第9話 不遜の態度

 ハイネさんに手を引かれて馬車を降りる。お嬢様になった気分でドキドキするね。


・絵になるな~

・なおこの幼女は数年後……

・世界は残酷だ……


 恐怖なんだけど? ラメリアは何をするの!? 僕は同じことする必要はないんだよね!?


「落ち着いてくださいまし。今日のラメリア様はとてもお綺麗ですから」

『おちついてるわよ! それに今日だけじゃなくていつでもわたくしはきれいなのよ! ふんっ』

「うふふ。申し訳ございません。ラメリア様はいつもお綺麗ですが今日は特にお綺麗ですよ」

『ふんっ。とうぜんのことよっ!』


 素直じゃない口が恨めしい。綺麗って言われてうれし――

 はっ! 僕は男だ。それに褒められてるのは僕じゃなくてこのアバターだよ! 危ない危ない。


・褒められてドロップ様ニッコリ

・守りたい。この笑顔


「ラメリアお嬢様。いらっしゃいませ」


 凄い。見目のいい執事さんやメイドさんが一列に整列して出迎えてくれた。高位貴族の令嬢として恥にならないように背筋を伸ばして進む。キョロキョロなんてしないからね。


・凄い。まともな令嬢に見える(錯乱)

・実はここ難しいんだよな。体格もリアルと違うしハイネさんからのプレッシャーが半端ないんだよ


 ハイネさんからのプレッシャー? ちらりと横顔を盗み見ると安心できる微笑みを返してくれる。どういうことなの?


「ふむ。ハイネの信頼を勝ち取っておるか。将来が楽しみなご令嬢だな」

『当たり前じゃない! わたくしはラメリアこうしゃくけのれいじょうだもの! ぶかのじんしんしょうあくはお手のものよ!』


 突然聞こえてきた声に反射的に声を返してから青褪める。僕がラメリア公爵家の令嬢だと知りつつ声をかけてくるってことは公爵家以上の地位を持っている人間……つまり国王陛下か妃殿下、第一王子に第二王子しかいない……。


・さっそくやらかしてる

・wkwk

・挽回できるか?


 ……待てよ? これは悪事ポイントを増やすチャンスじゃない? 向こうが名乗っていない以上、無礼を咎めることはできないと思うし賭けに出てみようか。国王陛下に見える・・・・男の人をまっすぐに見て不敵に笑う。


『あなたはおしごとをしていないのかしら? あなたがおしごとをしないことでこまる人たちはどれほどいるとお思いで?』


・えっ?

・まさかの選択w

・さすがドロップ様!


 コメントが盛り上がる中、周囲に静寂が訪れる。……言いすぎちゃったかな? あぁ、ハイネさんも固まっちゃってるよ。ごめんね?


「はーはっはっはっはっは。そうだな。そなたの言う通りだ。は仕事に戻るにしよう。そうだな……今日俺が仕事をさぼっていたことは黙っていてくれ。それでおあいこ・・・・にしよう」

『ええ、では次会った時がしょたいめんということね!』

「そうだ。まあ直ぐに会うことになるだろう。またな」


 王冠の似合いそうな男は僕の頭を一撫ですると城に戻っていった。じゅ、寿命が縮むかと思った……。


・許された!

・おめでとう!

・マジか! すげぇ……

・普通出来ない選択。そこに痺れる憧れるぅ!


「お嬢様。無茶はなさらずに……」

『なあに? わたくしがミスをすると思って?』


 心配そうな目で見てきたハイネさんに得意気に笑いかける。ちなみに僕は咎められると思っていたよ?

 一瞬目を点にしたハイネさんだったけどどこか納得したのかはたまた諦めたのか一つ頷くと僕の後ろに控えた。


 ちょっと気まずげな表情を隠しつつも案内してくれる執事さんに心の中で謝りつつ背筋を伸ばして付いて行く。厄介な令嬢が来たとでも思っていそう。ま、間違ってないよね。


 昨日お姉ちゃんから聞いたのは悪役令嬢にはいくつか種類があるということ。僕が昨日見たのは権力を笠に着て周りを虐げる我儘な令嬢だった。お姉ちゃんが言うには良い人なのに表情を出すのが苦手で誤解される令嬢や、ヒロインや本物の悪役に嵌められた可哀そうな令嬢、そして高飛車だけど実力が伴っていてカリスマ性のある悪役令嬢までいるんだって。


 やっぱり目指すのはカリスマ性のある悪役令嬢一択だよね。悪事カウンターを増やすことでカリスマ性があがるみたいだし今回みたいなチャンスは生かしていきたいね。



 お城の中庭に通されるとそこに広がるのは彩とりどりの花園だった。


『綺麗だけど怖いわね』

「怖い……でございますか?」


 私の感想を聞いて疑問符をあげるハイネさんに説明してあげる。


『勉強不足ね。覚えておきなさいこの一角に咲いてるのはバラを中心とした春に咲く花よ。こっちの一角はマリーゴールドを中心とした夏の花。ここはガーベラを中心とした秋の花。そして――』

「ここはローズマリーを中心とした冬の花。どうやらしっかり勉強しているようね」


 最後の一角を示そうとすると綺麗な女性が僕の言葉を盗んでいった。せっかく勉強してきたのに……。


・良く知ってるな

・ドロップ様おこかな? おこなの?

・ドロップ様を煽っちゃだめ! 泣いちゃうよ!


 泣かないよ!


『ふふっ。淑女のたしなみですわ』

「他の令嬢を敵に回しそうな発言ね。多くの令嬢達は綺麗と愛でて終わりなのよ?」

『その方々は自らの勉強不足を嘆くべきですわね。人に嫉妬する前に自らを磨かないとその人は破滅一直線なのよ』


 多くの悪役令嬢が通る道がそうだ。自らの怠慢を棚に上げて努力しているヒロインに嫉妬している。そういったキャラはざまぁを受けて破滅することが多い。……カリスマ性の高い悪役令嬢の場合は明らかにヒロインの常識がないだけの場合も多いけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る