第7話 初回配信終了

 侍女に体を拭いて貰い終え、着替えると始める前に設定していたアラームがなる。そろそろ配信終了時間が近付いてきたね。


 そういえばログアウトするためにはどうすればいいのかな? ステータス画面を見るとログアウトのボタンがある。ボタンを押せばログアウトできるみたいだね。


 ログアウトボタンを押すと視界が歪んで立ちくらみする。倒れる前に視界が元に戻ったため転倒せずにすんだよ。良かった。


・そろそろカメラ戻してもろて

・ママー暗いよー

・はーい。迷子はこちらに来てくださいね

・暗闇、迷子、閃いた!

・通報しました


「ごめんなさい! 忘れてました! 今オンに戻しますね」


・おっ! 見えた

・さっきまでとのギャップが凄い

・これは癖になるやつ


 よかった。視聴者達も正気に戻ったみたいだね。悪役令嬢は魔性の女かもしれない。怖いね?


「これで今日の配信を終わります。続きは明日の同じ時間に配信します。ご視聴ありがとうございました」


・レイ:お疲れ様! 良かったぞ!

・楽しみ!

・今から全裸待機します!


「風邪ひいちゃうよ? 洋服を着て休んでね」


・はーい

・素直か!

・ええ子や

・お疲れさまでした!


 ―――


 VR空間から退席して一息つく。今日の配信は疲れたし大変なことも多かったけど楽しかったな。


「雫! 今日の配信凄く、凄く良かったよ!」

「お姉ちゃん……」

「雫よ……」


 お姉ちゃんが感動したように両手を広げる。それを見て僕はニッコリと笑う。


「今日のデザートは半分ね」

「なん……だと……」


 僕の宣言を聞いたお姉ちゃんががっくりとうなだれる。今日はいろんな意味で酷かったから仕方ないね。


 絶望した表情でうなだれているお姉ちゃんをよそに今日の配信でもらったコメントを見返していく。


 …………。この人達正気? 変態達のコメントで満ち溢れているんだけど!?

 コメントが多いのは嬉しいな。……いや、やっぱりここまで狂気に染まってると怖いな?


 それに、このコメント達は僕本人では無くて極悪非道の特性で補正された言動。そしてラメリア公爵令嬢といった見た目に対してのもの。……僕の実力じゃない。勘違いしないようにしないと。


「雫。真面目に考えるのは良い事だけど思いつめないようにね」

「お姉ちゃん?」

「雫のことだから乙女ゲームの力であって自分の実力じゃないって思ってるんだろう?」

「それは……」


 だってそうでしょう? ゲームの補正無しで僕の配信がここまで盛り上がったことはないんだからさ……。


「光と影の協奏曲コンチェルトで悪役令嬢を選択すると言葉遣いに補正がかかる。それは確かだけど決まったルートはないんだよ。中の人プレイヤーによって魅力的な存在にも退屈な存在にも変化する。そういったゲームなんだ。だから自信を持っていい」

「お姉ちゃん……」


 流石僕の目標であるお姉ちゃんだ。僕の悩みなんてお見通しみたいだね。僕を励ます言葉も……。


「そう! 乙女ゲームのプレイには中の人の性格が出てくるんだ! 私的にはもっと余裕を持って臨むといいと思うぞ! そう! 私が騙したこととかコメント内で暴れたことも慈悲の心を持って許しておくれ!」

「お姉ちゃん……」


 がっかりだよ。途中まで凄く良いこと言ってたのに……。


「はうっ。そんな目で見ないで。今の雫は目に毒だよ」

「お姉ちゃん酷い」


 ジト目を向けたら胸に手を当てて暴言を吐いてきた。シンプルに酷いね。


 再度うなだれているお姉ちゃんをよそに今日の配信について振り返っていく。


 攻略対象かと思いきや悪役令嬢だったことに驚いたけどこうなったらしっかり悪役令嬢について勉強してどうやってゲームを進めていくか考えないと。お姉ちゃんのアーカイブを回って勉強しよう。


 ―――


 ふむふむ? 悪役令嬢はヒロインに意地悪をする存在なんだね。パーティー中にワインをかけたりヒロインが近くを通った時に足を引っかけたりする? そんな……まだ15歳だよね? お酒は飲んじゃだめだよ! それに足を引っかけて転んだらどうするのさ!


「お姉ちゃん! 悪役令嬢って酷い人なんだね! 僕こんなことできないよ!」


 お姉ちゃんの部屋のドアを叩いて話を聞いてもらう。悪事と言っても嘘を吐くとかそういうことだと思ってたよ。どうしよう!


「雫……。さっきも言ったけど今日の雫は良かったぞ? 改めて何か考える必要はないよ」

「考える必要はない?」


 予習は? 復習は? 悪役令嬢になったからには悪役令嬢として役作りしないとダメなんじゃないの?


「雫。今回のコンテンツ乙女ゲームは殻を破るチャンスだよ。ありのままでいいんだ。今日の配信は大成功だっただろう?」

「うん。変態さんは多かったけどね。えへへ」

「はうっ!」


 褒められたのが照れくさくて笑うとお姉ちゃんが胸に手を開けてのけぞった。だ、大丈夫!?


「雫! もう一回変態さんって言って! もっと蔑む感じでお願い!」

「言わないよ……」


 お姉ちゃん……締まらないよ……。


 ―――

るい視点>


「今日の配信は何? 天才か? 天才なのか!? いや知ってたけど! 知ってたけども! 雫様ーーー!!」

「涙! 静かにしなさい!」

「ごめんなさーい」


 危ない危ない。雫君の配信が終わって我を忘れてしまったわ。もし雫君に聞かれたら……そして幻滅されたら私は生きていけない。その時は雫君と一緒に……。うふふふふ。


 ふぅ。興奮しすぎたわね。このままだと必ず雫君には人気が出る。それも爆発的に。そうしたら私のライバルが増えちゃうわね……。でもきっと大丈夫よね? コメントでは私が目を光らせてるし、学校では常に周りにけん制してるもの。もしも雫君に色目を使う人がいたらすぐに話し合いをする用意もできてるわ。うふふふふ。


 そうだ! 今回の配信の発案者は零義姉様だったわね。お礼の連絡を入れておきましょう。


 お礼の返信に雫君の「変態さん」って音声が送られてきて身悶みもだえたのは乙女の秘密よ?

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