魔王様、コラボ配信する

 窓に梅雨の雫が流れる。庭に咲く紫陽花あじさいは雨を喜んでいるかのように、青に染まり、葉は水を弾いている。私の心も紫陽花のようになれたら、雨を喜べるのだろうか。

 その時、ソラの背中に一滴の雫が垂れる。

「冷たい!」

 とっさに振り返るが、そこに誰もいない。上を見上げると、天井が雨に濡れて、ポツポツと雫が垂れていた。

「雨漏り」

 古い家だ。しょうがない。とはいえ、パソコンなど濡れて困るモノがある。雨漏りがひどくなるようなら、布団を敷いて寝ることもできない。マオさんに知らせよう。

 階段を降りると、マオさんとハルさんが、コップやお椀を持って、バタバタ走り回っていた。

「どうしたんですか?」

 魔王が言う。

「雨漏りだ」

 居間の上は二階部屋なので大丈夫だが、廊下や台所が、天井や梁から雨漏りしている。ふたりは、滴り落ちる雨粒の落ちるところに、お椀やカップなどを置いている。

「ハル。屋根は修理したんじゃなかったのか?」

「さすがに、雨が降り続くことは想定していませんでした」

「私の部屋も雨漏りがしてます」

「悪いがこっちも手一杯でな、自分で対応してもらえるか」

「わかりました」




 サムネイルは、五人の魔王が火花を散らし、世界が滅びるかの様な危機を、顔を青冷めて見る、稲葉とぶ。タイトルは『真の魔王・決定戦!』



稲羽とぶ●ライブ

 稲葉とぶ       「今日は、我こそが真の魔王だ! というみなさまにお集まりいただきました」

 壱百万歳魔王コレム  「我輩を呼ぶとは、殊勝な心がけだ」

 デモデモ・デモネス  「あたしを呼ぶときは、召還の儀式をしてくれる?」

 エレノア・セプテンバー「酒はないの?」

 魔王ロロム      「我こそが魔王だ~!」

 魔王コラプサー    「…」

 稲葉とぶ       「初登場の方もいらっしゃるので、自己紹介お願いします」

 壱百万歳魔王コレム  「いつか魔王になりたいと、日々努力している壱百萬歳魔王コレムだ」

 デモデモ・デモネス  「家にいるときは基本、素っ裸。エロいこと大好きデモデモ・デモネスよ」

 魔王ロロム      「小さいけど魔王だ。魔王ロロム」

 エレノア・セプテンバー「お酒大好き、エレノア・セプテンバー」

 魔王コラプサー    「魔界からこの異世界に転生した、魔王コラプサーだ」

 稲葉とぶ       「このメンバーで、初めましては、魔王コラプサーさんですね」

 魔王コラプサー    「コラボ配信は初めてだ。勝手がわからず迷惑をかけるかも知れないが、よろしくたのむ」

 稲葉とぶ       「よろしくお願いしま~す」

 壱百万歳魔王コレム  「よろしくたのむ」

 デモデモ・デモネス  「よろしくぅ」

 魔王ロロム      「よろ」

 エレノア・セプテンバー「たのまれた」

 稲葉とぶ       「礼儀正しい魔王様ですね」



 稲葉とぶ       「それでは、テーマにそって話を進めて行きましょう! 最初のテーマは『魔王って大変だなって思うこと』です」

 デモデモ・デモネス  「ない」

 稲羽とぶ       「即答」

 魔王ロロム      「あたしは、小さくてよくなめられる」

 デモデモ・デモネス  「ペロペロペロペロ」

 魔王ロロム      「そうじゃない!」

 エレノア・セプテンバー「ペロペロ」

 壱百萬歳魔王コレム  「ペロペロ」

 魔王ロロム      「なめるな~!」

 稲羽とぶ       「コラプサーさんはどうですか? 大変だったこと」

 魔王コラプサー    「魔界にいた時は特に大変なことはなかったな。むしろ転生してからの方が大変だ」

 稲羽とぶ       「どういう意味ですか?」

