第3話 (side P)相談って何?
ギルドの掲示板に書かれた一文に、舌打ちを一つこぼす。
【 豚カツ がギルドを脱退しました】
「逃げられた……」
ギルマスさんに仲介役をお願いした矢先のことだった。曰く、「遠回しに仲良くできないかと聞いてみたら逃げられた」らしい。コミュニケーション下手くそかよ。
良好な関係を取り持ってもらおうと思ってたのに、当てが外れてしまった。
豚カツさんはまだ懐柔の余地がありそうだと思っていたんだけどな。
「まあ、あと一人残ってるから良いか」
***
大学受験を終えて暫くした春の日。
ソシャゲというものを始めて、一定のレベルに達したタイミングでギルドに加入した。
ハンドルネームは『ヒメちゃま』。
本名の『
そして気が付いたらギルドに君臨するオタサーの姫になっていた。
……いや。オタサーじゃないから、ギルドの姫かな?
最初はそんなつもりなかったのに、瞬く間に私はギルドの姫へと上り詰めた。というか周りのギルメンさんに持ち上げられた。
所属して数日でギルメンさん達と打ち解け、一週間後には姫プが板についてきた。
一ヶ月くらい経った頃、一部からの熱い要望で仕方なくオフ会を企画。当日は参加者たちを適当にあしらっていただけなのに、何故かみんな骨抜きになっていた。
流石にちょろすぎない? みんなの将来がちょっと不安になってきたよ。
で、今ではギルマスさんを含む、ギルメンさんのほとんどと仲良しになりました。めでたしめでたし。
──とは、ならないんだよなぁ。これが。
一方で私を良く思わない人たちもいる。
当たり前だ。ギルメンさんにたくさん素材集めと武器作りを手伝ってもらってるし、マルチバトルもかなり優遇してもらってるし……。
バトルの報酬として、参加者の一人しか貰えないすごくレアな武器を譲ってもらった時なんか、反感がすごかったなぁ。脱退者も続出しちゃった。
もちろん、私にも人の心があるから、ギルメンさんたちには申し訳ないと思ってはいる。
でもタイムパフォーマンスを考えると、このやり方が一番効率的にゲームできるんだよね。
それに私、ちやほやされるの好きだし。生き方は簡単に変えられるものじゃない。
「あ、返事来た」
スマホの画面を覗くと、次のターゲットから返事がきていた。
Roku【相談って何?】
彼は同じギルドのロクさん。必要最低限の会話しかしたことないけど、私のことをあまり良く思っていないらしい。
早速、キーボードに指を滑らせる。
Hime【ロクさん、お返事ありがとうございます!】
Hime【ロクさんは『魔法少女ミラクル⭐︎ふりる』ってご存知ですか?】
なんて聞いてるけど。ロクさんが『ミラ⭐︎ふり』を好きなことは既にリサーチ済みだ。
公式情報やファンアートをリポストしたり、日曜日の朝は欠かさずアニメの実況ツイートをしているらしい。
ギルドで仲の良い回鍋肉さんから教えてもらった情報だから間違いない。もしも嘘だったら……ただじゃおかない。
Hime【先日から『ミラ⭐︎ふり』のコラボカフェが始まっているのですが】
Hime【実は来週の日曜日に行こうと思っていて……】
Hime【もしご都合がよろしければ、ヒメと一緒に行ってもらえませんか?】
まずはロクさんと仲良くなるためにオフ会へ誘う。私への態度を軟化、及び「ちやほや」させる第一歩だ。
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