静と動

 朝が来る。目を覚ますと駿也が私に覆いかぶさっている。俗に云うバックハグのような恰好だ。いつからだろう、雨が降ろうと熱帯夜が訪れようと巨大な寒波来ようと。朝、目が覚めると駿也は私に覆いかぶさっている。最近は寝相なのだろう思うことにしているが、駿也は起きている状態で甘えることがないのでこの寝相を見ても何も響かないのが現実。

 そんな朝っぱらから不埒なことを考えている私を客観視したら想像以上にみっともないだろう。一旦切り替えて顔を洗い朝ご飯を食べることにしよう。

 朝ご飯は基本各々で用意するようにしている。駿也が起きてようが寝ていようが朝ご飯は自分のしか作らない。駿也も然り。

 朝ご飯はパンにマーガリンを塗り、それをトーストしただけのものとヨーグルト。決して豪華や贅沢という言葉に近いとは言えない。だが、朝はこれくらいで充分だと思っている。

 質素な朝ご飯を食べ終えたタイミングで駿也が起きた。「おはよう。」と駿也が眠そうに言い、「おはよう。」と私はその眠そうに限りなく近づけて言った。

 「令子って今日一日家にいるんだっけ?」と駿也は私に訊ねた。

 「そうだよ。」と私は答えた。

 「どうして急に?」と私は訊き返したところで後悔した。これでは駿也を疑っているみたいではないか。

 「いや、別に。」と駿也は私の言葉に気づいているのかどうかわからないような口調で返した。見方によっては隠し事をしているようにも見える。

 あぁ、こんな疑心暗鬼では身も心も砕けてしまう気がする。

 そんなこと思っている後ろでは駿也が自分の朝ご飯の用意をしている。


 先程も言った通り、私は一日中家にいる予定だ。駿也が何を考えているのかはわからずじまいのまま彼は出掛けてしまった。

 何をするにも一人である。『咳をしても一人』とは正にこのことであるのかと肌で痛いほど感じる。

 そう考えても切りがない。もっと虚しくなるだけだと私は思い、取り敢えず動くことにした。

 まずは部屋の掃除を始めた。蒼天により青色に染まっている窓を開け放ち、換気をした。散らかった物を片付け、掃除機で塵を吸い取ると思ってた以上にスッキリし、なんだかそれだけで満足してしまった。その後は洗い物や昨日借りたCDをパソコンに取り込み自分のミュージックプレイヤーの同期することや、中学から愛用している自分のベースの埃を拭ったり、部屋の片隅にある駿也のギターを自分が左利きと知っていながらちゃっかり弾いてみたりした。意外に動くとスッキリすることを学び次は衣類の洗濯をしようと洗面所へ向かった。

 洗濯籠の中には昨夜から溜まった衣服が積まれている。二人暮らしだからそこまで洗濯物は出ない。洗濯機の蓋を開け衣服を入れる。が、私の手が止まってしまった。何故ならそこには駿也の服があるからだ。当たり前だ。それなのに、それなのに。

 私は呪われたように洗面所を出て炬燵に座った。

 考えても、考えてもその最果てには駿也がいる。喜ばしいことではないか。なんせ自分の一番好きな人が必ず出てくるのだもの。なのに、なのに。

 苦しい。辛い。駿也に対してこんなことを思うのは失礼、いや恋人失格である。

 涙が溢れ出てしまう。

 でも、考えても、考えても、

 考えても、

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