第33話

覚醒!?

最早意味が分からない!


「まぁ稼ぎ頭の私が半身不随になったんですから、思うところは多かったんだとは思います。今後の生活には特に」


そりゃそうよね。

プロのライダーさんがどれだけ稼いでたのかは分からないけれど、不安になるのは間違いないと思うわ。

だって私が稼げなくなったらって考えたら、茜ちゃんなんてパニックになると思うし……いや、生きてくだけなら余裕なくらいは蓄えあるけどね?


「で、あの馬鹿達は1つ目の問題を無理矢理クリアしました」


1つ目?

何個あるのか分からないけれど、最初に手を出したとするなら……。


「まずFXに手を出しました。タイミングとしては第二次阿部政権の直前です」


あ、そりゃもう……結果が見えてきたわ。


「しかも私に内緒で母親を巻き込んで、我が家の資産のほぼ全てをぶち込んで、口座も複数用意してレバレッジMAXで……結果は分かりますよね?」


ええ、そんなギャンブルな額ではないけど私もやってたから分かりますとも。


「元の額が額でしたので、軽く二桁億稼ぎ出したんですよ……幼稚園児が。本人曰く『あそこまで勝確なのに手を出さない理由はない』だそうで……頭抱えましたよ、ホントに……こんな幼稚園児がいるかよと……」


そりゃそうでしょうね……茜ちゃんがいきなりそんな事し始めたら、別人が乗り移っちゃったって思うわよ、私なら。


「勿論株にも手を出しましたけど、株式市場がどれだけ活況になったかを思い出してもらえれば、結果は分かると思いますが……更に儲けました。この頃は見栄張ってモナコに住んでましたんで税金問題もある程度クリアしてましたし、これで生活は大丈夫……と思わないのがあいつらでして……この後、日本に戻っていきなり整備士の資格を取りました」


ここで整備士の資格ネタが出てくるのか。

でも、遊んで暮らせる程のお金稼ぎまくったのに、何で?


「立て続けに日本人ライダーが亡くなったのと、日本のバイクブームの終焉に納得出来ないってのが本人の弁でしたが、前例の無い幼稚園児整備士の誕生という話題を欲したみたいです。勿論揉めました……わたしの父がバイク屋を営んでましたし、それを手伝っていたってのを“実務経験”として認めるのかという問題が最大の焦点だったのですが、実際に整備振興会のお偉いさん他関係者を呼んで、彼らの目の前でエンジン組み立てるという荒業に出ました。しかもエンジン4基を立て続けに」


え?

それって確かに凄いけど……整備でお金取れないって琢斗くん言ってたわよ?

ましてや整備士の資格を取る前の話よね?


「あの……整備士の免許取る前の人間がエンジンの組み立てなんてやっちゃまずいのでは……?」

「勿論そうです。ですが、あいつらは抜け道を考えてました。父の店にはレーシングチームもありましたので、チームのバイクをメンテナンスするという方法ですね。で、初心者のサーキット体験用バイクの整備だって事で店側のサービス整備であって、客から金を取ってる訳じゃないという無理矢理な理屈を押し通しました。で、組み立ててる作業スピードがベテラン整備士並みで呼んだ人間全てを驚かせた上で、こう言ったんですよ。『少子化で整備士のなり手も減ってきてると思いますけど、僕達が整備士になったら世間の話題性は相当なんじゃないですか?』ってね」


ああ、もう……どれだけ大人を手玉に取るのよ、琢斗くんは!


「で、勿論資格は余裕で取得しました。何で幼稚園児が学科を余裕でクリアするのよってのは今更なんですが、それでは済みませんでした」

「それって……この店の事ですかね?」


資金力的には申し分ないし、そこに行き着く気がするんだけど……。


「残念ながら、違います。これまでの話だけだと“覚醒”には足りないんですよ」


……いったい何をやらかしたのよ、琢斗くんはっ!?


「この次に手を出したのはレーシングチームの設立です。しかも法人として」


あ、そっちに走ったのね……でもここから“覚醒”ってのが全く想像つかないわね。


「自分達用のレーシングチームを作ったのはいいですが、そこでやったのはレース活動ではなくて“研究開発”でした」

「え? 研究……開発?」


何を研究して、何を開発するの?


「……その疑問は、当時の私達も思った事です。ですけどね……開発しちゃったんですよ、あいつらは……」

「な、何を……?」


聞くのが怖いんですけどっ!?


「次世代バッテリーです」

「…………は?」


ゴメン、お父さん……ナニを言ってるのかワカラナイわ。


「いや、ホントなんですよ、これが。テレビCMで見たことありませんかね、ジェネシスバッテリーって」

「あっ、し、知ってます!」


超有名な会社じゃないのよ!

