ごめんなさい! 特性「極悪非道」のせいなんです! ~真面目な僕の悪役令嬢物語~

助谷 遼

チュートリアルをしよう

第1話 私は人気配信者

「今日は来てくれてありがとー! 明日は気分転換に乙女ゲームを配信するから見ていってね! では、おつレイ!」


・おつレイ!

・お疲れさまでしたー

・気分転換とは言わん

・いつものやつだな

・乙女ゲーの気分転換に別の乙女ゲーをする女

・それは気分転換なのか……?

・違うと思う

・ノー

・ではない

・いわないな

・満場一致で草


「うっさいわ! 同じジャンルだからといって一括りにするんじゃないよ! せめて息を合わせなさい!」


・まだいた

・猫が逃げてますよー


 ―――


 ちょっとしたレスバをしてから配信を終了する。激しい殴り合いは視聴者が離れていくけど簡単なおちょくりあいであれば視聴者も盛り上がる。私はこの微妙な境目をさがすのが得意なんだ。


「ふぅ、今日も好感触だね。明日も頑張ろっと」


 VRの世界からログアウトをして一息つく。今は配信もVRで行える時代だ。ゲームも時代に合わせて進化していて乙女ゲームであればヒロインになって攻略対象と直接触れ合うことが出来るし、RPGでは本当に勇者となって旅に出ることが出来る。ひと昔前だと画面越しでしか遊ぶことができなかったらしい。私は今の時代に生まれて幸せだね。


 私の名前は真廣まひろ れい。自分で言うのもなんだけどチャンネル登録200万人を突破するほどの人気を持つ配信者だ。主にゲーム実況や顔出し雑談をメインに配信している。


 コメントでもいじられたけど私はしょっちゅう乙女ゲームの配信をする。もちろん視聴者が飽きないようにあの手この手の工夫はしているし、最近ではVRになる前の乙女ゲームにまで手を出している。ま、明日は正統派の乙女ゲームなんだけどね! VRの乙女ゲームは久々だから楽しみだ。


「お姉ちゃん。ちょっといいかな?」


 次にやる予定の乙女ゲームに思いを馳せているとドアがノックされる。


「おう、入っていいぞ」

「うん。お邪魔します」


 馬鹿真面目に私が返事をするのを待ってから中に入ってくるのは真廣まひろ しずくだ。私よりも可愛い顔をしてるのは配信者として嫉妬するけど普段は目に入れても痛くないほど可愛い弟だ。目元が赤くなっているね。泣いてたのかな? 雫を泣かした馬鹿は後で絞めるとして……本人は隠そうとしてるみたいだから気付かなかったふりをしよう。


「どうした雫。るいに告白でもするのか?」

「へうっ?」


 雫の幼馴染である涙のことを出してからかうと雫は顔を真っ赤にして固まる。この顔をアップすればどれだけ赤スパが飛び交うのやら……。赤スパで殴られてさらに真っ赤になればお金儲けの永久機関が完成するわ。ぐへへ。


「はっ! ちょっとお姉ちゃん! 女の子がしちゃいけない顔をしてるよ!」

「配信してないからいいんだよ。その顔一つで視聴者を尊死させられるだろうに勿体ないね」

「ダメだよ。顔じゃなくてトークで楽しませてあげないと」


 むんっ。と力こぶを作ろうとする雫だけどひ弱なこの子には全くこぶができてない。動きもいちいち可愛いんだよな。真面目でさえなければ……。いや、ちょっとでも砕けた態度が取れれば人気がでるのにもったいない。


「あのね。最近僕の視聴者がどんどん離れちゃって……。次のコンテンツを終えても人気がでなかったら……諦めようと思うんだ」


 な、なんだってー!


 雫本人が言ったようにこの子も私の真似をして配信者をしている。自営業の私と違って高校に通いつつも健気に頑張っている姿は弟ながらにとても尊いのに……。雫が配信者を止めるなんて世界の損失だ! どうしても止めなければ! よし。次のコンテンツで雫の配信を盛り上げてやる!


「そのコンテンツはもう決めたの?」

「ううん。最後のコンテンツになりそうだからお姉ちゃんに決めて欲しくて……」


 なんて健気な弟なの? 可愛くない? なんで視聴者はこんなに尊い弟の配信を見ないの? 馬鹿じゃない?


「私に任せて! 実は雫にやって欲しいゲームがあるの!」

「嫌な予感が……。あ、あくまで参考、そう参考程度だよ!」


 ちっ、勘が良いわね。私が乙女ゲームと言い出すのを感じ取って予防線を張って来たわ。でも……。


「お姉ちゃんは悲しいわぁ。男の子であれば一度口に出した発言は撤回しないと思うの」

「うっ」

「雫は女の子なのね」

「違うっ! 僕は男だ!」


 ふっ! ちょろいわ! 我が弟ながら心配になるくらいちょろいわ!


「なら私が決めたコンテンツで文句を言わないわね?」

「う、うん」

「うっ」


 しょんぼりとした顔に私がダメージを受ける。私の弟にこんな顔をさせた奴出てこい! 誰だ!? はっ! 私か。雫が可愛すぎて混乱してしまった。私グッジョブ。


「お姉ちゃん鼻血でてるよ? 大丈夫?」

「大丈夫よ。大丈夫。ちょっと尊すぎただけだから」

「尊い? 数少ないリアタイしてくれている子も良く言ってる言葉だね。どういう意味?」

「雫は気にしなくていいの。それよりも雫がやるべきコンテンツはこれよ!」


 私が取り出したのは、光と影の協奏曲コンチェルトという名前の乙女ゲーム。世界初のVR乙女ゲームで、なんとヒロイン以外のキャラになることもできるゲームなのだ。


「やっぱり乙女ゲーム……。男らしくないよ……」

「大丈夫よ。このゲームのコンセプトは男性も楽しめる乙女ゲームなの」


 もちろんこれは大嘘だ。本当のコンセプトは善悪の華道。操作キャラとしてヒロインかその他悪役令嬢を選ぶことができるのだ。


「男性でも?」

「そうよ。つまり男らしい雫でも楽しめるの」


 疑わし気に見つめてくる雫が上目遣いになっていて顔が緩みそうになるけど我慢してキリッとした顔を作る。


「なんとこのゲームでは操作キャラを選べるの。ヒロインかその他のキャラ。流石にモブではないけどその他のキャラは始めるまでのお楽しみ! どう? 面白そうでしょう?」

「他のキャラか。乙女ゲームと言ったら攻略対象者だよね? なりきっている間にカッコいい男になれるかな?」

「……きっとね」


 にやり。私の思惑通り勘違いしてくれたわ。明日からの配信が楽しみね。私の配信でも宣伝しなくちゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る