第32話

琢斗くんのお父さんに案内されたのは、先程聞いたカフェスペース。

お店の事務所とかだったら緊張しまくりだったと思うからある意味助かっわ。

でもね……美少女ちゃん“達”がこっちを凝視してるのよね……琢斗くんのお父さんの後ろから……。


「ソナタ、カノン……そんな事してると琢斗に嫌われるよ?」


超美人なソナタちゃんもイイけど、カノンちゃんもビックリするくらいの美少女ね!

さすが姉妹ってとこかしら!?

この二人に血の繋がりがあるかまでは聞いてないけど、どう考えても姉妹でしょ!

だってソックリだもん!

思わず抱きしめたくなるレベルよ!

あ、それは同性でも犯罪ね……でも困ったわね……ここまでの美人さん二人が茜ちゃんのライバルとは!


「だって……琢斗が浮気してるって、ソナタが……」

「……私を放置して美人ふたりとイチャついてた……浮気確定……」


あらやだ、二人ともぞっこんなのね……こりゃ困ったわ……。


「あのねぇ、二人とも……琢斗がそんな器用なこと出来るわけないでしょうが。お二人は問題抱えてて、それを琢斗が手伝うってだけの話なの。同級生の手伝いするのはおかしいことじゃないでしょ? ましてや琢斗に助けてもらった二人なら特に分かるでしょうよ」

「それはそうだけどさぁ……」

「……むぅ……理解は出来る……」


あら、琢斗くんてば二人とも何か助けたの?

お腹刺されたって話は聞いたけど、まだ何かしちゃってたのかしら?

しててもおかしくないと思っちゃう時点で自分でもどうかと思うけど、そう思わせる琢斗くんがおかしいのよ、きっと!


「で、こちらから琢斗の話をする前にですね……あいつの事、どの位おかしいと思いました?」


結構ダイレクトに来たわね……まぁいいわ。

抱いたのは別に悪感情って訳じゃないんだし。

言い方次第では悪く取られるかもしれないけど。


「えっとですね……何と言っていいのか……名探偵と言いますか、超人と言いますか……」


上手く表現出来ないのがもどかしいっ!

でも茜ちゃんが物凄い勢いで首肯してるから、きっとこっちの気持ちは理解してくれる筈っ!


「え? そっち!?」

「え? どっち!?」


予想外の返しだったもんだから、思わず聞き返しちゃったわよ!


「あ~、えっとですね……てっきりバイク屋の店長やってるとか、整備士の資格持ってるとか“その程度”だと思ってたんですが……」


あー、確かにそれも異常ではあるんだけど、それじゃないのよねぇ……。


「琢斗くんはですね……まるで名探偵みたいな感じで私達の問題を言い当てて、しかも解決方法まで提示したんですよ! さも当然の様に!」


あ、思わず気持ちが昂ぶっちゃったわ……でも実際その通りだからねぇ。

茜ちゃんなんて頷き過ぎてヘッドバンキング状態よ?

とか思ってたら、横から。


「そうっ! そうなのよっ! 琢斗は凄いのよっ!」

「……琢斗はスゴイ……あなた達、良く分かってる……」


美人姉妹が鼻息荒くノってきたわ……ソナタちゃんなんて表情変わってないのにフンスフンスって聴こえて来そうなほど前のめりよ。


「二人とも……今日は時間があまり無いんだから……これ以上場を荒らしたら、三食オートミールの刑にするよ?」


あ、秒で黙っちゃったわ……でもオートミールだって美味しいわよ?

まぁ料理に拘りがない人だとメシマズかもしれないけど……。


「……まぁ、この二人も一応絡む事なので、まずはこのままでお願いします。で、琢斗ですが……そっちの方向で全開でしたか……それだけ本気だって事でしょうし、そうするだけの理由があったんでしょう」


美人姉妹も絡むんだ……確かに血が繋がってなければ人種も違うんだから、話に絡んでるって可能性は勿論考えてはいたけれど。

あと、お父さんに本気だって思われるって事は、普段はあんな感じじゃないって事なんでしょうね。


「とりあえず少しだけ状況は分かりました。あと琢斗の為に言っておきますが、私はあなた達の事情は一切聞いてませんし知りません。ただバイク絡みでちょっと手伝う事になったって聞かされただけです」


まぁ琢斗くんなら身内だからって他人の家庭の事情をベラベラ喋るとは思ってなかったから。


「そのへんは疑ってませんでしたよ、最初から」


ただ知らんぷりして手伝うだけで済まそうとしてた人だもの、そんな事ありえないわよ。

まぁお父さんも琢斗くんみたいに名探偵だったら何の不思議もないしね!


「それは良かった。で、普通の人間装っとけって言いつけを全く守らない馬鹿琢斗ですが……あんなになってしまった理由の何割かは私のせいなんですよ」

「え? お父さんが?」


幼少期から脅威の英才教育をしたとか?