エネルギー問題の解決に向けて2歩も3歩も進んだってテレビで特集されてたわよ!

あと災害時対応として我が家に導入している無停電電源装置もジェネシスバッテリー使ってるって、メーカーさんが言ってたわよっ!


「そりゃ知ってますよね。で、そのジェネシスバッテリーですが、さっき言った通り開発したのがあいつらです。説明を求めたら『何となく思いついたから、形にしただけ』だそうで……こんな荒唐無稽な話、普通の人間が理解出来ると思います?」


言葉に出来ません……とりあえず出来るのは首を横に振るだけよ。


「ですよね? 理解出来ませんよね、普通!? でもあいつらは単純な開発だけでは止まりませんでした」


あ〜、なんか読めてきたかも……そもそも止まる気がしないし。


「私のレースに帯同してた時に、アメリカ人の資産家と“何故か”コネを作ってたみたいで、彼女を巻き込んで資金を出させて日本とアメリカに工場を建てました。もちろん特許を取得した上で」


あ、これヤバい……資産の桁が青天井だわ……。


「その後の世界進出ぶりは今更語るまでもないと思いますが、ジェネシスバッテリーの大元はあいつらの“ジェネシス・レーシング”なんですよ……しかも事実上借金ゼロで始めた会社で利益もハンパないんで今も借金ゼロで、結果としてあそこまでの大企業になったのに非上場なんですよ……しかもあいつらが大株主なんです」

「…………」


いや、どこをどう突っ込んだらいいのよ、琢斗くんっ!?

神様が降臨してるって言われた方がしっくり来るんじゃないかしら!?


「ね? 覚醒してるでしょ?」

「……確かに覚醒かもしれませんね……」


いや、私は降臨だと思います!


「で、ここまでやっておいて、あいつら……自分達のこと“普通”だと思ってるんですよ?」

「…………は?」


ごめん、全く分からない……。


「FXでお金を稼げたのは『勝確だから当たり前』で、ジェネシスバッテリーは『思いついただけ』。ちなみに勉強も異次元レベルで出来ますが、それも『過去の天才たちの研究を苦労せず使わせてもらってるだけ。凄いのは天才たちで、俺たちは金魚の糞かな』で済まされました……ちなみに二人ともMensaの会員です。十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人って諺がありますけど、十五を過ぎても未だに神童ですね」


い、異次元過ぎるわ……どこから突っ込んでいいのか分からない位に異次元だわ。


「まぁそこまでやって初めて落ち着いたのか……そこで設立したのがこの店です」


え?

落ち着いたから店を出したの?

更に意味が分からないんだけど!?


「でも、この店の事は大した話じゃないんで置いておきましょう。ここまで琢斗の事を隠し事無く話したのは……あなた達が既に巻き込まれてしまってるからなんです」


え?

巻き込まれてるって、どういう事?

茜ちゃんの北海道行きの手助けと、旦那のバイクの件しか関わってないと思うんだけど?


「普通ならここまで話さないんですよ……異常性がとんでもないんで……」


そりゃそうでしょうね……普通の人なら距離置いてもおかしくないと思うわ。

私は私で14歳で子供産むなんて荒技やらかしたもんだから、周りから異常者扱いされた方の人間だし、むしろウェルカムだけど。

茜ちゃんなんて、さっきからずっと眼をキラッキラさせながら話聞いてるしね。


「で、琢斗と……特にもう一人が絡んでる以上、あなた達の生活が激変する可能性があります。なので、あいつらと詰めの話をする前に覚悟しておいてもらった方が良いかなと……」

「…………えっと…………それはいったいどういう…………」


覚悟しなきゃならないって、なにーっ!?


「それはですね…………あ、スミマセン、タイムアップです」

「え?」


なんでーっ!?

重要なのはここからでしょーっ!?


「東雲さん、真由美さん、お待たせ」


ぎゃーっ、天才・琢斗くんキタワーッ!

でも、もうちょっと遅くても良かったわ!


「えーっと……とりあえず先に謝っておきます。俺にはコイツを止められませんでした……」


何なのーっ!?

コイツって誰ーっ!?

いや、きっとさっきまでの話の“もう一人”なんでしょうけど!


「はじめまして。琢斗のフェイバリット・ライトアームです」


ぎゃーっ!

塚な麗人が登場したわーっ!

なんなの、この麗しさはっ!?

でも、ここで言うことは1つしかないのよっ!


「ダルか!」


太ってないけどね!

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