第2話 女と焼肉

「焼肉を御馳走してくれるって言うから、焼き肉屋さんに連れて行ってくれるのかなって思った」


 図々しい奴だと、俺は内心ヨシミを罵った。

 お前に奢ってやる義理などない。


「たくさん、肉が手に入ってさ。俺の家の中で悪いけど、どんどん食べてくれ」

「ううん、コウくんの家がイヤだなんて、そう言っているわけじゃなくて」


 ヨシミは、ホットプレートの上でじゅうじゅうと音を立てて焼けている肉に、よだれを垂らしそうな顔でひっくり返した。

 そして、上目遣いで俺を見る。

 ああいやだ、こんな女と思う。太っていて、意地汚くて、しかも、この俺に惚れている身の程知らず。


 呼んだのは仕方が無く、だ。こんな事態に陥らなかったら、こんな女の事なんか一瞬たりとも思い浮かべるものか。


「ねえ、焼き肉一緒に食べている男女って、傍から見たら、デキているんだって思われちゃうんだって」

「へえ、そうなの」


 俺は曖昧に笑う。

 にたあ、とヨシミが笑う。笑うヒマがあったら食ってくれ、頼む。

 お前が役に立つのは、それぐらいのものだ。


「聞いたよ、ヤマダさんやタナカさんまで、この家に呼んでお肉を御馳走したんだって?」


 ぐちゃぐちゃと音を立てて、肉を咀嚼するヨシミ。

 汚い食べ方からそっと目を反らし、俺は頷いた。


「うん、日頃、あの二人にはお世話になっているからね」

「でも、この部屋の中で焼き肉ねえ。匂いはつくし、肉の脂でテーブルべったべた。あのリエが帰ってきたら、それこそ肉が焼けるような火ィ噴いて怒るわねえ。あの潔癖症女から、部屋に匂いつくのがイヤって、コウくん、タバコをやめさせられたんでしょ? 潔癖症というより、綺麗ノイローゼ、あそこまで行けばビョーキだよねえ、コウくん、よくあんな女と一緒に住めるよねえ」


 ここだけ、俺はヨシミと同感だった。

 何しろ、俺が絨毯にコーヒーを一滴こぼしただけで、耳が壊れそうな悲鳴を上げる女だった。


「リエは当分留守だよ。良いじゃないか。せっかくの焼肉なんだから、食べてよ」

 先日のリエとの大喧嘩と、その後始末を思い出して、俺はイヤな気分になった。


「コウくん、あまり食べないね」


 次々と焼けていく肉をタレにつけ、口に入れて頬張るヨシミを、俺はうんざりと眺めた。まるでカバのような女だ。

 だが、その肉を喰ってくれるのは有り難い。

 出来れば全部食ってくれ。


「どんどん食べてくれよ」

「良いわよ、食べてあげる。あなたの事が好きだから」


 ヨシミは肉食獣のような目で、俺へ笑った。


「それにしても、この女の肉、不味いわね」


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