三日前

 二月晴れの午後、母の容態は悪化していく。それを私は間近で見てきた。お兄ちゃんにはこの事は内緒だ。これは母と決めたことでお兄ちゃんが余計な心配を掛けないようにするためである。

 「晴月、元気だったかい?」と母が私に訊く。

 「何か疲れてそうだった。いつも以上に元気なかったよ。」と私は正直に答える。

 すると、「香代そこの机の上にあるデーブイデー取ってくれないか?」と私に言う。

 「これ?」と私はそのDVDを取り言う。

 「それを晴月の家の『ハリー・ポッター』に入れてくれないか?」と母は言った。

 渡されたのはDVDでそこには『母親の意思』と書いてある。きっと『賢者の石』と掛けているのだろうなと私は受け取った。

 「これ、結構傑作だよ〜」と母は笑う。

 「ふふん、何か面白そうだね。」と私は返す。

 「晴月には苦労を掛け放しだった。だから、これはお母さんの晴月への最後の言葉。」と母は自慢げに言う。

 母はお兄ちゃんのことがとても好きだ。私はそれに少し嫉妬している。誰にもバレないようにしてきたが、高校三年の時に「私は晴月も香代も大好きだよ。偏ったりなんてしてないよ。」と言われた。その時から母親には隠し事をしても意味がないと知ったから母親には全て話すようにしている。

 「お母さん、何でいつも私の思うこともお兄ちゃんの思うこともわかるの?」と聞いてみた。

 すると母は「えぇ?何を訊いてるんだい。そんなの顔見ればわかるよ。」と母は平然と言った。

 そんなに顔に出ているのか?と私は心配になったが、「冗談だよ冗談。そんな人の気持なんて顔だけじゃわかりっこないよ。」と母は言った。

 少し混乱した。

 「私があんた達二人の気持がわかるのは、あんた達の母親だからだよ。」と母は言った。

 「あんたが晴月のことを見ただけで『今日、疲れてるな』ってわかるのと同じように私だってあんた達のことは見ただけで大凡の検討はつく。」と母は言った。

 「それは何で?」と私は素朴な疑問を母に訊ねた。

 母は「それはね、あんた達の母親だから。私達はかぞくなんだよ。」と言った。

 私はその言葉を聞いた途端、涙が溢れ出た。

 そうなんだよね。家族なんだよ。私達は家族なんだよ。

 「おぉ、どうしたどうした。私が死ぬ前に泣くんじゃないよ。」と私のことを慰めていた母の顔は微笑みに満ちていた。

 やはり、母は笑顔が似合う人だなと私は心の底から思った。

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