「情報としてですが、まず私はレーシングライダーだったんですよ。一応世界で戦ってました。まぁ今は“こんな”ですから“元”って注釈が付きますけどね」


実家が元々バイク屋さんだったとは言っていたけど、お父さんはレーサーだったのね……それなら琢斗くんがバイクのレースに出てるのもおかしくない……のかしら?


「で、私が世界で戦ってる時は琢斗も帯同してまして、その時知り合ったのがここにいる娘二人と……もう一人いるんですが、その3人は琢斗同様に他のライダーの子供でして、そこで子供同士仲良くなった訳です。他に同世代の子供はいませんでしたから、自然な流れだと思いますが」


なるほど。

知り合った経緯だけは分かったわ。

問題はここからよね?


「で、琢斗にとって大きな環境の変化が3つ起きます。まず1つ目が、さっき言ったもう一人の子供の父が亡くなりました。レース中ではなかったんですが、サーキットでの事故で。ここでもう一人の子供が劇的に変わって、琢斗はそれに引き摺られる形で変化していきました」


我が家も人の事言えないけど、思い事実が飛び込んできたわね……でも実の親じゃなくても、多感な時期に親しい人が亡くなっちゃったら心境に著しい変化があってもおかしくないわよね。


「それからしばらくして……今度は娘二人の父がレース中に亡くなりました」


……反応出来ないわよ、こんなの……私達だって旦那が亡くなった時のことを思い出すだけでも苦しくなるのに……。

ほら、美人姉妹も下向いてるし……。


「で、この後娘二人はイジメに遭いました」

「……はっ? 何で?」


お父さんが亡くなったのと、イジメに何の関連が?


「こう言ってはなんですが……2人共美人でしょ?」

「ええ、それはもう非の打ち所が無い程ですが……」


おかげで我が家は必死なのよ!


「でしょう? でも、可愛過ぎるとそれはそれで問題があるんです……あなたなら分かるんじゃないですか?」


ここで肯いたりすると自信満々な女と思われるかもしれないからしないけど、そりゃもう大変だったわよ……。


「同性の子供には嫌われ、異性からは気を引くための行為が横行……本人達に悪気が無かろうが、二人にとっては嫌がらせ以外の何物でもない……なのに、それがエスカレートして……ウクライナ人差別に発展しました」

「はっ!? なにそれっ!?」


何で人種差別にまで発展するのよっ!

意味が分からない!


「……チェルノブイリがありましたからね……2人のおじいちゃんおばあちゃんは共産圏から脱出してた人間ですし、事故が起きる前には西側に住んでましたから、家系的には何の関連も無いんですが……子供ってのは世界共通で良くも悪くもエスカレートしますからね……しかも無知ゆえのエスカレートっていう最悪の形で」


だからって、言っていいことと悪いことがあるでしょうが!


「そして、それにブチギレたのが琢斗です」


あ、それは分かる気がするわ。

そんな理不尽を許せる人間な気がしないし、本気で怒ったら怖そうだし。


「二人の父はイタリア人だったんで、レースの殆どがヨーロッパで開催されてた事もあって、二人ともイタリアの保育園に行ってたんですよ。子供のうちに友達はしっかり作っておいた方が良いって事で。まぁ結果は真逆でしたけどね。なまじ父が有名人だったもんだから、疫病神的な批判対象にされちまったってのもあるかもしれないんですけどね。で、ドン引きされるの承知で言いますが……そのscuola materna、日本語なら保育園ですが、琢斗はそこに殴り込みを掛けました。日本人の幼稚園児が。そりゃもうボッコボコにしましたよ……上級生並みどころか、柔術の達人かってレベルで。しかもイジメに加担してた女の子達にも容赦なく……傷なんかは一切残らない関節外し即入れという激痛の恐怖だけを残すという鬼の所業でした」


自業自得だわ!

と思う自分がいるのは間違ってないと思うの!

いや、暴力は駄目だけどね?

だけど時々思うのよ……ニュースで殺人事件が報道された時、被害者は殺されたのに犯人は税金使って刑務所で生きていて、何十年か経ったら世の中に戻ってくるのってホントに正しい事なのかってね……。

糞ストーカーがきっかけで旦那が亡くなったのに、そいつは今ものうのうと生きてて、私たちは悲しんでるってのに理不尽さを感じているってのも確かだしね。

でも、琢斗くん……子供の頃からなんて子だったのよ!

暴力は駄目だけど、私は肯定しちゃうわよ!

ただ、そこまでしたらさすがに……。


「……け、警察沙汰になったのでは?」


むしろなってないとおかしいわよね?


