第5話 初めての乙女ゲーム

 お姉ちゃんとふざけあっていたら緊張はほぐれたけどゲームを始めるのを忘れてた。そろそろ始めようか。


「ごめんなさい。始める前に簡単に説明をしますね。光と影の協奏曲コンチェルトはなんと! ヒロインかそれ以外のキャラか選べる乙女ゲームで、男でも楽しめるそうです! 零お姉ちゃんにおすすめしてもらったのでやっていきたいと思います!」


・あっ……(察し)

・やったな?

・レイお姉様ご愁傷様

・なむ

・レイ:待て、私は悪くないぞ!


 どうしたんだろう? 一瞬怪しいコメントが見えたけど流れるのが早すぎて読めなかった。


「始める準備はもうしてあります! コメントには反応できないこともあるかもしれませんがご理解ください!」


・wktk

・りょ!


 お辞儀をしてからゲームにログインする。カメラはオートアジャスト機能が付いているため適切な画角を維持してくれるよ。お姉ちゃんみたいな上級者はマニュアルで画角を操作してるみたい。僕もいつかは……。


 気を取り直して前を向くと選択画面が現れる。


『ヒロインでプレイしますか? Yes or No』


 もちろん僕は攻略対象でプレイするつもりだからNoを選択する。さて、次から攻略対象を選択できるは……ず?


『チュートリアルを開始します』


・呆然としてて草

・やっぱり知らなかったのか

・レイ:ふははは! 騙されたな! ヒロイン以外に操作できるキャラは一つだけなのだ!

・やはり確信犯


「え? え?」


・戸惑ってる表情も尊いです! 大丈夫! 怖くないですよ!


 てっきり好きな攻略対象を操作できると思っていた僕が呆然としている間に辺りが真っ暗になった。


 ―――


『ん、ここはどこかしら?』


 !? 僕の声が可愛くなってる!?


「ドロップ様。いかがなさいましたか?」


 この人は……侍女さんかな?


『わたくしの言うことにふまんがあるのかしら?』

(いえ、なんでもないですよ)


 あれ? 考えていたことと口に出てきた言葉が微妙に違う……?


「申し訳ございません。そのような意は含まれておりませぬゆえご容赦を」


 僕が自分の言葉遣いに戸惑っていると侍女が青褪あおざめて震え出した。ど、どうしよう。はやく宥めないと。


『いつまでそうしてるつもりなのかしら。さっさとそとにで出ていきなさい』

(楽にしてください。それと、確認したいことがあるので一人にしてくれますか?)


「は、はい。し、失礼いたします」


 侍女さんがかわいそうなほど震えつつ退席していった。ご、ごめんね?


『これでじゃまものはいなくなったわ。これでわたくしのすばらしさをさいかくにんできるわね! ま、かくにんしなくとも分かりきったことですけれど。おーほっほっほ!』

(申し訳ないけどこれで一人になれたよ。何のキャラが選ばれたのか確認できるね。なんとなく何のキャラかは察してるけどね。ははは……)


 ……もう何も言うまい。あ! 早くコメントを表示しよう。


・ドロップ様に踏まれたい……!

・私は罵られたい!

・レイ:どうしよう。新しい扉を開きそうなんだが!?


 ……そっとコメントを非表示にする。見なかったことにしよう。


『まったく、へんたいが多いわね。きもちわるいわ』

(はぁ、思っていた以上に変態が多いのかもしれない。理解できないんだけど!?)


 次にステータスを確認する。


―――

名前:ドロップ

年齢:6歳

称号:ラメリア公爵令嬢

特性:極悪非道

好感度:???

―――


 名前は最初に設定したドロップ・ラメリア。ラメリア公爵家の令嬢だね。年齢は花も恥じらう16……6歳!? だから上手に話せないんだね。


 …………。やっぱり公爵令嬢だったか。これってもしかしなくても悪役令嬢では!?


『どういうことよ! あくやくれいじょうだなんて聞いてないわよ! そ、それともこうりゃくたいしょうの中にれいじょうもふくまれるのかしら?』


 そして特性って何!? 乙女ゲームにあるまじき字面なんだけど!?

 先ほどそっ閉じしたコメントを再表示する。


・ドロップ様! もう一度罵ってください!

・睨んで! 蔑んだ目線をこっちに!

・カメラグッジョブ! 分かってるね!


 思わず顔が引きつる。視聴者ってこんな人ばかりなの!?


『こほんっ。なぜかくちょうが変わってるけどこのまま話しかけるわね』


・レイ:ふっふっふ。それがチュートリアル補正! 神の補正なり! 舌っ足らずのドロップ様はぁはぁ

・レイがやばい奴だった件

・察してる人は察してたぞ?


 話が進まないね。……そうだ。カメラを一時的にマニュアルにして足元に移動させて……。


『話を聞かない子はおしおきよ?』


 カメラに向かって思いっきり踏みつけるふりをする。どうだ! これで怖くて話を聞くようになるよね?


・あーっ! お客様! 困ります! いけません! センシティブですよ!

・もうちょっと! もうちょっと右に!

・ふぉぉぉ! お金を払えばいいですか? 払えばいいんですね?

・ドロップ様エチチ過ぎです。ご褒美ですか? ご褒美ですね?


『この人たちもういや』


 お姉ちゃん曰く神の補正とやらがかかってるはずなのに涙目になってくる。


・ちょっと男子~! ドロップ様泣かせたな?

・ドロップ様の涙顔が見れると聞いて!

・ドロップ様信者が増えてるの草


『は・な・し・を・聞きなさーい! わたくしをだれだと思ってるの! ラメリアこうしゃくけのれいじょうなのよ!』


・レイ:出た! ラメリア様の決めゼリフ!

・地団駄可愛い。もっとやって!


「お、お嬢様? どうかなさいましたか?」

『はぁ、はぁ、何でもないわ。用があるときはすずをならすからそれまでは外でまってなさい』

「は、はい! 差し出がましいことを失礼致しました」


 思わずコメントに対して言い返していると不審に思った侍女が外から声をかけてきた。私の機嫌を損ねたと思ったのか声が震えてる……。本当にごめんね?


・せんせー。ドロップ様の吐息がえっちいです

・ドロップ様! 僕にも命令してください


 ……前途多難な予感がするよ。あはははは。

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