第12話 新しい家族
パメラとその母親リダさんが、ローバン家に来て数ヶ月が経つ。
最初はかなり緊張していたパメラだったが、姉上が可愛がるものだから少しずつ笑顔を見せるようになっていた。
リダさんは使用人として働き、真面目な性格もあって使用人からの評判は悪くはない。
パメラが明るさを取り戻し、生活が落ちついたところ自体は急展開する。一度目はストラーデからヘーバインに家名が変わり俺の婚約者となった。だけど、今回はローバンの家名を名乗る事になった。
つまり、パメラは俺の義理の妹となった。
なんでこんなことになった?
父上はリダさんを説得して、説得と言うか提案すれば迷うこともなく了承していたんだよな。
『とはいえ、パメラの母親は貴方であることに変わりはありません。貴族の娘ではなく、自分の娘として接してあげてください』
さすが父上と思ったが……既にそういうことをしている人物がいるから、妙に納得してしまう。
パメラにはこれまでなかった貴族の娘として、立ち振舞から言葉遣い。様々に面倒事が押し付けられる。
前回はその厳しさであまりいい成果が得られず、槍術の訓練が優先された。
パメラをローバン公爵家の末の娘になり、ミュラたちの指導で思っていたよりも楽しくやっていた。
俺の提案してなかったことだけど、あんな姿を見れて父上だけでなく、母上の寛大さにも感謝するしかない。
父上に関しては貴族に迎え入れることで、パメラの持つ光属性を考慮しているのだろう。そうであってもなくても、パメラが居てくれることは俺にとって都合がいい、それは間違いない。
それはなぜか?
何をするにでも俺を連れ回していたあの姉上。今回はそれほど相手にされていないけど、姉上の興味は俺ではなくパメラに注がれ、毎日平穏に過ごせている。
パメラ、お前の犠牲は尊い。俺の代わりにあの暴君を頼んだ。
俺はのんびりとした生活を満喫するからな。
「それにしても……あの二人仲いいな」
窓の外から、楽しげな声が聞こえている。姉上とパメラがダンスの真似事をしてはしゃいでいる。
姉上のあんな顔、俺の前ではなかった気がする。
一時は俺付きだったミュラはパメラの侍女になり、二人を見守っている。セドラが以前のように俺付きになると思っていたが、ミュラは身籠っているのでミュラの隣を離れようとはしない。
ベルを使えば使用人がやってくるから、別に困るということはない。
「それにしても……仲いいな。あの凶暴さは今は潜んでいるってことなんだよな?」
* * *
更に一ヵ月、二ヶ月、月日が流れパメラは公爵家のご令嬢として立派に成長していく。
俺に関しては、両親は特に干渉もなく一日中ダラダラ過ごしていても咎められることはない。魔法訓練を始めても褒められることは一度もなかった。
屋敷で生活しているにも関わらず……ぼっちだった。
「そういや、ミュラの子供。あのセドラとミュラの強さからすれば、屋敷での使用人よりも冒険者として鍛えればかなり活躍しそうだな」
想像以上の逸材なのかもしれないな。場合によっては、兄上ですら手に焼く相手になるかもな。
生まれる頃には俺も四歳か、無事に生まれてくれるとそれだけでいいよな。
知らなかったこととは言え……セドラは俺に対してどう映っていたんだろうか。
愛する妻が身を挺して俺を守り、お腹の中には生まれてくるはずだったセドラとの子供。
あの襲撃は、アレスがあんなことになる切っ掛けだとおもっている。生死を常にさまよう体になって……二年。俺が転生した。
セドラの過保護は、俺と無くしてしまった子供を重ねていたのかもしれない。
「一度失敗したことで、再度襲われる可能性はある。ミュラだけではなく今はパメラもここにいる。あの頃の強さを早く手に入れたほうがいいのか?」
それだと、またダンジョンでの暮らしになる。本末転倒もいいところだ。
前回の俺はミーアとの婚約解消のために、ミーアを守るためにと、間違いばかりしていた。
「ダンジョンでなくてもできることはある」
魔力糸を使い、転がっていた大きめ石を空に向けて放り投げる。
風球を落ちてくる石に向けて放つ。繰り出された斬撃は五つ。
魔物を倒せば、レベルが上がり強くはなる。
ダンジョンに篭もり続け、魔物を倒しひたすらレベルを上げた。攻略の特典であるコアを破壊して、ステータスを上げ俺は強くなった。
独りよがりな、自己満足のためでしかなかった。
ゲームの世界でも、授業パートがある。たとえば、学園での剣術でも、研鑽を積むことでそれは強さへと変わる。
現時点で俺ができることと言えば、魔法の熟練度を高めること。そんな物はこのゲームにはないものだったが、使い続けることで魔法の構築は当たり前になり、改良もできる。
多くのゲームでは熟練度を上げるのに魔物との戦闘が必要になる。だけど、現実はそうではない。
今の魔力でも、八連撃出来てもいいぐらいだ。効率を上げるために、修練するだけだ。
「それにしても、俺には剣術の才能がまるでない。魔法であればそれなりに強いとは思うが……」
上の二人は剣術だけ見れば俺は到底かなわない。姉上もまだまだ子供なのにアレな強さ。兄上に至っては父上すら上回るほど強い。
なのに俺はなんでこうも魔法特化になっているんだ?
あの邪神ですらたった一人で倒した。
ゲームでもそうだったが……アレスは魔法がメインだ。
前衛はHPが高く、後衛はHPが低い。なんというか、設定が雑だよな。
本来であれば、強くてニューゲームはアイテムやステータスが最初から引き継がれる。可能性の話だが、俺が高等部に入学する頃にはあの強さに戻るのかもしれない。
そうならなかった場合、今から訓練をしておかないと……起こってしまう最悪の場面を、今度こそなんとかして見せる。
* * *
「お兄様、準備できましたか?」
「いや、それは俺でなく、準備をしてくれるメイドたちに聞いて欲しい」
「何を言っているのですか。ワガママばかり言うから遅れるのですよ」
我が妹にしてはなかなかに可愛い。兄上が父上の写し鏡であるように、パメラも姉上のようになるのではないかと心配したが、お淑やかで清楚可憐を描いた人物に成り変わっている。
なんかというか、アレとコレが同じパメラだって思うと違和感しかない。
今のパメラが婚約者という立ち位置にはならないのが救いだな。
「はいはい」
でもまぁ……口うるさいのは一緒だけどな。
俺は、左手を振りパメラに向こうに行けと合図を送る。ムッとした顔をすると、勢いよく扉が閉められる。
今日は五歳の誕生日で、同時にパメラのお披露目も用意されている。
後数ヶ月もすれば、俺がこの世界にやってきた時間になる。
弱々しいアレスではなく、たくましい姿を皆に見せることができるだろう。
「てか、なんでこうなるのかな」
ミュラの子供も無事に生まれ、今は二人の子供の相手をしている。
双子だったらいいのだけど……。
準備が整い皆が集まっている広間に入るが、誰も俺のことを気にしない。
ミュラの腕の中にいる子供、シード。
そのとなりに、母上の腕には俺の弟アレックがいる。
可愛いのは認める。アレックは可愛い、もちろんシードもだ。
だが! 弟ができるとか想定外だ!!
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