「そりゃもうなりましたよ。で、ここで琢斗の相棒とも言えるもうひとりの馬鹿が大活躍です」


あ、さっきの“もう一人”ね。


「まず二人がイジメられていたのをキッチリ撮影していました。で、ボコボコにしてやんよ状態だった琢斗の所業も撮影し続けて、その映像から琢斗に『クランプス』という異名が付きました。他称であり自称でもあるんですけどね」


異国で二つ名持ちとか……琢斗くん、やるわね。

でも自称ってどういう事?


「悪い子には罰を与えますって言い放ってからの所業ですから、まさにクランプスでした。で、馬鹿はその映像をテレビ局に売りつけました。イタリアだけじゃなくフランス・ドイツ・イギリス・スペイン・ポルトガル・オーストリア・オランダ・ベルギーと、主要な国全てにです」


よ、幼稚園児がそれをやったの?

どうやって!?


「まぁレースはさっき挙げた国全てでありましたから、そこで現地のテレビ許可にコネを作ってたんでしょうね……幼稚園児がやったこととは思えませんが、事実ですからね。で、それだけじゃ足りないってんで……」

「た、足りないってんで?」


聞くのが怖くなって来てるんだけど?


「事前調査で隠れて撮影していた追加映像ごと、人権屋に話を持っていきました」


ぎゃーっ!

何やってるの、琢斗くんっ!?

いや、諸悪の根源はもう一人の方か!

それって飛び火が凄いことになったんじゃ……。


「おそらく予想は付いてると思いますが、ヨーロッパ全土で炎上しました」

「……でしょうね……」


容易に想像つくわよ……その後がどこまで大事になったのか分からないけれど。


「そこの保育園はもちろん、子供たちも容赦ないバッシングを浴びました。更に子供たちの親は家から出れない程追い込まれる自体まで発展しました……なにしろイタリア自体が人種差別上等な糞国家という叩かれ方をしたもんだから、陽気なイタリア人も激怒しちゃいまして、もう収拾がつかなくなってしまって……」

「……なってしまって?」


修羅の国にでもなったのかしら?


「琢斗が収めました」

「はぁ? どうやって!?」


ヨーロッパ全土で炎上したのを、一体どうやって鎮火したの!?


「動画サイトに実名で顔出して『悪い子には既にクランプスが罰を与えた。あんたらはクランプスじゃないだろ? なら、警察なり裁判所に任せるべきだ。それでも罰を与えるって言い張るなら“悪い子”になるから……罰を与えに行くぞ?』ってヨーロッパ全土を脅しました。クランプスって自称しちゃうんだから、もうね……って感じですけどね」

「…………」


予想の100億倍トンデモなかったーっ!

幼稚園児が女の子の為にそこまでするのーっ!?

そりゃ二人にとっちゃヒーローか神様だわっ!


「で、その脅しがホントに効きました……幼稚園児が柔術の達人ばりの動きで子供達を“殲滅”した映像が大人達にも恐怖だったみたいでね」


映像見てないから分からないけれど、ヨーロッパ全土がビビるって……いったい琢斗くんはどんな動きをしてたのかしら……。


「で、鎮火したのはいいんですが、今度はお節介を焼きたがる人達が二人に纏わりつく事態になって……」

「事態になって?」

「日本の我が家で二人を預かる事になりました。あくまでヨーロッパでの人権問題で日本じゃ全然報道されませんでしたから、静かに生活するにはその方が良いだろうって事で。勿論この提案をしたも琢斗ともう一人の馬鹿です」


それでなのか〜。

ウクライナ美人ちゃん達が日本にいるっていう不思議さの理由がやっと分かったわ。

なんか凄い話ばかりだったけど、頭が追いついてないわ〜。

琢斗くんすごーいって程度にしか感じなくなっちゃってるけど、絶対そんなんじゃ済まない話よね。


「で、最後の3つ目ですが……」

「まだあるの!?」


あ、そうか、3つって言ってたもんね。


「ええ、あるんです。お恥ずかしい話ですが、さっきの話の後に私がテスト走行中に転倒して脊髄を痛めてしまいまして……ご覧の通りの半身不随になってしまったんです」

「それは、その……何と言っていいのか……」


こういう時は何て言えばいいの!?

人生経験足りな過ぎて分からないわ!


「あ、これに関してはお気になさらず。自分の選んだ人生の結果なだけですから」

「……はい、分かりました……」


とりあえず深く考えないことにするわね!

だって分からないものは分からないんだもん!


「ですが、それじゃ済まないのが身内です。稼ぎ頭がいきなり半身不随になって、その後の苦労を考えた末なのか、その辺は本人も教えてはくれないのですが、その結果ですね……」


その結果?

何かオチでもあるのかしら?

話が重くて、そんな方向には行かないと思うんだけど……。


「琢斗が覚醒しました。かなりヤバい方向で」

「覚醒!?」


いや、さっきまでのだって相当にアレよ!?

そこから更に覚醒って、もう意味が分からないわよ!



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


予約投稿するの忘れてました……

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