第9話 対決
黒い手枷から解放された照司と弓香は雁斗の呼びかけに気付く。
「雁斗!?」
「雁斗!!」
「ねえちゃん!照司くん!!大丈夫か!?」
「武器はここにあるだギよ!こっちへ来いだギ!!」
解放された二人は体の痛みを堪えつつ走り出す。
解放された照司と弓香は体の痛みを堪えつつ走り出し雁斗達の元へたどり着くと、それぞれ得物を受け取った。
「雁斗、ありがとう。助かったぜ…。」
「ありがとう、雁斗。無事だったのね。」
「よかった!ねえちゃん、照司くん!間に合ったよ!しかしあの爺さんは何者なんだ?」
「あいつが黒の闇の司教だギ。あいつがあの闇の波動を使ってここの人達を闇人間にしていったんだギ!」
雁斗は気合を入れ直し、
「あれを壊せばいいんだな!よし!みんなであの球体を破壊するぞ!!」
「よし!」
「いいわ!」
答えた照司と弓香に号令を出す。
「撃てえええ!!!」
輝く3筋の光線が一つの発射体のように合わさりながら黒い球体を貫く。
しかし何も起こらない。黒い球体に変化はない。
「邪魔が入ったか。小癪な人間め。また少し時間が必要じゃないか…。せっかく貯めたものを…。」
「壊れない…!?」
呆然とする照司と弓香を奮い立たせるように雁斗が言う。
「あれだけ大きいんだ。きっと光のエネルギーが足りないんだよ。もっと撃ち込まないと!」
「もう待ちきれん。お前らはこのオルムンド様自らの手で始末してやろう!!」
老人がこちらに振り向き、目を輝かせる。黒い球体を背に両腕を広げると、闇の波動がその体に流れ込んでいく。
「ふああああ!!!力が満ちる。心地よい!お前たちを吸収しそのままこの世界を漆黒に染めてくれるわ!!」
オルムンドの体が闇人間と化す。真っ黒な腕や胸、肩が異常な程に膨らんでいく。黒い球体のエネルギーがオルムンドに注がれ、徐々に小さくなっていく球体に対し、オルムンドの体は燃え盛る黒い炎に包まれるように闇の波動を帯びながら巨大化している。
エネルギーの完全移行も待たずにオルムンドは雁斗達を目掛けて掌から闇の波動を放つ。
精度は低く命中こそしないが、着弾した床はあまりのエネルギーに瓦解し鉄骨が剥がれ出す。波動の乱打に襲われながらも反撃を試み、三人は光のエネルギーを撃ち込む。が、効果は薄い。
「みんな来てくれ!」
闇の波動が降り注ぐ中、めくれた鉄骨とコンクリートの陰に身を隠し、雁斗は照司と弓香を呼び寄せた。
先程所長に託された光のカプセルを照司と弓香に手渡す。
「これを撃ち込もう!」
「でも、どうやって使うの…?」
グレンが教える。
「その銃と弓にセットできるようにしておいただギ。」
「そうなのか!」
カプセルを受け取る照司に雁斗が伝える。
「さっき大きな闇人間と戦ったんだ。頭が弱点のようだった。あいつにも効くかもしれない。照司くん、頭を狙ってこれを撃ち込んでくれないか。」
「よしわかった!でもあいつ、さっきから動きが激しくて…。」
弓香が提案した。
「なら私が足を狙う。動きを止められるかも!」
良い提案だ、と雁斗が微笑む。
「同じところに固まっていると狙われやすい。俺が囮になるから、二人は散らばって位置について!」
雁斗はそう言って、何倍もの大きさとなった巨人の気を引くように叫びながら飛び出すと、距離を縮めつつ銃を乱射する。
その隙に弓香と照司は左右に展開した。
照司は左手の消火装置から伝わるパイプを土台に狙撃体制に入る。
「位置に付いた!」
向かって右側から巨人に近付いた弓香は排気口の陰に身を隠し呼吸を整え弓を構える。
「行くわよ!」
光のカプセルをセットした弓を大きく引き分けると、光のエネルギーが大きく感じ取れた。引き分けた両腕の間に生じるその温かい感触はどんどん増長している。
「溜められるのね!」
十分に膨れ上がったエネルギーを感じ、それを巨人の足に狙いを定め解き放つ。
煌めく太い閃光が巨人の足を貫くと片足分の闇の波動が蒸発するように消えて無くなり、突然失ったバランスを保ちきれず咆哮を上げながら崩れ落ち、前方に両手を付く。
「今だ!」
照司はカプセルをセットしたスナイパーライフルのボルトを引くと、力強く温かい感触を味わう。
しっかりと土台に姿勢を固め、スコープに巨人の頭部を捉えると右人差し指に力を込める。
「いっけーーー!!!」
長い尾を引き、放たれた一閃は巨人の眉間を捕えた。衝撃波と共に頭部のみならず肩口程までにかけての闇が蒸発した。
