第3話 幼馴染は配信者

「これで今日の配信を終わります。ありがとうございました。また見てください」


「今日も素敵でした! 尊い!」


 はぁー。今日も雫君が尊かったわ。うふふふふ。これで今日も生きていけるわね。


・ちょっと真面目過ぎるかな?


「わざわざ言わなくて良いことでしょうが! ドロップ様がしゅんとしてるでじゃない!」


 雫君がしゅんとしてるじゃない! そんなやつは出禁にしましょう。絶許よ絶許。なんで私はモデレーターじゃないのよ! 私がモデレーターなら雫君を傷つける悪いコメントは私が片っ端から削除してあげるのに! モデレーターになると不適切なコメントを削除したり悪い態度の視聴者を出禁バンしたりできるの。


「ぐすん。今日は ありがとうございました。また明日も来てください」


「泣き顔も尊い! 神回!」


 見た? 可愛くない? 泣き顔すら可愛い! やばいな。語彙力が死んでる。でも仕方ない! なぜなら雫君が可愛いから!


 エンドカードが終わり、次の動画に切り替わるまでしっかりと画面を見てからパソコンから離れる。


 そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前は秋風あきかぜ るい。雫君の幼馴染よ。


 雫君と一緒に学校に行き、雫君と一緒に授業を受け、雫君と一緒に家に帰り……思春期なのか最近では部屋に入れてくれなくなっちゃったからリビングで一緒に勉強をして、雫君が料理をしている間にお掃除お宝探しをする。

 え? お宝探しはなにかって? 乙女に何を言わせようとしてるのよ! 乙女の秘密を暴こうとする人は地獄に落ちなさい!


 こほん。未来の義姉様である零さんや義父様、義母様と五人で食事を楽しんだら私の家に帰ってから雫君の配信を見るのが日課なの。


 雫君の隣に立つ女としてふさわしくなるために! 今日も自分磨きをしていくわ!


 ―――


 次の日、両親と共に朝食を食べたら私と雫君、二人分のお弁当を作ってから雫君の家に迎えに行く。


「いつもありがとねぇ」

「いえ、雫君と一緒に登校するの楽しいですから!」

「涙ちゃんおはようございます」

「雫君おはよう!」


 可愛くみえるように意識して笑顔で雫君に挨拶をする。いつか涙って呼び捨てされたりするのかな? そしたら私も雫って……いや、あなたって呼ぶ方が喜ぶかな? うふふふふ。


「涙ちゃん。早く行こう」

「はっ! そうだね」


 危ない危ない。乙女として見せられない顔をするところだったわ。私があんな妄想していたなんて気付かれていないわよね? ちらりと雫君の横顔を盗み見る。はわぁ。可愛さと凛々しさが同居していて今日も尊い! ……ん?


「雫君悩み事でもあるの?」


 雫君を悩ませてる人は誰? ちゃんとばれないように処理するからね!


「分かっちゃう? うん。えへへ。涙ちゃんのことは誤魔化せないね」

「ちゃんと見てるからね」


 世界で一番の理解者は私ですよ! あなたのお嫁さんにどうですか! きゃっ! ……はっ! ちゃんと雫君の悩みの種を聞き出して排除しないと。だからもちろん雫君もずっと私の事を見るんですよ?


「えっとね。今の僕には男らしくなるための試練が立ちふさがっていて……。今日から頑張ることになったんだけどちょっと緊張しちゃって」


 私にはピーンと来ましたよ! きっと明日からの配信で雫君は一皮剥けるのです! 楽しみだ。うふふ。そっか、なら私は良妻として見守ってあげましょう。


「詳しいことは分からないけど雫君ならきっと大丈夫だと思うわ」

「えへへ。涙ちゃんにそう言ってもらえると頑張れる気がするよ」


 聞きましたか奥さん! 私の雫君が可愛い! はっ! ちょっと気が早いかしら。ま、雫君が尊いからなんでもいいわ。


「応援してるからね」


 雫君は配信してることを隠してるから具体的な会話はできないけれど、コメントでもいっぱい応援してあげるからね!


 ―――


 今日も幸せだった……。授業では雫君の横顔も見れたしお昼ご飯も一緒に食べられたわ。

 ただお昼の時間にクラスメイトの視線が雫君・・に集まっていたから雫君が取られないかちょっと心配。雫君がよそ見しないようにもっと自分磨きをしておきましょう。雫君は私の夫よ? うふふふふ。


 今日は零義姉様が雫君よりも先に配信をする日なの。普段は二人して同じ時間に配信しているから雫君の配信をリアタイで見て零義姉様の配信はアーカイブで見ているのだけど、たまに配信時間がずれることがあるのよ。今日は二人ともリアタイで見れるわね。


 パソコンを立ち上げてYuuTubeを起動して零義姉様の待機画面を開く。もう少しで始まるみたいね。


「こんばんレイー! 今日もチャンネル・ゼロに来てくれてありがとう! なんとなんと! 今日は最後に発表があるよ! 心して待っててね!」


 はっ! 乙女の勘が言っている。この発表は雫君のことだ! 今朝言ってた試練のことね。雫君に関する情報なら絶対に聞かなくては!


「この攻略対象は……」


 零義姉様は乙女ゲームをやるときに細かな解説を入れる。それは幼少期の背景であったり考えられる今のヒロインに対する感情であったり。ひけらかす言い方ではなくあくまで自然なタイミングで面白い情報を入れている。


・オタク語りきちゃ

・辛辣で草

・そこで止めるの?


「ふっふっふ。もっと知りたければ自分でやりなさい! 私の実況を見ていたならできるはずよ!」


 零義姉様とコメントとの掛け合いが途切れない。今コメントしてる人達も雫君の配信でコメントして欲しいわね。うーん、今日の雫君の配信はなにかしら。


 雫君は今頃配信の準備をしているでしょうね。きっと予習も完璧に済ませて後は配信開始のボタンを押すだけにしてるはず。うふふ。楽しみね。


「今日はここまで! ということで最初に告知した通り発表があるよ!」


・88888888

・待ってた

・ワクワク


 おっと、雫君の事を考えてたら配信が終わっちゃったわ。でも重大発表には間に合ったわ。さて、なにかしらね。


「実は、私の可愛い可愛い弟分が乙女ゲームをやります!」


・結局乙女ゲームwww

・知ってたwww


「ドロップ様の乙女ゲームですと!?」


「お、知ってる人がいるね! そう、私の弟分のドロップ君が乙女ゲームをするんです! 絶対に可愛いからぜひ見てあげて!」


 絶対に尊いやつだ! でも良く乙女ゲームをやることにしたわね。男らしさからかけ離れてると思うのだけど……。あ。だから試練って言ってたのかしら?


・姉バカ

・姉バカ

・一応楽しみにしておこうかな?


「ちなみに乙女ゲーム初回は今日、私の配信が終わったらすぐ始まるからね! やるゲームの名前は光と影の協奏曲コンチェルトでドロップにはヒロイン以外のその他のキャラを扱えるって教えてあるよ!」


・あっ……

・あっ……(察し)

・あっ……(察し)

・ワロち


「よ、よくドロップ様を騙したな! だがよくやった!」


・ドロップ信者がいるぞ

・怒ってるのかと思いきや褒めてるwww


 さすが零義姉様。きっと攻略対象側で遊べると勘違いさせたのでしょう。もし嘘を吐いて騙していたらギルティだけど雫君が勘違いしちゃったらそれは仕方ないことよね?


 さっ! 雫君の可愛い姿を見せて貰いましょう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る