第8話 続・チュートリアル

 次の日、夕飯を食べ終えた僕は再度配信を始める。今日は涙ちゃんが時々僕を見て顔を赤らめていた気がするんだ。なにか怒らせちゃったかな? お姉ちゃんは心配しなくていいと言ってくれたから一先ずは頭の端に追いやって今は配信に集中しよう。昨日はお姉ちゃんからアドバイスも貰ったし頑張るぞ!


「こんばんはー! レイ姉様の弟分のドロップです! 今日も昨日に引き続き光と影の協奏曲コンチェルトをやっていきます! よろしくお願いします!」


・ぐぅ丁寧

・真面目さんかな?

・この美少年があんな姿を見せるんですよ?

・ドロップ様! 今日も麗しいです!

・男性に麗しいはいいのか……?

・男性なの!? いや、それはそれで……ごくり

・ドロップ様の貞操が危ない。ドロップ様、こっちに避難しましょう!

・おまいう


「あはは。今日も絶好調ですね。でも暴走しちゃダメですよ? ドロップとの約束です!」


・はーい

・はーい

・レイ:はーい

・いつも返事だけは良いんだよな

・今日もレイ来とるw


「ゲームのプレイ中にはコメントへの返信ができない場合があるけどご容赦くださいね? では始めていきます!」


 ゲームにログインする。ちょっと視界が歪んだと思ったら昨日ログアウトした時の状態に戻っていた。


 昨日の侍女さんは……。!?


『固まってる!? 何? 敵襲?』


・その世界はそんな殺伐してないよw

・レイ:ログインしたばかりだからポーズ状態になってるんだ


『へぇー。なんかリアル時止めみたいで少し怖いね』


・最近のVRはリアルだからね

あの・・悪役令嬢の顔でこんな可愛い口調だと萌え感が凄い

・ヒロイン側でプレイしたことある人からしたら違和感バリバリだよね

・あれ? 口調の補正は?


『昨日は怖がって近付いてくれなかったからよく見えなかったけど近くで見ると可愛いんだね。えいえい』


・えいえい可愛い+100点

・激しく同意

・出たな採点ニキ


 はしたないと思ったけどリアルなVRに好奇心が負けて侍女さんの頬を突いてみる。ポーズ状態だからか感触が堅いね。


『警告:ポーズ中の不用意な他人への接触はお控えください』


『ぴゃっ! すみませんすみません』


・チュートリアル中に警告を貰う人がいるってマ?

・警告RTAかな?

・警告三回で遊べなくなるから注意してね。ちなみにセクハラ判定されると一発アウトだからね

・説明ニキありがとう

・ラメリア公爵が謝ってるの新鮮すぎる……


『横道にそれましたがそろそろ始めますね』


 よし、元いた場所に戻ってからポーズを解除しよう。


「お嬢様。今日も素敵ですよ」

『とうぜんでしょう? わたくしを誰だと思ってるのよ』


 相変わらず上から目線の言葉遣いになるね。さっきまでは普通の口調だったけどポーズの時限定みたいだね。体はラメリアのものだからか声は高かったけど……。


「お嬢様。ありがとうございます」

『……なんのことかしら?』


 待って、全く心当たりがないんだけど? 様子を伺うとにこりと笑う。昨日インしてた時はあんなに怖がっていたのに何があったの!?


『はぁ、まあいいわ。あなたの名前を教えてくださる?』

「今なんと……?」


 なんでそんなに驚いてるの? ……そういえばお姉ちゃんの配信で見た悪役令嬢は使用人を人と思っていなかったね。なんて・・・勿体ない・・・・


『なに? 私に名乗れる名前の一つもないのかしら? あなたのじじょうなんて、わたくしにはかんけいないの。名前を知らないと呼びにくいからぎめいでもあだなでもいいから教えなさい』

「偽名でもよろしいので?」

『あら、やといぬしの娘にぎめいを使うかくごがあるならかまわないわよ? あなたのお仕事はわたくしにちゅうせいをちかうことではなくて身の回りのおせわをすることですもの』

「お嬢様は……。とても成長なさいましたね」


 突然涙ぐむ侍女。で、名前は?


「ハイネと申します。ドロップお嬢様」

『そう。ハイネ、よろしくね』


 ニコリと微笑みかけるとこうべを垂れるハイネ。あれ? ただの公爵令嬢とその侍女だったよね?


・うっわ。もうハイネさん掌握してるよ

・恐ろしく速い懐柔。オレでなきゃ見逃しちゃうね

・でもやってることDVみたいなもん


 え? 何? この人重要人物だったの?


 ―――


 ハイネさんの正体について視聴者に聞いてみても誰も口を割らなかったから検索するのは諦めた。いつか信頼してもらえたらその時に直接聞いてみよう。


『ハイネ。このばしゃはどこに向かっているのかしら? それと今日のよていをおしえてくださる?』

「お嬢様。本日は王宮にて第一王子様との顔合わせにございます。城のバラ園などを見学させてくださるそうですよ」


 今日が王子様との初邂逅か……ここで好感度が稼げたりするのかな?

 僕が悩んでいるとしてるとハイネが補足説明をしてくれる。


「噂では第一王子様はお優しい方とのことですよ。心配なさらなくとも私がいます」


 そっと手を包み込んでくれたハイネさんが幼い頃のお姉ちゃんの姿に被り思わず笑顔になる。


・この笑顔……プライスレス

・レイ:……

・レイが尊死してる

・お前達、後は任せた……

・ふっ。俺はこの程度じゃビクともしないぜ! 来世で会おう!

・しっかりと死んでて草

・死亡ニキ、蘇生して?


 ちょっと恥ずかしい……。ハイネさんは手を包まれたことに照れたと思ったのか生暖かい視線を向けてきた。えへへ?


 その後、馬車の外に見える景色に思わずテンションが上がってしまい、はしゃいだ結果コメントが一斉に尊死したり途中で眠くなってハイネさんに寄りかかって眠ってしまいハイネさんが身悶えたりしていたが僕は一切気付くことなく平和に王宮に辿り着いた。

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