ドライヤー

 駿也が来た途端、携帯を見る気力が無くなった。

 これは私自身の人と話す時は携帯を見ないという癖なのかどうなのかはわからない。

 「めっちゃ温まった。冬場のお風呂は最高だ。」と寝間着の駿也は麦茶を飲みながら言った。

 「令子も入りな、気持いいよ。」と駿也は言う。

 「じゃあ次入るね。」と私は駿也に告げた。

 「いってらっしゃーい。」と駿也私に言う。

 私は自分の寝間着とバスタオルを準備してから服を脱ぎ、お風呂場に入った。

 お風呂場は駿也が上がったばかりだからまだ暖かくて湯気が立ち込めていた。

 お風呂の蓋を開けると更に湯気が湧き上がり、簡易的な蒸し風呂になった。

 掛け湯をし、湯船に浸かる。お湯が全身を包んでいく。私は自然と声を出している。

 駿也が言っていた通り、とても気持がいい。

 ある程度体が温まってきたら髪や体などを洗い、お風呂から出た。

 自分の体に付いている水滴をバスタオルで拭い、寝間着に着替える。そして髪を乾かす為にドライヤーを出した。プラグをコンセントに差す。電源を入れるとヴォーーーーーーーと強く熱い風と耳劈く音に包まれる。それを自分の肩下くらいまである髪に当てる。すると洗面所のドアの向こうから足音が聞こえる。ドアから顔を出したのは想像通り駿也だった。私はドライヤーの電源を切り駿也の方を向く。

 「髪乾かそっか?」と駿也は言った。

 「いいよ、自分でやる。」と私は断った。

 すると駿也は徐ろに私の前に立ち、「じゃあ、言い方を変える。貴女の髪を乾かしたいです。」と言った。

 本音を言うと私はその姿に少し嬉しくなった。

 「じゃあ、お願い。」と私はドライヤーを駿也に渡した。

 駿也はドライヤーの電源を入れ、私の髪に風を当てた。

 人に髪を乾かしてもらうのは小学校低学年以来で、懐かしく感じた。そして案外これも悪くないなと思った。

 数分が経ち、ドライヤーの音が止んだ。「一応乾いた感じはするけど、どう?」と駿也が私の髪を撫でながら訊いた。

 実際、自分でも髪に触るとお風呂上がりの髪質の理想に近い。

 「ありがとう。かなりいい感じ。」と駿也に告げると「それは良かった。」と微笑んだ。


 その後は二人でテレビを見たり、サークルの様子を駿也から聞いたりした。

 そして、私達は寝ることにした。

 ベッドは二人で寝るには丁度いいダブルベッドでベッドの直ぐ横には駿也が寝る前に稀に本を読むことがあるため簡易的なライトがある。

 寝る時は私も駿也も上を向いて寝ている。手は繋ぐが、恋人繋ぎではない。

 天井を仰ぐ、そのまま眼を閉じれば眠りに就けそうだが、駿也が気になる。駿也はいつも静かに寝る。寝息も無ければ歯軋りもない。ただただ静かに寝ている。私はそれを気にして鼻付近に手を翳したり、お腹に手を置いてみたりする。そして息をしているのを確認してから。私も寝る。

 深い深い眠りに就く。

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