第30話
滅多に外出なんてしないから服を選ぶのに悩んじゃったけど、まぁ程々に女らしさは出せたと思うわ。
で、準備は問題無いんだけど。
「とりあえずお店の駐車場には着いたけど……」
これからどうしたらいいのかしら?
琢斗くんはどこ?
電話番号なりIDなり聞いておけばよかったわ。
「茜、琢斗くんどこにいるか分かる?」
「いえ……お店に来れば分かるとしか言われてませんでしたので……」
まぁ店長だって言ってたし、店員さんにでも聞けば済む話ではあるんでしょうけど、それが私達にはハードルが高いのよ……って、いたいた。
あそこでTT−R押してるわ。
「あ、琢斗くんいたわよ。行きましょ」
「はいっ!」
見つけられて良かったわ。
でも……今更なんだけど、私が来る必要ってそんなに無いわよね。
茜の件があるから送迎するのは勿論として、私とTT−Rの件は全部の点検が済んでからでも良いでしょうし……ま、琢斗くんのお店とやらを見せてもらうと思えばイイのよね、きっと。
さ、合流合流っと。
「お、お待たせしました!」
「琢斗くん、お待たせ〜。今は何をしてたのかしら?」
なんかTT−R君が濡れてるけど。
「ちょうどTT−Rを洗い終わったところです。これから工房に入れちゃいますんで、中で待っててもらえますか?」
なるほど。
茜がずっと綺麗にしてたとはいえ、パッと見の綺麗さと整備に必要な綺麗さは別なんでしょうね。
ハスラーの車検でも請求書にスチーム洗浄とか書いてあったし。
でも、私達がもう少し遅く来てたとしても、きっと外で待っててくれたんでしょうね。
だから細かい説明ナシだったんでしょ。
何しろ気配りさんだしね。
ま、それなら琢斗くんのお宅拝見ならぬお店拝見といきますか。
「それじゃ店内を適当にプラプラ見てるわね」
「それでもいいですし、カフェスペースもありますから、そっちで待っててもらってもいいですし、その辺は自由にのんびりしててください。自分もすぐにそっち行きますので」
あらやだ、カフェですって……私達には縁遠い憧れ空間じゃないの。
ここなら変なちょっかいも出されなそうだし、何かあっても琢斗くんがいるから大丈夫よね?
茜と二人で午後のひと時を……ってのもイイわね。
なんて事を考えていたんだけど。
「ようこそいらっしゃいました。東雲さんと、そのお母様で合ってましたか?」
「は、はい、そうですが……」
えっと……この車椅子に乗ってる方はどなたかしら?
私も茜ちゃんのことを言えないくらい対人スキル無いから、こういう時は困っちゃうわ……琢斗くんの場合は気楽に話しかけられたんだけど、不思議よね……って、現実逃避してる場合じゃないわね。
でもどうしていいか分からないわよ!
「こっちから声を掛けるなって何度言ったら分かるんだよ、馬鹿オヤジ。あと東雲さんの事はアンタにゃ話してない筈だけど?」
「お、オヤジ!?」
「お父様ですか!?」
オヤジって、まさかのお父様登場!?
いや、高校生が店長って時点で親族経営って形態かもと予想はしたけれど、一発目に現れたのがお父様で、しかも車椅子!?
デリケートな問題に触れてもいいのかしら!?
あと、茜ちゃんと勝負に出ようとは思ってたけど、いきなり本命が現れるとか想定外よ!?
「そーです、お父様です! いやー、琢斗が綺麗どころ引っ掛けてくるって聞いたもんだから、いてもたってもいられなくて……」
「だれがナンパ師か! 親父は単にネタに飢えてただけだろうが!」
「そうとも言う!」
「開き直ってんじゃねーよ……」
あ、あら?
最初の印象と違って、随分とフランクね……。
でもその方が助かるわ。
「それに、ほら……琢斗の“おかしさ”とか、説明した方がいいでしょ? 私が“こんな”なのとも一応とはいえ無関係な話じゃないですしね」
あら?
お父様も琢斗くんを“おかしい”って思ってるって事なのかしら?
それとも世間的に見れば“おかしい”部類に入ると理解しているって事なのかしら?
あと自分を指して“こんな”って言っちゃうって事は……。
「えっと……その辺の話をお伺いしてもよろしいのでしょうか?」
デリケートな問題だから、出来ればそちらから話してくれると助かります、ハイ。
琢斗くんには我が家のデリケートな話なの分かってて逆の事頼んじゃったけど……我儘でゴメンね。
「別に隠す様な話は無いですし、好きに聞いちゃってください」
あ、そうなのね……それなら助かるけど……だからといって聞ける訳じゃないけどね!
なので、話の流れで自然に説明していただけるのが理想です、ハイ!
「んじゃ、東雲さん達は私と一緒に」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「……よ、よろしくお願いしましゅ……」
いや、茜ちゃん……何で噛むのよ?
緊張し過ぎでしょ……まだ、あなたのお義父さんになるって決まった訳じゃないのよ?
意識し過ぎよ……いや、そんな邪な事考えてなくて、単に本能で緊張してるんでしょうけどね。
そんなあたふたしてる私達をよそに。
「あ、忘れてた」
「え? 何を忘れてたの、琢斗くん?」
さすがは家族、あっという間に平常運転に戻るのね。
「モト・アトリエへようこそ」
う〜ん、さすがは店長さん、宣伝は重要よね。
でも、何で“アトリエ”なのかしら?
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