第2話 僕は弱小配信者

「これで今日の配信を終わります。ありがとうございました。また見てください」


・今日も素敵でした! 尊い!

・うーん。お疲れさまでした

・ちょっと真面目過ぎるかな?

・わざわざ言わなくて良いことでしょうが! ドロップ様がしゅんとしてるでじゃない!

・信者は帰ってもろてええかな?


「僕が悪いから。ごめんなさい……」


・謝れて偉い! けど真面目か!

・もうちょっと柔らかければねー


「うう」


・泣いてる? 放送事故?

・真面目過ぎなんだよなー。この程度で泣いちゃうのは配信者に向いてないんじゃない?


「ぐすん。今日は ありがとうございました。また明日も来てください」


・泣き顔も尊い! 神回!

・もうちょっと会話力高めてもろて。真面目だけじゃダメだよ


 ―――


 涙で前が見えないけど頑張って画面を操作して配信を停止する。今日視聴者の数が減っていた。久々に十話を超えるシリーズ物の配信の最終回だったのに……。途中で視聴者数が減ってるのを見て泣いちゃった。


「僕は配信者としての才能が無いのかな?」


 僕の名前は真廣まひろ しずく。ドロップという名前で配信者をやっている。人気配信者である姉のれいの姿に憧れてゲーム実況を始めたんだ。でもお姉ちゃん以外には内緒にしてる。人気が出たら他の人にもカミングアウトするつもりだよ。


 僕は見た目が女の子みたいと言われていたからカッコいい男になるためにフィットネスゲームや頭脳ゲーム。はたまた王道RPGのゲームを配信している。

 でも、僕の視聴者層は可愛い女の子が男らしいゲームをやる姿を求めていたらしく僕が男だと分かった瞬間に離れていく。残った視聴者達も真面目過ぎる。楽しませようとする心意気が感じられないといって離れてしまう。もう残ってるのは数人だけなんだ。

 一人だけ初回の放送から一回も休まずに見に来てくれる人がいるんだけど……。申し訳ないけどちょっと怖い。よく他の視聴者ともレスバしてるし尊いとかよく分からない言葉を連呼しているんだよね。


 涙を拭い今後の活動をどうするか考える。ここまで来たらもう自棄だ。次のシリーズ物を最後にして人気が出なかったら諦めて配信者を止めよう。でもその前に……お姉ちゃんに相談してみようかな。


 お姉ちゃんの部屋の前に立ってドアをノックする。


「お姉ちゃん。ちょっといいかな?」

「おう、入っていいぞ」

「うん。お邪魔します」


 お姉ちゃんの合図を待ってから部屋の中に入る。

 どうやら僕と同じように先ほどまで配信していたようだ。お姉ちゃん配信終了後の画面には僕の配信とは比べ物にならないくらいのコメントが流れていた。羨ましい……。


「どうした雫。涙に告白でもするのか?」

「へうっ?」


 どんなコメントがあるのか読もうとしていたら突然お姉ちゃんにからかわれて顔が熱くなる。


 涙ちゃんは私の幼馴染でこんな僕とも仲良くしてくれている女の子で、学校で一番可愛くて心優しいクラスのアイドルだ。

 非公式にファンクラブもあって僕もこっそりファンクラブに入っている。どうしてなのかは誰も教えてくれないけど僕の会員ナンバーは特別な番号なんだって。


 お姉ちゃんを見てみると顔面が崩壊してる。お姉ちゃんの顔は崩壊していても整ってるなんて美人はお得だね。


「はっ! ちょっとお姉ちゃん! 女の子がしちゃいけない顔をしてるよ!」

「配信してないからいいんだよ。その顔一つで視聴者を尊死させられるだろうに勿体ないね」

「ダメだよ。顔じゃなくてトークで楽しませてあげないと」


 思わず腕に力が入る。


 僕が憧れたのは視聴者達と楽しそうに語り合うお姉ちゃんの姿。ちやほやされたいわけじゃないんだ。……ちょっとはちやほやされたい思いもあるけどね。


 ってそうじゃない。今はお姉ちゃんに相談しにきたんだった。


「あのね。最近僕の視聴者がどんどん離れちゃって……。次のコンテンツを終えても人気がでなかったら……諦めようと思うんだ」


 言った。言っちゃったよ。目標だったお姉ちゃんに諦める宣言をするのは思っていた以上に辛い……。


「そのコンテンツはもう決めたの?」

「ううん。最後のコンテンツになりそうだからお姉ちゃんに決めて欲しくて……」


 お姉ちゃんの質問におねだりで返す。我儘だったかな?


「私に任せて! 実は雫にやって欲しいゲームがあるの!」


 勢いよく体を乗り出してくるお姉ちゃんに気圧される。圧が強すぎるよ!


「嫌な予感が……。あ、あくまで参考、そう参考程度だよ!」


 こういう時のお姉ちゃんは暴走することが多いんだ。先に気付いてよかった!


「お姉ちゃんは悲しいわぁ。男の子であれば一度口に出した発言は撤回しないと思うの」

「うっ」


 確かに予防線を張るなんて男らしくないかも……。でも危険な匂いがプンプンしてるんだよね。


「雫は女の子なのね」

「違うっ! 僕は男だ!」


 はっ! しまった! 反射的に答えてしまった。女顔のせいでからかわれる度に否定してるからつい……。


「なら私が決めたコンテンツで文句を言わないわね?」

「う、うん」


 もう反対できないや……。覚悟を、覚悟を決めないと……。うぅ。


 なんとか気持ちを整えてからお姉ちゃんを見ると鼻血をだしていた。


「お姉ちゃん鼻血でてるよ? 大丈夫?」

「大丈夫よ。大丈夫。ちょっと尊すぎただけだから」


 尊すぎる? そういえば今日の配信でもコメントで言ってた人がいたね。もしかして堅物すぎるってこと!? 


「尊い? 数少ないリアタイしてくれている子も良く言ってる言葉だね。どういう意味?」

「雫は気にしなくていいの。それよりも雫がやるべきコンテンツはこれよ!」


 誤魔化された……。やっぱり尊いってあまり良い意味じゃないんだ。


 えーっと。お姉ちゃんが手にもってるのは……。


「やっぱり乙女ゲーム……。男らしくないよ……」


 お姉ちゃんは乙女ゲームが大好きだから勧められる予感がしたんだよね。男らしくなくて嫌だなぁ。


「大丈夫よ。このゲームのコンセプトは男性も楽しめる乙女ゲームなの」


 本当に? 僕のことを騙そうとしてない? ちらっと確認するとお姉ちゃんは真面目な顔をしている。


「なんとこのゲームでは操作キャラを選べるの。ヒロインかその他のキャラ。流石にモブではないけどその他のキャラは始めるまでのお楽しみ! どう? 面白そうでしょう?」


 お姉ちゃんは本気で僕の事を考えてくれてたんだね。それなのに僕はお姉ちゃんを疑うなんて……。男らしくなかったね。


「他のキャラか。乙女ゲームと言ったら攻略対象者だよね? なりきっている間にカッコいい男になれるかな?」

「……きっとね」


 男らしくなるために! そしてお姉ちゃんのような人気配信者になるために! 明日から頑張るぞ!

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