第11話 保護と誘拐

 俺とセドラは、父上たちを町の入口で待っていた。

 馬車でのんびりと進めば一週間はかかる道のりを、たった二日で街に到着。

 全力を出したとは言え、強くてニューゲームのはずなのに邪神を倒すほどの力はない。

 あの頃の俺であれば、一日かかるかどうか……それにしても、空を飛べる俺なら馬車なんていらないけど。


 父上たちは魔法は苦手で、身体能力なら少し使える程度。なのにあの異様な能力は、自身の身体能力なんだけど……だからと馬車を使わないなんて、何を考えているんだよ。

 俺が思っている以上に、俺の家族は化け物だった。父上と母上は、たぶん姉上に合わせている。

 監視目的でついてきたセドラ……一日違いでよく追いかけてきたな。


 でもさ……俺を発見してすぐ殴ることはないんじゃないの?

 そりゃ置いてきたことは悪かったけど。

 昨日のことを思い出し、頬を擦ってしまう。




 夕暮れになる頃、父上たちがようやく到着する。

 この家族に使用人たちも馬車で追いかけてきているが……本当に必要なのか?


「さすがアレスだね。でも、あまり飛んでばかりだと体力がつかないよ」


「あの父上。そんなことよりも、なぜ俺は縛られているのですか?」


 父上が到着し、セドラに指示することもなく収納から取り出した縄によって両親の手によって、ミノムシのように木にくくりつけられた。

 せめて頭は上にして欲しいのだけど……逃げようと思ったら逃げられるけど、その後のことを考えたくもない。


「そんな事を言うってことは、本当に何も理解できていないと解釈していいのかな?」


 あ……これやばいかも。

 父上でなく母上も完全に怒っている。確かに、セドラが居ないのをいいことに色々とやりすぎた。

 だけど、あれはいわゆる事故みたいなもので……仕方なかったと言って、納得してくれるかな?


「あ、あのですね。不憫な親子を助けるため、止むを得ない事情というか決して成り行きませかとかではなくて……申し訳ございませんでしたー!!」


 母上怖すぎる。自分の息子にダガーを突き付けるとか……いや、うん。ある程度は悪いことをしたと反省しよう。

 父上が俺の考えを読み取らないうちに、ここは反省したふりをする。


「セドラ、後で迎えに来るから。アレスのこと見張ってね」


「かしこまりました」


 ちょっと待て、俺をこのまま置き去りにするとか言わないよな?


「アレス様。そのままではお辛いでしょう」


 セドラは縄を切り、空中で受け止める。

 父上も嫌なことをあえていうから、一瞬魔法を使って逃げようかと思ったぞ。

 やれやれ、二度目の子供時代だというのにこれじゃ先が思いやられる。


「アレス様。どちらにいかれるおつもりですか?」


「どこって……街だけど?」


 セドラは何も言わず俺に後ろについてきた。

 全く脅すなんて、三歳児相手に何を考えているんだが……


 二人は父上が連れて行ったけど、任せておいて大丈夫なのか?

 あとを追いかけて屋敷に忍び込めば、セドラの見張りを振り切ることになる。そんな事すれば、さっきよりもキツイ罰があってもおかしくはない。

 高等部であれば、家を出ても何とかなるが……今はこんなだし。ダンジョンに篭ったところで、お金がなければ話にもならない。

 流石に今回も肉ばっかり食べたくはない。


「セドラ、あれ食べたい」


 屋台で焼かれていた、魚の匂いに釣られ走り出す。

 ここは港町。新鮮な魚が多く、きっと旨いに決まっている。

 

「はやくはやく」



  * * *



「これはこれは、ローバン公爵様。本日はどのような要件でこちらに?」


 アレスが街に繰り出している頃。アーク、ソフィ、フィールはストラーデ子爵のいる屋敷に来ていた。


「ただの家族旅行だよ。子供たちもまだ小さいからね、色々と見せてあげたくてね」


「はじめまして、フィール・ローバンです」


 ストラーデ子爵は、アークの言葉に笑顔をみせていたが……フィールの後ろにいる二人を見て、怪訝な顔つきに変わる。

 アレスが二人を保護といえば聞こえはいいが、実際はただの誘拐にすぎない。そして、ストラーデ子爵も一昨日この二人に何をしたか知らないはずもない。


 パメラのミスにより屋敷から追い出され、庭に放り出されていた。

 それを見ていたアレスは、二人を匿い町の外に連れて行く。翌日になりセドラが着いた時には、頭を抱える事態になっていた。

 過去の話を聞いていたから、アレスの取った行動も理解できなくはない。とは言え、侍女の真似事をさせられているパメラはこのストラーデ子爵の娘。このまま行けば問題にならないほうがおかしい。


「私の侍女がなにか粗相を?」


「偶然知り合ったこの二人を、うちの次男が大層気にいってね……ストラーデ子爵に折り入って頼みがある」


 アークはそう言って、布袋の中に何が入っているのかを分からせるように突き出す。それを理解したストラーデ子爵の眉が上がり、口角を上げて両手を差し出している。


「そういうことでしたか、この二人はうちの屋敷でも特に優秀で……娘の方もまだ幼いですが、きっとお役に立てることでしょう」


 よく口が回ると、ソフィはフィールの手を少し強く握ってしまう。

 服はボロボロ、アレスと同じ年の女の子に何ができる。


「お母様。私、庭を見て回りたいの。二人が案内してくれる?」


 フィールの言葉に、アークの視線にストラーデ子爵は頷き、ソフィも一緒になり部屋から出ていく。


「娘……あの子の父親にも挨拶をしたいのですが、お教え願えますか?」


「残念ですが、あの子。パメラの父親は漁師でして船の事故で……不憫に思い、私の屋敷で雇っていたのです」


 白々しい嘘をさも悲しむ様子で語る。

 しかし、その程度でアークの顔色は何一つ変わることはなかった。だが、本来父親であるストラーデ子爵は今の言葉によってそれを放棄した。


「そうか、それなら仕方ないとして……あの二人は今日から私の使用人ということでいいのかな?」


「も、もちろんでございますとも。公爵家の侍女であれば私のような子爵より、二人にとって今後の生活も安定することでしょう」


 アークの差し出した手に、満面の笑顔を見せていた。

 だがそれは、これ以上の介入をさせないため口止め料という名目で置かれたさっきと同等の布袋があったからだ。


「二人とも今までよく頑張ってくれた。これからはローバン公爵家に仕えなさい」


「ありがとうございました」


 これで正式に、二人はローバン家の侍女となりストラーデ家との縁は切れた。

 しかし、息子のためとは言えアークの顔色はあまり良くなかった。


「お疲れ様でした」


「正直いい気分ではないね。これでは、人身売買と何も変わらないよ……ソフィ、少し相談があるのだけどいいかな?」


「相談するまでもありません。私はアナタの妻ですよ?」


 そう言って、額をアークの胸に預ける。


「ありがとう、ソフィ」

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