フタバアオイ

冬と寒さ

 「じゃぁ、私行ってくるね。」と私は同棲人の駿也しゅんやに告げる。

 「外寒いから、ちゃんと上着着なよ。」とドアの向こうから駿也の声が聞こえる。

 「わかった。」と私はドアの向こうに届くような声で言った。

 外に出ると駿也が口にしていた通り寒いが、十二月にこの気温だと言われると納得がいく寒さではある。

 それにしても寒い、寒すぎて凍え死んでしまいそうだ。私はそう思った。実際にそれを駿也の前で言うと「そんないとも容易く死ぬなんて言わないでよ。」と私のことを叱る。それくらいわかっている。比喩であるのに駿也は汚れ一つ無い心で真に受ける。

 私が向かっているところは二十四時間営業の〈借りナイト〉というレンタルビデオやレンタルCDを主に取り扱っている店だ。

 大学生である私にとっては貴重な暇つぶす為の場所である。

 中の一階には本や雑誌、児童書、文房具などがあり、二階に進むとレンタルビデオ、レンタルCDがズラリと並んでいるコーナーがある。特に便利なのが二階のレンタルCDフロアに実際に店に並んでいるCDを試聴できるボックスがあり、それが無料であるところだ。私はお目当てのCDを持ってそのボックスに向かった。

 ボックスは一人用でそれが六つ横一列に並んでいる。中にはコンポとコンポに刺さったヘッドフォンがある。スピーカーが無いのは店内に音が漏れ出てしまうのと隣のボックスで試聴している人の邪魔になってしまうからだ。

 私は決まって左から一番目の店内の照明があまり届いていない薄暗いボックスを選ぶ。何故なら私と駿也が初めて会ったところだからだ。

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