第3話 アレスと姉上

 朝食を食べ終えて、屋敷の外に出てぽかぽかとした陽気を浴びる。前回とは違うこの状況を把握するにも、好き勝手に動けば何が起こるかわからない。

 こんな風にのんびりと過ごせる日もなかったし、いつの間にか昼食を食べる前に一眠りしていた。


「申し訳ございません」


 昼寝をしていた俺に、ミュラが毛布を用意してくれたようだった。

 寝ていたにも関わらず、安心できていなかったためか……俺の体は反射的に距離を取り、いつでも攻撃をできる体制を取っていた。


「あの、お体に触ると思いまして……」


「ごめん、ちょっとびっくりしただけだ。ありがとう」


 ベンチへ戻りミュラが持っていた毛布を受け取る。

 今の反応はまずかったな。あまり気にしていないようだけど、家に居るときぐらいは警戒しないようにできるといいな。

 とは言っても、今の状況に困惑しているから難しいか……ミュラの肩に背中を預けて昼寝を再開する。


「どうぞこちらを使ってくださいませ」


 俺の体を動かし、太ももを枕にしてくれる。

 子供の体には少し高い位置だったが、俺は頷きミュラにしたいようにさせた。




 目が覚めると、登っていた太陽は色を変え始めていた。

 流石にただ寝ている子供に付き合っていたら、使用人とは言え寝てしまうよな。

 かれられていた毛布をミュラにかけて、屋敷の中に戻っていく。


「セドラ。ミュラは外で寝ているが起きるまでそのままにしてあげて」


「なるほど……では、早速」


 拳を握りしめバキバキと音を鳴らしている。セドラは外へ向かっているが、何が早速なのかそれ以上追求したくはなかった。

 階段に上がろうとすると、外からは女性の悲鳴が聞こえた。本当に奥さんなんだよな?


 夕食が始まる頃には、かなり疲れた顔をしたミュラがやってくる。食堂に行くときも、ため息を何度か漏らしている。

 食事は家族揃っているものの、姉上は母上の隣で静かに食事を取っている。

 あの頃は隣でずっと見ていたはずの姉上。

 向かう会う姉上は俺を見ようとはしていない。


「アレス? どうかしたのかい?」


「いえ、なんでもないです」


 姉上は食事を済ませ、一言も話すこともなく出ていった。

 俺にベタベタとくっつき、監視をするかのように隣りにいたはずの姉上は俺をまるでいないもののように扱っている。


 索敵を展開して、姉上を探す。

 自室ではなく離れにある訓練場へ向かう姉上の反応を見つける。

 見に行きたいが父上や母上はともかく、俺が動けばミュラがついてくるので迂闊な行動はできそうにない。


 兄上がいないのは同じように学園に行っているのだろう。

 姉上は俺に挨拶をすれば返してくれるだけで、あの時のような暴走する感じは全くない。


 父上と母上はこれと言って大きな変化は見られない。姉上の反応はセドラ同様におかしいものを感じてしまう。

 事あるごとに構われていたし、夕食が終わったら部屋に来て入浴まで一緒にいるのが日課だ。


「なんなんだ、これは」


 俺も食事を終えて、父上たちに挨拶をしてから部屋に向かう。セドラではなく、あのミュラが昼間と同様に後をついてくる。

 姉上は相変わらず訓練場に残っている。


「どうかなされましたか?」


「ただの独り言だよ。暇をつぶすから、お茶を用意してくれる?」


「かしこまりました」


 本棚にある本を適当にとって、ソファに本を置いてからよじ登る。

 小さい体だとこういう時に困る。ベッドには踏み台があったからなんとかなるけど……なんでこっちにはなにもないんだよ。


 本を開き、書かれている文字は見慣れたもの。

 内容が頭の入ってくることもないがミュラが驚くような素振りを見せない。夢であるのならと何度も思ったが、昼寝をして前回の夢を見ていた当たりきっと現実で……あのゲームの二周目なんだろう。


「ミュラ、そろそろ寝るよ」


「はい。おやすみなさいませ」


 索敵を展開し、部屋の周りに誰も居ないことを確認する。

 窓を開けて、上空に飛び立つ。

 ローバン家の上空から見える街並み。これまでに見てきた光景。

 ここから見える全ての物が、あのゲームが元になっている。

 前回はシナリオはともかくとして、いろんな人達がゲームに出てきた登場人物と類似している。


 今回は前回と同様な始まりでなくなっている。

 セドラや姉上、そうなってしまった原因は俺にある。生死をさまよう病気を患い、あの夜に俺が転生をした。

 今の俺の体は健康そのもの。俺の知っている二人が違うのはそういう理由もあるのだろう。


「それに……この馬鹿げている魔力量」


 俺がこの景色を見たのは転生して何年も経ってから。当時の俺がこの景色を見ていない、見れるはずがない。

 冒険者というものを知り、それに憧れて剣術や魔法を学びセドラと一緒に訓練をした。それからミーアと出会い、それで初めてこの世界がどういうものかを理解した。

 それからというもの一人でダンジョンに通い、レベルを上げあの強さを身に付けた。


 ゲームの中であっても、現実であることも実感していた。

 それなのに……俺はまたこうしてこの場所にいる。

 以前よりも遥かにおかしな力を持ったまま。


「この魔力量は、タシムドリアンの時ぐらいか?」


 そこで導き出される答えは【強くてニューゲーム】だった。


 あのゲームを俺がプレイしていたのは、鬼畜的な難易度のため姉さんに無理やりプレイさせられていた。

 何度もゲームを最初からやり直し、あの結末を迎えた。

 そして、この機能があったおかげで姉さんは悠々と問題もなくゲームを進めていた。


「今の現状が強くてニューゲームなら、アイツラも同じなのか? 俺と同じように前回の強さを引き継いでこの世界にいるということか?」


 もしそうだというのなら、邪神に対抗できる?

 強者にも、俺一人で戦うこともなくミーアたちと……しかし、それでいいのか?

 今のまだこの程度だけど前回と同じように過ごせば、今度こそ本当に一人で成し遂げれるんじゃないのか?


「俺とミーアは、まだ婚約していない……だったら、このまま」


 エアシールドを展開していなかったため、体が冷えてきたからベッドに潜り込む。

 これからのことを考えているうちに俺は眠りについた。

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