 魔王コラプサー    「今、住んでいる家の雨漏りがひどくてな」

 稲羽とぶ       「雨漏り!?」

 デモデモ・デモネス  「ずいぶんと安普請やすぶしんにお住まいなのね」

 魔王ロロム      「貧乏なの?」

 魔王コラプサー    「廃屋だったからな」

 デモデモ・デモネス  「やだ。ちゃんとした家に住めないの?」

 魔王コラプサー    「住民票が取れないからな」

 稲羽とぶ       「転生したからですね」

 魔王コラプサー    「そうだな」

 稲羽とぶ       「エレノアさんはどうですか?」

 エレノア・セプテンバー「酒代が大変」

 魔王ロロム      「それ自業自得」

 デモデモ・デモネス  「家計におけるアルコール係数高そうよね」

 エレノア・セプテンバー「食費より高い」

 稲羽とぶ       「身体壊さないようにしましょうね」



 稲葉とぶ       「次のテーマ行きましょう『魔王になって良かったって思うこと』です」

 デモデモ・デモネス  「酒池肉林」

 魔王ロロム      「眠い時に寝て、起きたい時に起きれる」

 エレノア・セプテンバー「目が覚めた時、日が暮れていた」

 魔王ロロム      「何時間でも寝ていられる」

 エレノア・セプテンバー「日付とか曜日とかの感覚がわからなくても問題ない」

 壱百萬歳魔王コレム  「我輩はまだ、その境地にいたっていない」

 魔王ロロム      「エレノアは、好きなだけ酒が飲めるでしょ」

 エレノア・セプテンバー「それもある」

 稲羽とぶ       「魔王コラプサーさんはどうですか?」

 魔王コラプサー    「人の社会を学べていることかな」

 デモデモ・デモネス  「まじめなご意見だこと」

 稲羽とぶ       「およそ魔王とは思えないご意見ですけど」

 魔王コラプサー    「魔界で魔王をしていた時は、特になにか感じることなく生きていたからな」

 デモデモ・デモネス  「もちろん、セックスについてもお勉強を?」

 魔王コラプサー    「セックスについてはまだだな」

 デモデモ・デモネス  「よろしかったら、お相手しましょうか」

 稲羽とぶ       「デモネスさん、自重してください」

 エレノア・セプテンバー「お酒は飲みますか」

 魔王コラプサー    「酒は良いな」

 エレノア・セプテンバー「ですよね~。ちなみに好きな酒の種類はなんですか?」

 魔王コラプサー    「純米大吟醸も美味いが、高いからな。最近はもっぱらビールだな」

 魔王ロロム      「お酒は強いの?」

 魔王コラプサー    「どうだろう。軍師よりは強いかな」

 エレノア・セプテンバー「今度、飲酒コラボ配信しましょう」

 魔王コラプサー    「よろしく頼む」



 稲葉とぶ       「そろそろ次のテーマいきましょう。『勇者ども、かかてこいや!』です」

 エレノア・セプテンバー「ヤダ」

 魔王ロロム      「嫌です」

 稲羽とぶ       「あれぇ。およそ魔王とは思えない回答が返ってきました」

 エレノア・セプテンバー「痛いの嫌だし」

 魔王ロロム      「喧嘩は良くない」

 デモデモ・デモネス  「かかってきたら、絡め捕るわ。それで、たっぷりなめ回してあげる」

 壱百萬歳魔王コレム 「我輩はまだ、魔王になるためのレベルアップ中だから、かかってこられたら倒されると思う」

 魔王ロロム      「みんな戦いたくないんだよ」

 エレノア・セプテンバー「そうそう」

 稲羽とぶ       「えーーーーーーっ! 魔王がそれでいいんですか?」

 魔王ロロム      「問題ない」

 稲羽とぶ       「コラプサーさんはどうですか?」

