第10話 第一王子

「こちらにどうぞ」

『さすがに王宮だけあってうでの良い庭師をやとっているのね』


 綺麗な女性が咎めないことを良い事にタメ語のまま話を進めていく。いつ咎められるのか内心ハラハラだね。


・ドロップ様の心臓が強すぎる

・鋼の心臓だから

・ガラスの心臓だったりして

・もしそうなら防弾ガラスだわ


 好き勝手言うコメントに反論したいのに反論できない。唐突に僕の心臓はバクバクだよ! とか言い出したら悪役の前にやばい奴認定されちゃうよ。うーん。どうにかできないかな? 今回の配信が終わったらお姉ちゃんに聞いてみよっと。


・ドロップ様百面相

・王妃様微笑ましそうに見てる

・好感度高いね。低いと怪しまれて衛兵に突き出されるよね


 はっ! 王妃様に見られてるだと!? 王妃様綺麗な女性に向き合う。


『聞いてもよろしくて?』

「ええ、なんです?」


 唐突な質問にも笑顔で対応してくれる。女神様かな? 聞きたいこと半分。私がした百面相の違和感を払拭すること半分。……誤魔化せたかな? 顔を盗み見ても涼し気な顔をしている。流石魑魅魍魎ちみもうりょうはびこる王侯貴族のトップだね。


『どのようにすごうでの庭師を見つけてきて? わたくしも欲しいわ』

「うふふ。流石に教えることはできないわ」

『自分でそだてろ。ということね』


 不敵に笑って見せると王妃様は満足そうに頷いた。何かテストでもされてた!?


 ドキドキしつつ王妃様の後を付いて行く。中庭の一角に上品なテーブルとチェアにパラソルが広げられている。


 四季折々の花々を鑑賞しつつお茶を飲めるみたい。綺麗な場所だ。


 メイドさんが僕の分の席を引く。あれ? 王妃様の分は?


 困った顔を……隠して王妃様に向き合う。


初めまして・・・・・。ラメリアこうしゃくけのドロップと申します。本日はよろしくお願いいたします』

「ええ、初めまして・・・・・。この国の王妃のエリザベスよ。もうすぐ夫と息子が来るからそれまで楽にしてちょうだい」


 ここらが潮時だと判断して丁寧な対応に切り替える。どうやら丁寧な仕草をしようと意識するだけで動作に自然と補正がかかるみたい。便利だね。


「うふふ。マナーも完璧。度胸も満点。いいわね。……どうかしら。春の訪れが来る予感がしない?」


 春の訪れ……。遠回しに婚約を進めて来てるってことだね。悪役令嬢としては受けるべきだろうけど断りたい……っ!? やられた! 僕が自己紹介するまで待っていたね?


『そうですわね……。もし、それが神のいこうであるならばしたがいましょう。ただし、一つ条件をいただきたいと存じます』


 やんわりと反対の意を示しつつも反逆の思想を持ってないことを示す。条件は……ゲームクリアの切り札にできればいいな。悪役令嬢のロールプレイをこなしつつも没落しないために!


「それは……公爵家から王家への条件として受け取ってもよろしくて?」


 家名をかけるか? との問いだね。下手な条件を提示したら公爵家だろうと容赦しないといった圧力だ。


『いえ、わたくしとエリザベス様の間のお約束ですわ。家は関係ありませんの』


 王妃様とじっくりと見つめあう。綺麗な女性だから少し照れるね。


・ドロップ様の表情……尊い!

・レイ:コラー! 私以外の女に目を奪われるんじゃないよ!

・うわっ! メンヘラだ! メンヘラがいるぞ!


「ま、いいでしょう。その時が来たら条件を聞くことを約束いたしますわ」

『ふふふ。聞くだけでなく飲んでくださることを期待しておりますわ』


 うふふあははと互いに笑いあう。腹の探り合いは苦手なのに……どうしてこうなった。


 周りの執事やメイドが引いてるのを感じつつも王妃様とお話をしていると城門の所で会った……。もとい初対面の男性と男の子が近付いてくる。それに気づいた僕がカーテシーのポーズを取って頭を下げると王妃様が二人を紹介してくれた。


「ドロップさん。紹介するわ。夫のローウェルと息子のロベルトよ」

『おはつにおめにかかります。ラメリアこうしゃくけ、ドロップと申します。いごお見知りおきを』

「うむ。初めましてだな。今はちゃんと仕事をしておるぞ」

「よろしくお願いしますね。うるわしの君」


 国王陛下は約束を守ってくれたね。……その代わり意趣返しされちゃったけど。王妃様は何があったのか知ってるのかな? うーん。やっぱり表情を読み取れないや。

 王子のロベルト様は……完璧王子様? でも僕に……いや、周りに興味がないんだろうな。言葉と裏腹に冷めた目で見てることが分かるよ。


 三人が席に座るのを見届けてから僕も着席する。にこやかな視線と面白がるような視線。そして冷めた目線。……帰っていいかな?


 流石に帰ることが許されることも無くお茶会が始まる。王妃様も婚約の話を出すことはせず、僕達の様子を見ることにしたようだ。


「やはり学があるな。前の時の態度は自信の表れか。……よし。しばらく子供同士で交流を深めると良い」


 少ししてローウェル様がそう切り出した。ロベルト様は胡散臭い笑顔を貼り付けたままだ……。


・ミニロベルト様可愛い!

・まだ小さいからか表情隠しきれてないのスコ


 コメントを黙殺しつつロベルト様の様子を伺うとニッコリと手を出してくれたからロベルト様のエスコートに従って花園を散策する。


『ロベルト様はどんな勉強をしてますの?』

『ロベルト様は外に出たことがありまして?』

『ロベルト様は……』

『ロべ……』


・見事に興味無さそうで草

・じ ご く


 僕が話しかけてもそっけない答えしか返ってこない。話を続けようとする気持ちがゼロみたいだ。


「君さ。そんな必死になってアピールしなくていいよ」

『はい?』

「君の熱量に負けたよ。婚約者になってあげてもいい」

『はい?』

「でもすまないがこれは政略結婚だ。君が公爵家の令嬢でいる間は大切にするけど愛情は期待しないでね」

『……』


 何を言っているのかな? 突然見当違いな一人語りを始めたんだけど?


『いえ、けっこうですわ。わたくしも呼ばれたから来ただけですから』


 僕が断ると驚いた顔をした。どうしたの?


「……こういっては何だが、僕はこの国の第一王子だ。ルックスも悪くないと自負している。一体どうして……?」


 何を言ってるのかな(二回目)? 完璧王子の実態はただのナルシスト王子だったよ……。


『その冷めた目。相手をあなどるふんいき。会話を盛り上げようとしないたいまん。気遣いもしない。ざっとあげてもこれだけあるわね。まだまだあるけど全て教えて差し上げましょうか?』


・ドロップ様辛辣しんらつ。だがそれもいい

・レイ:ドロップ様はぁはぁ


 お姉ちゃん……。思わずジト目になる。


「うぐっ。第一王子の僕にそんな表情を向けるなんて……。君とは婚約なんぞしないからな!」


 ロベルト様はそう吐き捨てると何処かへ走り去っていった。慌てて護衛さん達が追いかけていくのが見える。……お疲れ様です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る