第4話 乙女ゲームは始まらない
お姉ちゃんに乙女ゲームをやらされることになった翌日。いつものように幼馴染の涙ちゃんと登校すると合流して直ぐに突っ込まれたくないことを突いてきた。
「雫君悩み事でもあるの?」
さすが幼馴染だけあって僕が緊張してることに気付いたみたい。でも僕が配信者であることはまだ隠してるし全部は言えないかな。
「分かっちゃう? うん。えへへ。涙ちゃんのことは誤魔化せないね」
「ちゃんと見てるからね」
一瞬だけ背筋がゾクっとしたけど気のせいだよね。横顔を見るといつも通り綺麗で……か、可愛い顔だ。僕と違って暗い感情とは無縁なんだろうな。
不自然だったはずなのに細かいことは気付かなかったように励ましてくれる涙ちゃんはやっぱり凄い! 学校でもモテモテなのも納得だよね。……涙ちゃんに彼氏ができたらこうやって一緒に登下校することも無くなるのかな? それはちょっと嫌だな……。
―――
学校はいつも通り涙ちゃんに注目が集まってる中、僕はひっそりと端役として過ごしていた。今日はお姉ちゃんの配信が早い時間にあるから僕の配信準備をしつつお姉ちゃんの配信を見る。といっても時間の関係上途中までしか見れないんだけどね。
「こんばんレイー! 今日もチャンネル・ゼロに来てくれてありがとう! なんとなんと! 今日は最後に発表があるよ! 心して待っててね!」
最後の発表は僕の配信のことかな? お姉ちゃんの事だからドロップの視聴者を増やすためにしてくれるんだろうな。……お姉ちゃんの配信に慣れてる人たちが来るの!? 緊張しちゃうな。
途中まで乙女ゲームの配信で気を付けることをお姉ちゃんの配信を通して学ぶ。
「今日はここまで! ということで最初に告知した通り発表があるよ!」
よし、そろそろ配信のスタンバイをしよう。お姉ちゃんの配信を止めて僕の配信待機画面へと移動する。き、緊張してきた。
・一番もらい! 全裸待機!
・服を着てもろて
・男がやる乙女ゲームか。どんな感じになるのか楽しみ
スタンバイ画面に続々とコメントが流れ始める。ひぇっ! いつもの数百倍の人数が見てる! はぁはぁ。どうしよう。緊張で逃げたくなってきた。
「お姉ちゃんが来たぞ! 雫! 息してるか!」
「お、ねえ、ちゃん?」
「やっぱり緊張してわね。落ち着いて深呼吸しなさい。ほら合わせて」
「「ヒッヒッフー。ヒッヒッフー」」
「ってラマーズ法だよ! 違うでしょう!」
「でも緊張はとれたでしょう?」
「ほんとだ! 流石お姉ちゃん! すごいっ!」
本気で間違えたのかと思ったけどそんなことは無かったね。僕の為を想ってわざと間違えたんだね!
「ありがとう。頑張ってやってくるよ」
「ええ、一皮むけた姿を見せてちょうだい」
「うん! 行ってきます!」
専用のギアを装着してVRの世界に入る。光と影の
―――
「皆様こんばんは。ドロップのチャンネルへようこそ! 来ていただきありがとうございます!」
配信開始の挨拶をすると視界の端にコメントが流れ始める。
・レイのチャンネルからきましたー
・wktk
・ドロップ様ー! 今日も頑張ってください!
今までに見たことがない量のコメントが怒涛のように流れていく。は、話すタイミングが……。
・固まってる?
・故障? 大丈夫?
はっ! このままじゃまた視聴者が離れていってしまう……。
・レイ:落ち着けー。ほら深呼吸だ深呼吸
・いつもと同じでいいんだよ! 頑張って!
・レイが来た!
・大物が襲来した! ドロップ逃げて!!
・いや待て、すでにスパナついてるぞ! つまりもう て お く れ
・レイ:バンして欲しい人がいるみたいだね?
「レイお姉ちゃん! 勝手にバンしちゃダメだよ!」
スパナを付けるということはモデレーターになって貰うということ。配信者の先輩であるお姉ちゃんは配信者の先生としても一から全てを教わっており、僕の為にも初回の配信からモデレーターになって貰っているんだ。
・レイ:分かった。バンしない
・素直で草
・あのレイを抑え込めるとかぐう有能
お姉ちゃんありがとう。おかげで少し緊張が取れてきた。場もあったまったしこれなら噛まずに話せそうだ。
「ふぅ、ごめんなさい。視聴者さんが多くてびっくりしちゃいました。あ、改めて、よろしくお願いしましゅ!」
速攻でフラグを回収してどうするの! しかも心の中で建てたフラグだったから視聴者にも伝わってないや。
・丁寧なあいさつ+100点
・噛み噛みポイント+2000点
・出たな採点ニキ
・ちゃんと謝れる良い子や……
・可愛いんですけど? 私もお姉ちゃんって呼んで欲しい!
なんて良い人が多いんだろう! 知らない人が多くて緊張してたけどこれなら乗り切れそう!
「今日からしばらく光と影の
・乙女ゲームかどっちでやるのかな?
・最近では男の子も乙女ゲームをやるんですね!
・レイ:私が勧めた! 敬いたまえ!
・ははー
・ははー
「レイお姉ちゃん? 人のチャンネルを乗っ取らないでくれる?」
・レイ:ドロップよ。これは姉からの愛ある試験なのだ。乗り越えてみせよ!
「体のいい事言って暴れたいだけでしょ? 落ち着かないと……ね?」
・ひぇっ
・ひぇっ
・レイ:ひぇっ
・ひぇっ
うんうん。言葉には出せないけどお姉ちゃんは生活能力が皆無だから掃除や料理は僕か両親がする。両親は仕事で遅いことが多いから夕食は僕が担っているんだ。つまりお姉ちゃんが食事をするためには僕に逆らえない。ふふふ。
・いつから始めるの?
あっ! 忘れてた。そろそろ始めないとね。
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