石崎くん

 図書館で偶然会った石崎くんと私達は帰ることになった。

 私は石崎くんに対して疑問に思うことが一つあったがそのことを話せばよいかわからなかった。

 でも、疑問を解消したい為、私は「石崎くんの名字は『石崎』なのに何で表札には『田中』って書いてあったの?」と訊いた。きっとこの声は酷く震えているのだろうと想像するのは容易であった。

 「それよりも、君が今住んでる家の前に住んでた人のこと話そっか?」と石崎くんは私の話を遮ったが、そのことも気になりだした自分がいるのが見えてしまったから「わかった。聞かせて。」と言った。

 すると、石崎くんは大きく深呼吸した。私と石崎くんの間にいる肇もその真似をした。

 まだかな、と待っているうちに「あの家には五人の家族がいたの。」と急に話し出しだして少し戸惑った。

 「あの家には四人の家族がいたの。お父さんとお母さんと兄と妹で物凄く仲が良かった。兄弟喧嘩も無ければ夫婦喧嘩も無い。毎日温かいご飯が出てくるような家族だった。ご近所付き合いも良くて色んな人から幸せな家族って認識されてた。」滔々と喋る石崎くんの顔はとても楽しそうだった。

 「でも、そんな家族は失くなった。丁度一年前の夏。今日みたいな暑い夏にあの家に強盗が入った。その時お父さんとお母さんと妹が殺された。その殺し方が酷く残酷であの吹き抜けに首を吊られてたんだよ。その後強盗は家の金目の物を掻っ攫って行った。残った兄はというと塾に行っていて強盗に殺されることは無かったんだけど家に着いたらその強盗と鉢合わせちゃって。状況を飲み込めないまま兄はその強盗を追いかけた。強盗の腕を掴みはしたけど振り払われて中庭の蛇口に頭をぶつけて『ゴン』って音がなった。その音を聞いて隣の家の三人家族の『田中さん』が駆けつけた。最初はただの事故だと思っていたらしいけど、家の中を見た途端。やっぱり青ざめたらしい。でも、「隣人を助けなきゃ」っていう思いで救急車と警察を呼んだ。結局、兄以外の家族は死亡が確認されて、兄の方は頭を打った後遺症で時々酷い頭痛とか眩暈がするんだって。」そう話している石崎くんの顔はとても悲しそうだった。

 「今もその兄はとても寂しがってる。どれだけ楽しいこと考えても最後には家族のことを思い出すって言ってた。でもね最近嬉しいことが起きたって俺に伝えてくれたんだよ。」石崎くんの顔が少し明るくなった。

 「その嬉しいことって何?」と私はその場の流れに合った質問をした。

 「それはね、大切な人が出来たって言ってた。『その大切な人は今まで自分が住んでいた家に引っ越してきた人だ。』って言ってた。」と石崎くんはさり気なく言った。

 私は多大な情報量の中から分析をした。そして、その『兄』の大切な人は、、私?という結論に至った。確固たる自信は無いがそういうことになる。

 「ねぇ、その『兄』、の大切な人って、私?」と恐る恐る石崎くんに訊くと、「そうだよ。」と当たり前のことを言うように返した。

 「君を見ていると、家族のことを思い出すみたいなんだよね。」

 私はその『兄』は物凄く家族を大切にしてきた人なのだな。と想像した。

 「ねぇ石崎くん、その『兄』は今何処に孤児園にいるの?」と私は聞いた。もしよかったら会ってみたいと思ったからだ。

 そして石崎くんは「隣にいるよ。」と一言、空気を吐くように言った。

 「え?」と私は素っ頓狂な声を出した。いつの間にか家に着いている。

 それじゃあね〜。と石崎くんはドアの向こうに姿を消した。

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