頭部を失った巨人は苦しそうに悶えながら咆哮を上げ、むやみやたらに波動を乱射する。
とどめを撃ち込もうと光のカプセルをセットしながら巨人に走り寄る雁斗の左腕を巨人の砲撃が直撃する。
「うわあああ!!」
「雁斗!!」
「雁斗!!」
砲撃を周囲に受け、足場が無くなり身動きが取れなくなった照司と弓香は雁斗を案ずるが近付くことができない。
激痛にのたうち回る雁斗。
「雁斗!頑張るだギ!もう少しで闇は晴れるだギ!」
「くそ!左手が…動かない…。で…も…。負けるわけにはいかない!!!」
右手でフルオートモードに切り替え、そのまま片手一本で銃を構える。
「消えろおおおおおおお!!!!!!」
渾身の力を振り絞り、放つ閃光。眩い光の連続が巨人の体を、漆黒の闇を徐々に白く輝かせていく。
「おおおおおおお!!!!!!」
光のエネルギーは全て叩き込んだ。巨人の体を包む白い輝きはまさに闇を覆いつくそうとしていた。
しかし。
「グオオオオオオオオオ!!!!!!!」
けたたましい咆哮を上げ始めるオルムンド。同時に白い輝きは消え失せる。
「そんなものでは足りん!闇の力はそんなものでは尽きん!!!」
巨人の頭部と足が再生しようとしている。
「グハハハハハ!!!! 今度こそ闇で覆いつくす!!!」
「そんな………。」
成す術もなく愕然とする雁斗。同じように茫然と事態を眺める事しかできない照司と弓香。
もはや何もかも諦め観念した雁斗の元にグレンが駆け寄る。
「オラを撃つだギ!!」
「え…?」
「オラを発射するだギ!!その銃でオラをあの巨人へ撃ち込むだギ!!」
「お前を…!?」
「オラには光のエネルギーがまだ残ってる。奴が再生する前に!!」
そう言うとグレンは自ら雁斗の銃へ飛び移り、銃口下部に収まった。
「グレネード…!?そうか…。よ…よし…!いけええええ!!!」
ボコン!!
再生しようと泡立つ巨人に向けて鈍い爆発音と同時に「それ」が放たれた。白く輝く煙のような尾を引き、放物線を描いて頭部のない巨人の首元へ吸い込まれるように消える。
刹那の静寂が辺りを包む。
次に起こる事象に身構えるように、三人が息を飲んだその瞬間。
巨人の上半身ははじけた。胸辺りを中心に土星の輪だけが残ったかのような衝撃と共に吹き飛んだ。下半身は残像を残しながら上半身の後を追うように蒸発して消えた。
空に立ち昇ったどす黒い渦巻きと、分厚く重なった紫の雲も徐々に晴れていく。
崩れた足場を飛び越えながら照司と弓香が雁斗の元へ駆けつけ、互いの無事を確認し合う。
「終わった…?」
「成功…したのか…?」
「よっ……しゃあああああ!!!!」
思わず勝利の雄叫びを上げる一同。清々しい気持ちで満たされる。
カラン、コロコロ…。
一同の傍らに何かが転がってきた。
爆発で弾け飛び空中に投げ出されたグレンが落ちてきたのだ。ボロボロではあるが、動いている。すぐさま雁斗が近寄り安否を確認する。
「無事だったんだね!グレン!…だっけ?」
「ブ…ジ…。でもヒカリのエネルギー…ない。ジュウデンもスクない…。」
「成功…したんだよね…?」
「…セイコウ。闇のパワー、カクニンナシ…。」
「よっし!!」
「やったわ!!」
「アリガトウ…。オマエタチのオカゲ…。このことはスベてハカセにツタエル…」
その言葉を全て聞いたかどうか。
三人の体に衝撃が走る。同時に視界全体が歪む。
低周波の電気のような、もぞもぞとした感覚は、もはや心地よく感じる。
この世界との決別なのだと理解しつつ戻った視界は、その理解通りグレンを発見した林だった。
一同は互いを確認し、自分自身を確認する。
この林に足を踏み入れた時と同じように照司は狙撃銃を、弓香は弓を背中に抱えている。雁斗の銃も箱に収まったままだ。
しかしグレンはそこにいない。
ケガはない。痛みもない。しかし危険と隣り合わせながらも目的をやり遂げた達成感で胸は高鳴り、世界を守った充実感が晴れ晴れしく心に染み渡る。
三人は今までの体験を確認するようにお互い頷き合う。
「三人で同じ幻覚を見たのかな?ふふ、ふははは!!!」
「誰も信じちゃくれないだろうな。はははは!!」
三人は何度も笑い合った。
笑いながら大事な用事のさ中だった現実を雁斗は思い出す。
「そうだ!銃を返しに行かなきゃ!」
第9話 了
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