お魚さん、大人しくしていてねー?」


 恐る恐る、池の魚に手を伸ばす。だが、魚の方もただでは捕まらないと懸命に私の手を躱す。


 「ちょ、も、もうちょっと!」


 私も負けじと池の中で魚と追いかけっこ。弱肉強食はどの世界でも共通認識なのだよ!私はガバッと覆い被さるようにして、端に追いやられた魚を手掴みした。


 「よしっ!捕まえた!!…って、あ!!」


 勢いよく動いたために、私はバランスを崩し、大きく尻餅をついた。そうすれば当然、池の中なので…


 「ぎゃあああ、つめたあああ!!?」


 びしょびしょになった。尻尾が逆立つ感じがする。


 「やってもーた…」


 あ、服に魚はいってる…ラッキー…。(´;ω;`)


 身震いして、私は濡れた身体を両手で抑えながら拠点に戻った。




×××




 そして冒頭に戻り―――捕まえた魚と、震える身体を暖めるため火を起こそうと試みていたのだが。


 「さぶうぃい、ひ、つかないぃ、さびしいぃ…」


 大きな溜め息をついで、呟く。


 何不自由なく育ってきた私に、科学の力なくして火をつける事などほぼ不可能だったわけで…


 転生してから約半日、もうすでに心が折れかけていた。


 

 うずくまり、憔悴しょうすいしていた。

 

 


 だけど、このあと不意に漏らした言葉で運命の歯車が大きく動き出す事になるとは…


 


 「うぅ、ユキナぁ、シャルぅ、ショウくん―――」



 「…猫の手も借りたい気分だよぅ」


  

 ピロン



 【認証しました】

 【超越スキル "創造" を使用します

  スキルポイントを500ポイント使用して

  超位スキル "猫召喚" を作成しますか?】



 「わえっ!?なになに!?なんか頭の中に声が聞こえるんだけどっ!!」


 突然頭の中に鳴り響いた声にビクッと身体が震える。猫召喚!?なにそれっ!


 そう言えば色々あって忘れていたけど、転生前に創造神シルヴィスが、創造の加護を与えるとか言ってたような?


 え?創造の加護めっちゃ凄くない?


 頭の中で思考していると、もう一度同じ言葉と共に、目の前に文字が浮かび上がった。


 【超越スキル "創造" を使用します

  スキルポイントを500ポイント使用して

  超位スキル "猫召喚" を作成しますか?】


 【 YES ・ NO 】

 【所持スキルポイント500】


 文字通りだとしたら、猫を召喚するスキル。他の人からしたら、全てのポイントを使うスキルを今の状況で取ることはあり得ないだろう。


 だけど私にとっては神スキルである。猫さえいれば私はどんなに辛い状況だって、乗り越えられる!!


 私は迷わず、YESを押した。


 すると、私の身体が目映い眩い光に包まれる。


 【承認しました】

 【スキルポイントを500使用し、超位スキル "猫召喚" を作成しました】

 【ステータスを開示し、スキルの確認を行ってください】


 す、ステータス?よく分からないけど、それっぽく言えば大丈夫かな?


 「す、ステータス、オープン!!」


 たどたどしく唱えると、目の前になにやら四角い枠が飛び出し、沢山の文字が羅列していた。


『 名前 篠森カレン  年齢 15歳

   

 レベル 1  経験値 10  NEXT 90

 HP  490/500  称号:創造神の愛し子

 MP 500/500    :輪廻の守護者

 SP  0/500      :猫道を極めし者


 攻撃値:500   超越スキル:創造

 防御値:1000          :再生

 魔攻値:500    

 魔防値:1000   超位スキル:猫召喚

 敏捷値:500

 幸運値:MAX



 な、なんか凄い。このステータス?が高いのか分からないけど、超越スキルとか、名前がつおい。てか、猫道を極めし者ってなんだ?


 

 疑問だらけで、不安と期待が入り交じった複雑な感情が沸き上がる。


 だけど私は、藁にもすがる思いで、覚えたてのスキル、"猫召喚"を唱えた。


 

 「…お願い、助けて!!」


 『 猫召喚!! 』


 

 詠唱と同時に散る閃光。それは徐々に大きくなり、光の輪となっていく。


 

 そして…


 

 「ユキナっ!!シャルっ!!ショウくん!!」


 

 その中に愛しい愛しい子猫達の姿を見つけ、駆け出す。


 

 溢れ出る泪が、私の頬を濡らしていた。

   




  


 



 


 


 


 

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