第34話
作業場にTT-Rを入れたんだが、そこに居たのは。
「うん……予定通りですね」
いつも通りに偉そうな相棒だった。
「お前なぁ……先に言っとけよなぁ……」
今回に関しては文句も言いたくなるわ。
「察しの悪い琢斗が悪いんですよ」
「言うと思ったわ……で、この後は?」
既にシナリオは出来上がってるんだろ?
「勿論準備は終わってます。後は彼女たち次第ですが、今回のシナリオには自信がありますよ?」
やっぱりそうかぁ……東雲さん、真由美さん、ゴメン……俺には止められないわ。
「ほら、時間が無いんですからとっとと準備しちゃって下さい。彼女達の説得時間を考えたらカツカツなんですから……巻きで行きますよ、巻きで」
「分かってるっての、まったくよぉ……」
とりあえず全部のネタばらしは東雲さん達交えた方が良いだろうし、今はイイや。
今はやるべき事をやるとしよう。
--------------------------------------------
「はじめまして。琢斗のフェイバリット・ライトアームです」
「ダルか!」
お、お母さん!?
今、その突っ込みは要らないと思うの!
さっきまで琢斗くんの神っぷりにうっとりしてたのに、何でここに我が校が誇るスーパーとんでもさんが現れるんですかっ!?
しかも琢斗くんの右腕ですかっ!?
「さて、手短に行きましょうか。まずはこちらにサインをお願いします」
ほぼ前置き一切無しで話を進め出しましたよ!?
しかもサインって何のですかっ!?
「あの……何の書類なんですか、これ?」
お母さんが頼もしいです!
私じゃ絶対に聞けません!
だって、何か怖いんですもん、この方!
「こちらが愛車SOSでの放映権で、こちらがドラマ化権、3枚目が映画化権、そして最後がアニメ化権の契約書です」
「え? え!? ドラマ? 映画? アニメ?」
ほ、ほらっ!
お母さんも追い付けてないじゃないですか!
た、琢斗くん、助けてっ!
「いきなり飛ばしすぎだ、阿呆」
そう言って、ハリセンで右腕さんに突っ込む琢斗くん……あぁ、助かりました……もう何がなんだか……。
「えっとですね……これはおそらく工賃云々の解決策なんだと思います。そうだよな?」
「それ以外の何だと言うんですかあなたは?」
「説明が足りないって言ってんだよ!」
「いや、分かりますよね、普通」
「わかんねーよ、普通はっ!」
そうです!
その通りです、琢斗くん!
言われるまで全く分かりませんでした!
「えっと……支払いの問題が解決するならこちらとしては助かるんですが……ドラマ化とか映画化って言うのは、いったい……」
頑張って下さい、お母さん!
私もその辺が聞きたいです!
怖くて聞けませんけど!
「文字通りですが?」
「だから説明が足りないって言ってんだろーが!」
スパーンと良い音でハリセンが振り抜かれました!
琢斗くんさすがです!
だってホントに理解出来ないんですもん!
ドラマ化って何の話ですか!?
「いや、分かるでしょう?」
「わかんねーよ! 最初から説明しやがれ!」
「えー、面倒ですねぇ……」
「こいつ…………」
あ、琢斗くんが頭抱えてます……でも頑張って下さい!
私達には無理なんです!
「えーっと……まず確認なんだが、俺は何一つお前に話してないんだが、東雲さん達の事情は既に知ってるんだよな?」
「当たり前じゃないですか。知らずにこんな書類を用意するとでも?」
な、何で知ってるんですか!?
こ、怖いです!
た、琢斗くん助けて!
「いや、確かにそうなんだけどよぉ……そもそも俺にKSR用意したのも、シナリオのひとつなんだろ?」
「勿論ですよ。あなたは今日まで気付いてなかったみたいですけどね」
「あぁ、さっきまで気付いてなかったよ」
「察しの悪い男ですねぇ……」
「うるさいわ!」
察しが悪い!?
