最終話 親子
果たして返品に応じてくれるのか不安と心配を抱えながら、一同はトイショップを訪ねる。システムが復旧したのか、店員がレジの張り紙をしまうところだった。雁斗に気付いた店員はいらっしゃいと会釈をし応対する。
「すみません…、これ、返品したいんですけど…。」
「あれ?不良品だったかい?」
「いや…、えっと…。」
「どれどれ、見てみよう。…お、おお、動かないねぇ。」
「え?」
「うん、初期不良だね。ごめんな。お金は返金するよ。」
「そ…、そうなの?」
弓香が不思議そうに呟く。
「どういうこと?」
「すまないね、たまにあるんだよ。不良品が。迷惑かけるが、店の責任なんでね。」
そう言って全額を雁斗に手渡す。
「また気に入ったものがあったら懲りずに是非どうぞ!今度はちゃんと確認してから売るからな!」
「は…、はい。」
すごすごと店を出た一同は拍子抜けしていた。
返品なんて受け付けないと断られるかもしれないし、言い争いになったりトラブルになった時のために力になれればと、照司も弓香も付き添ったのである。
とにかく目的は果たした。
三人は別れを惜しみつつ家路についた。
その夜。
夕食を終えた赤羽家へ正人は帰宅する。
「ただいま。」
キッチンで後片付けをしていた優美が出迎える。
今日は一日、正人の同僚の安否が気になって仕方がなかった。
「おかえりなさい。どうだった?」
正人の表情は明るい。
「良かった!あいつは…一命を取り留めた。今朝意識を取り戻して、経過も良好だそうだ。弾は内臓を痛めることなく貫通したようで予後も心配はいらないと。」
「それは良かった!安心したわ。」
「雁斗はどうしてる?」
「部屋にいるわ。おもちゃを返しに行って落ち込んでるのかと思いきや、変にご機嫌だったわ。」
「そうか。」
正人は荷物も置かずそのまま雁斗の部屋へと向かう。
雁斗は自分の部屋で今日の出来事に思いふけっていたところだった。
「ただいま、雁斗。」
「あ、父さん。おかえりなさい。」
「雁斗…、昨日はすまなかった。そこまでさせることはなかったと後悔している。」
「…ううん、母さんから聞いたよ。辛いことがあったって。」
「そうか…。」
「それで、その人大丈夫だったの?」
「ああ、無事だった。ホッとしている。」
「そう!それならよかった!あのね父さん…、昨日、公園で的当てをしていた時、突然ネコが飛び出してきたんだ。もう少しで当たるところだった。その間違って人を撃ってしまった人だって、したくてしてしまった訳ではないよね。気を付けてたって予期せぬ事は起こるって昔父さんが言ってたこと…、わかる気がする。」
「雁斗…。」
「だから…、昨日は悲しかったけど…、ちゃんと返したよ。」
自分で理解し判断できる程の息子の成長に感動と喜びを覚えながらも、健気な思いに涙が込み上げてくるのを必死でこらえる。
「雁斗、言い過ぎた詫びだ。これをあげよう。」
「なに、それ?」
「開けてみろ。」
プレゼントの箱の大きさは少年にとって期待との相関であろう。
欲しかったものを手放したばかりの雁斗にとっては相乗だろうか。
喜び勇んで大きな箱の梱包を開封すると、それは「GUNS'n SURVIVE」とロゴの入った近未来的なオリジナルデザインのライフル銃であった。
「うわぁ!かっこいい!何これ?見たことないよ!」
喜びと興味で目が輝く。
「ガンズンサバイブと言う最近発売されたばかりのトイガンだ。」
「へー!!嬉しい!ありがとう!!でも、なんで?銃は持っちゃダメだって…。」
「これはな、弾は発射できない。代わりに光を放つんだ。」
「え!?」
何かデジャブのような感覚に捕らわれながらも益々興味が沸き起こる。
「人やモノを傷付けることもない。安全に遊べる上、リアルなリコイルアクションにリロードギミック。受信機を付けて対戦ができたり、スマホと連動させて色んな遊びができるんだ。」
「うっわー!面白そう!」
「専用のレシーバーで的当ても楽しめて、照準の調整もああして、こうして…。」
「あはー!楽しい!!リロードはどうやってやるの!?」
開け放たれたままの部屋のドアの向こうで二人のやり取りを立ち聞きしていた弓香と母が微笑んでいる。
親子は童心に返り、久しぶりに水入らずの娯楽のひとときを過ごした。
「ギ・・ギ・・・ギギ・・・・・・」
部屋の片隅に投げ置いた雁斗のバッグの中から微かに響く物音にも気付かずに。
‐了‐
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