第13話 出会いと再会
俺とパメラお披露目パーティー。
貴族の子供。公爵家ともなればたかが誕生パーティーでも、多くの人がお祝いに参加してくれる。
前回とは違い、皆楽しそうにしている。あの襲撃を退けたことで、アレスは至って元気であり挨拶もただ拍手を送られただけ。
これが本来の姿……と、思えないのはメインであるはずの俺が主役になりきれていないのが原因だ。
前回は六歳の時に行われた。来賓の方々は、どうみても俺のことはそっちのけである
それはどうしてか?
母上の腕の中にいるアレックに皆は興味津々だからだ。
そりゃ確かに、今の俺は健康そのものだし病気にだってかかっていない。
お祝いの品も言葉も頂戴してるさ……だけど俺が目の前にいるというのに、後ろにいるアレックとパメラに感心を注いでいるってどういうことなんだよ。
今回の主役は俺。俺なんですけど?!
前回は、涙ながらにお祝いされていたことを考えると……いや、これはもはや認めるしかない。
父上たちからすれば小生意気なクソガキよりも、素直で笑顔が可愛いパメラと、純真無垢そのものであるアレックがいいに決まっている。
だってさ、パメラのドレス絶対俺のよりお金かけているよな?
何なんだよあのキラキラした宝石の数々。
そんなにつけていれば下品に思われても仕方ないのに、なんでああも美しいんだよ。
お前はそんなやつじゃなかっただろ?
「誕生日おめでとう、アレスくん」
パメラを見ていた俺にかけられた声。その聞き覚えのある声に、ハッとして見上げる。
それが誰なのか聞かなくても知っている。クーバルさん……その隣りにいるのは、ミーア。
鼓動は跳ね上がるように強く。ミーアから目が離せなくなっていた。
「ありがとうございます」
しかし、ミーアは頭を下げたまま俺を見ようとはしない。
ここにいても不思議じゃない、父上の友人であるクーバルさんがここにいるのだから、ミーアがここにいてもおかしくはない。
俺の婚約者になる人。俺が最も大事にしたい人。
脳裏に、あの真っ白な空間のことが映し出されていた。
「こちらは娘のミーア。挨拶をしなさい」
「はじめまして、ミーア・シルラーンと申し……」
出会えることは分かっていた、こんな所で出会えるとは思っていなかった。
始めてミーアと出会ったのは、あの馬車の出来事があったからだ。あんな恐怖を味あわせないようずっと考えていた。
この時間を俺はどれだけ待っていたか……やっと出会えた。
今度こそ隣で守るから。お前を悲しませないようにするから。
「あ、アレス様」
会場からは歓声とどよめく声が響き渡る。
再び出会えた喜びに、俺はとんでもない間違いをしていた。
彼女の真っ直ぐ見つめる瞳に、まるで吸い込まれるように抱きついてしまっていた。
子供とは言え、俺たちが婚約者になった経緯。あれは、隠し通せばどうにかなる問題だったが……これだけ多くの来客の中、俺はとんでもない過ちを犯してしまう。
我に返った俺の目の前には、鼻の頭がぶつかりそうなほど近くにクーバルさんの顔があった。
俺は慌てて、後ろへ下がるが……バランスを崩して転んでしまう。
これかなりやばいパターンだ。
なんでこんなミスをしてしまったんだ……持って色々と考えていたのに。こんなはずじゃなかったのに。
「アレス、君は一体何をしたのか、よく分かっているのかい?」
「さて、アレスくん。どういうつもりなのかね?」
指をバキバキ鳴らし、俺を見下ろすクーバルさんはこれまで見たこともない顔をしている。
殺すとか散々言われたけど、多分これはガチのやつだと思った。
「ごめんなさい」
突然のことなのに、ミーアは首を横に振りニッコリと笑顔を見せる。
社交辞令でないことを祈りたい。
「私なら、大丈夫です」
あー、うん。そうだね。
大変なのは俺の方だよな。後ろ襟を掴まれズルズルと引きずられ会場を後にする。
会場の中は、ヒソヒソと話し声が広がっていた。
これが婚約者になる切っ掛けになってくれるのならいいのだけど……引きずられていた俺を、姉上はパメラはまるで汚物を見るような視線を向けられていた。
「クーバル。君の怒りは最もだが……先のこの子と話をさせて欲しい」
「お前がそういうのなら、剣を研ぐぐらいの時間はやる」
「うん、ありがとう」
だから、ありがとうって感じじゃないよな。
この人は娘のことになるとマジで怖いんだよ。まてまて、今はそんなことよりもどうやって言い訳をするかが重要だ。
前回は不可抗力があったけど、今回はどう考えても俺が悪い。
部屋まで来るといつものアレかと思ったが、ソファの上に降ろされる。
父上が対面に座り俺を見てくるが、俺の視線は定まらず辺りをキョロキョロと見渡してしまう。
「さて、アレス? ずいぶん言い訳を考えているようだけど、そんなものが通用すると本気で思っている?」
「いや、アレにはその深い事情が……ありまして」
「言い訳をするのかな?」
父上や兄上に嘘をついて、その度に怒られて……家族皆にも心配をかけていたことばかりだ。
今の父上は俺のことを知ってもちゃんと息子として見てくれている。
『アレス。やっぱり君は自慢の息子だよ』
それは父上の口癖だと思っていた。馬鹿なことをしても、無茶ばかりして困らせても、褒める時はいつもそう言ってくれた。今になって思えば、本心だったのかもしれない。
目の前にいる人も父上であることに変わりはない、なら向き合うしかないだろ? 今回も父上には多くの迷惑をかける事になる。
叩かれたあの日から、俺は子供として父上は俺を見ていない。父上が言ったことだ……恥ずかしがることはないんだ。この世界で唯一俺を理解してくれる、父親なんだから。
「俺は、ミーアと出会えるのが楽しみでした。初めての出会いは、ここではありませんでした」
恐怖に怯えるミーア。
そうさせないように思っていたが、こんな不意打ちを予想していなかったから、俺はあんなことをしてしまった。
ただ純粋に、嬉しい気持ちが大きかった。
「時折見てしまう夢があって……」
「それでミーア嬢を抱きしめてしまったと?」
何度も見た夢。
あの白い世界の出来事。ミーアを抱きしめることは何度かあったものの……夢のように自然な形はなかったと思う。
「押さえつけ過ぎていて、理性よりも先に行動してしまいました。父上、ミーアとの婚約を進めてください。今度こそ守り抜きます」
「そうか。アレス、大事にするんだよ。いいね?」
父上は前かがみになり俺の頭に手を置く。
俺は嬉しくなって笑顔で返すと、額に強烈なデコピンを御見舞される。
なんでいきなり……
「何をするんですか!」
「応援だよ。私からも進めるけど、クーバルの説得は君にお願いするからね」
いやいや、それを父上にお願いしたいところなんですけど?
いきなり抱きついて、それで婚約させてくださいってハードルが高すぎませんか?
それに、あの人は平気で『殺す』とかいう人をどうやって説得するんだよ!
「終わったようだな」
父上がドアを開くと、既に剣を抜いているクーバルさんが入ってきた。
(ああ、うん。オワタ)
公爵家次男はちょっと変わりモノ?2.3 ~2度目の乙女ゲームは最恐令嬢が一緒です~ 松原 透 @erensiawind
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