 魔王コラプサー    「勇者に倒されたからな」

 稲羽とぶ       「倒されちゃったんですか?」

 魔王コラプサー    「うむ。それでこの世界に転生したのだからな」

 魔王ロロム      「魔王っていうのは勇者に倒されるためにあるようなモノだからさ」

 エレノア・セプテンバー「ゲームでも魔王が死なないと終わらないし」



 稲葉とぶ       「なんか、この企画の根幹が揺らいできましたが、最後のテーマです『我こそ真の魔王だ!』」

 デモデモ・デモネス  「そんなの、あたしに決まってるでしょう。これほどエロいボディをしたデモネスこそ真の魔王よ」

 エレノア・セプテンバー「あんたエロいだけじゃん」

 デモデモ・デモネス  「そういうあんた、酒飲んでるだけじゃない」

 エレノア・セプテンバー「酒が美味いんだからしょうがない」

 壱百万歳魔王コレム  「我輩に決まってるだろう。なにしろ壱百万歳だぞ」

 デモデモ・デモネス  「あんたなんか、なんちゃって壱百万歳じゃないの」

 壱百万歳魔王コレム  「壱百万歳への道のりは、まだ始まったばかりだ」

 デモデモ・デモネス  「よちよち歩きの魔王様。お可愛いこと」

 魔王ロロム      「デモもお可愛いよね。ホラーゲームで絶叫してた」

 デモデモ・デモネス  「ホラーゲームは苦手なの。しょうがないでしょ」

 魔王ロロム      「ホラーゲーム苦手な魔王。草」

 デモデモ・デモネス  「おこちゃまに言われたくないわ」

 魔王ロロム      「おこちゃま言うな」

 デモデモ・デモネス  「ロロムだって絶叫してたじゃない」

 魔王ロロム      「ロロムはぁ、可愛いからいいんです」

 エレノア・セプテンバー「可愛いは正義」

 デモデモ・デモネス  「可愛い子は酔っぱらって、くだ吐かないわよぉ」

 エレノア・セプテンバー「魔王にもつらいことがあるんだよ」

 魔王ロロム      「酒でも飲まなきゃやってられるか」

 エレノア・セプテンバー「そうだそうだ」

 稲羽とぶ       「そろそろ、終わりです。最後に、コラプサーさん、どうぞ」

 魔王コラプサー    「初めて、コラボ配信させていただき、ありがとう」

 デモデモ・デモネス  「今度はオフラインでお会いしましょう」

 エレノア・セプテンバー「飲酒配信しましょう」

 稲羽とぶ       「以上! 真の魔王・決定戦でした」




 この配信を見ていたルナが、一計をめぐらす。

あかり、お願いがあるんだけど」



 天井から滴り落ちる水滴が、ぽちゃんとお椀に落ちる。ピチャン! と高い音が出るのはグラス。ポン! と低い音はお盆だ。魔王の家は、自然が奏でる音楽で満ちている。聴いているだけなら風流だが、生活に支障が出ていては、奏者をなんとかする必要がある。


「こんにちは」

 紫陽花の咲く庭に、ルナと望月もちづき あかりが立っている。

 ハルが出迎える。

「いらっしゃい。せっかく来てもらって悪いけど、今、お客様をあげる状況にありません」

「雨漏りですよね」

「魔王様の配信で知ったのですね」

「はい。その件で来ました」



 居間は上階があるので、雨漏りから免れている。そこに、魔王、ハル、ソラ、ルナ、輝の五人が会す。

「お茶も出せず、申し訳ない」

「いえ。非常事態なのは承知していますから」

「それで、雨漏りの件でなにかあると」

「はい。これを機に、引っ越されてはいかがでしょう?」

「ルナも知っていると思うが、我々は住民票が取れない」

「そこで、輝から提案があります」

「あたしが名義をお貸しするので、住居を借りましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る