琢斗くんが!?
神ですよ!?
あと琢斗くんのKSR!?
話が全く読めません!
「た、琢斗くん? 琢斗くんのKSRっていったい……」
さ、さすがお母さん!
私じゃ声すらあげられません!
「え? あー、そうですね……まず俺のKSRなんですけど、用意したのはこいつなんですよ」
「はぁ……」
お母さん……気持ちは分かるけど頑張って!
超頑張って!!
話についていけてないのは私も同じですので!
「最初は修理して売り物にするつもりのバイクを渡されたのかと思ってたんですけど、さっき確信したんですよね……全部こいつのシナリオだって」
し、シナリオ!?
筋書き通りって事ですか!?
どこからどこまでが!?
「さっき気付いたって……もう一度言いますが、頭の回りが悪過ぎじゃないですか? 日課に頭の体操追加しますか?」
「俺の方はいたって正常だわ!」
神が愚弄されてます!
ぐっ、ぐぬぬっ!
「まぁいいや……とにかく俺にKSR渡したのは、東雲さんと接点持たせるためだったんだろ?」
「勿論です」
そ、そうだったんですか!?
「……KSRだけじゃ関係持つとは限らないんじゃね?」
そうです、その通りです!
琢斗くんが話し掛けてくれなかったら、きっと接点は無かったと思います!
「いえ、持ちますよ、間違いなく。琢斗が茜さんの家の前を通るなんて、あなたの普段の行動原理考えたら明白ですし、茜さんのKSRが問題抱えてたのは既に知ってましたからね」
行動原理!?
あと、何で私の問題を知ってるんですか!?
「お前はストーカーかよ……」
「失敬な。私はただ頼まれてた事をやってるだけですよ」
「頼まれてた事?」
「ええ、茜さんのバイクライフをサポートしてくれって言われましたからね。あと真由美さんのもね」
「……え?」
え?
どういう事ですか?
お母さんも、何でここで自分の名前が出てきたのか理解出来ないみたいです。
勿論私も……。
「……いや、さすがにもう分かったんだけどさ……東雲さんと真由美さんには説明してくれよ。全く理解出来てないから」
「今ので分かるでしょ……」
「わかんねーんだよ、普通は!」
はい、分かりません!
お母さんも分かってません!
なので説明お願いします!
あと、分かってる琢斗くんは、やっぱり神ですね!
「そうなんですか……まぁいいでしょう。茜さん……あなたのバイクライフをサポートしてくれと頼んできたのは、あなたのお父さんですよ」
「……え!?」
な、何で!?
何でここでお父さんが出てくるんですか!?
「あと、琢斗が乗ってるKSRは……真由美さん、元々あなたが乗る予定だったバイクです」
「……はぁ!? どゆことっ!?」
お母さんの驚きももっともです!
つまり!?
どーゆー事なんですか!?
た、琢斗くん!
説明プリーズ!
「だから端的すぎるって……えっとですね……俺は会ってないから知らなかったんですけど、どうやら東雲さんのお父さんがここに来てたみたいなんですよ。おそらくTT-Rの修理の依頼に来たんでしょうね。で、そこでこいつに会って色々話したんじゃないかと。娘に今度免許取らせてKSRに乗せる予定なんですとかね。あと真由美さん……」
「は、はいっ!?」
お母さんがパニックになってます!
でも分かります!
まさか、ここで更にお父さんの話が出てくるなんて予想外ですもん!
「真由美さんの旦那さんは、亡くなる前こいつにKSRを探してくれって言ってたみたいです。だよな?」
「ええ、その通りです」
なるほど!
そういう事でしたか!
でも何故でしょう?
お母さんは特にバイクに興味は示してなかったのですが……。
「生前、彼は私に言ったんですよ……『娘と嫁に外の楽しさを知って欲しいんです』とね」
「……そう……ですか……あの人が……」
あぁ……やっぱりお父さんはお父さんでした……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます