第4話 (side P)ヒメの顔


Roku【つまり、オフ会ってこと?】

Hime【もちろんです】


 と、ここでロクさんのメッセージが止まった。きっと「ヒメちゃまからのオフ会のお誘い」に驚きすぎて、頭の情報処理がストップしてしまったのだろう……なんてね。

 三分ほど待っていてあげたら、再び返事が返ってきた。


Roku【それって他に誰が来るの?】

Hime【いえ。ヒメだけです】

Roku【二人だけで行くってこと?】

Hime【はい】

Roku【初対面で二人だけっていうのは、ちょっと……】


「うーん。そこが引っかかるのか」


 予想していなかった反応に首を捻る。

 ロクさんは思ってた以上に真面目な人みたいだ。

 コラボカフェに行って楽しくお話しして解散するだけ。密室に二人きりになるわけでもないし、心配することないと思うけどね。

 まあ「会いたくないくらいヒメちゃまのことが嫌い」って言われるよりはマシか。

 

Hime【ダメですか?】


 続けて思いつく限りの理由を一気に送りつける。ちなみに本音と建前の比率は半々だ。


Hime【でも、ヒメはロクさんと一緒に行きたいんです!】

Hime【ロクさんは『ミラ⭐︎ふり』にとっても詳しいとお聞きしました】

Hime【ヒメもアニメの一話目からずっと見てるので、たくさん語れる自信あります】

Hime【それに席を二人分予約してあるので、キャンセルするのは悲しいですし……】


 一度指を止めて相手の出方をうかがう。

 ここまでお願いして、それでも断られてしまったら今回は潔く諦めるつもりだ。豚カツさんみたいに逃げられてしまったら元も子もない。


 ドキドキしながら待っていると、ロクさんが「わかった」と了解してくれた。


Roku【一緒に行くよ】

Roku【予定空いてるし、キャンセルするのは心苦しいから】


 その言葉にホッと安堵の溜息が溢れる。

 豚カツさんの時の反省を生かせて良かった。やっぱり勝因は、思い切って自分から話しかけてみたことかな。


Hime【ありがとうございます!!】

Hime【すごく嬉しいです!】


 そしてドタキャンされないように、すかさず次の一手を講じる。


Hime【あ】

Hime【事前にヒメの顔、教えておきますね!】


 仕上げに自分でもよく盛れてると思う、自慢の一枚を送りつけた。



***



 勉強机に向かって宿題を片付けていると、スマホが小刻みに震えて画面がパッと光る。新しいメッセージが届いたみたいだ。

 送信者の名前を確認すると、自然と口角が上がった。


「意外と時間がかかったなぁ」


 私が自撮りを送った後、ロクさんから「すぐ用意するから待ってて!」と連絡があった。急いでないし、なんなら今日でなくてもいいって伝えたけど、既読はつかなかった。

 それから待つこと約一時間。

 ようやく満足のいく奇跡の一枚が撮れたらしい。


 早速、送られてきた画像をタップすると──


「うわぁ……」


 瞬間、私のスマホに地雷系ツインテールが現れた。


 目に刺さるくらい眩しいショッキングピンクの髪。

 色白な肌、ナイフのような鋭い視線を送る吊り目。涙袋に引かれた深みのある赤いシャドウ。

 真っ黒なマスクを着けてるから口元は分からないけど、こちらを睨みつけているように見える。でもピースしてるし私の気のせいかもしれない。

 他にも耳に付けてるピアスの数とか地雷系の服とか、色々と思うところはあるけれど。それよりも直視しなければならない事実がある。


「ロクさんって、女の子だったんだ……」

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