第29話
再度の着替えを待ってたら、流石に時間がねぇ……って事で、とりあえず俺たちは先行して店に戻る事にした。
調子に乗って写真撮りまくったけど、それは無視の方向で。
場所も知ってるって言ってたし、そもそもご近所さんだしね。
んでもって、到着後はとっととTT−Rを降ろして温水洗浄機で汚れをふっ飛ばし終わったところで東雲家が到着した。
「お、お待たせしました!」
「琢斗くん、お待たせ〜。今は何をしてたのかしら?」
お、良いタイミング。
今度は流石に普通の服だ……チョット安心したわ。
東雲さんはデニムに麻のTシャツで、レザージャケットを持ってるのは教習所に直接行くからか、店内の空調で寒さ感じた時の為か……いや、両方かな。
真由美さんの方は娘に合わせた感じでデニム生地だけど……マーメイドスカートですか……ハーフスリーブのジャケットと合わせると、ナルホドな大人感だわ。
とりあえず安心したところで。
「ちょうどTT−Rを洗い終わったところです。これから工房に入れちゃいますんで、中で待っててもらえますか?」
ただの準備段階から見てたってつまらないだろうし、たぶん“あいつ”からネタバラシあると思うし。
「それじゃ店内を適当にプラプラ見てるわね」
「それでもいいですし、カフェスペースもありますから、そっちで待っててもらってもいいですし、その辺は自由にのんびりしててください。自分もすぐにそっち行きますので」
親玉とサシで会わせる訳にはいかんからね。
とか思ってたら、違う意味の親玉が出てきた。
「ようこそいらっしゃいました。東雲さんと、そのお母様で合ってましたか?」
「は、はい、そうですが……」
まったく……お客様に声を掛けられるまで話し掛けないってのを基本スタンスにしてるって何度も言ってるのに、全然聞きやしねーのな、このオヤジは。
「こっちから声を掛けるなって何度言ったら分かるんだよ、馬鹿オヤジ。あと東雲さんの事はアンタにゃ話してない筈だけど?」
「お、オヤジ!?」
「お父様ですか!?」
ええ、オヤジで良いです。
お父様とか、そんな上品な存在じゃないからね、コレは。
あと東雲さん達の事は“あいつ”に聞いたんだろ、分かってるよ。
「そーです、お父様です! いやー、琢斗が綺麗どころ引っ掛けてくるって聞いたもんだから、いてもたってもいられなくて……」
「誰がナンパ師か! 親父は単にネタに飢えてただけだろうが!」
「そうとも言う!」
「開き直ってんじゃねーよ……」
ホント面倒くせーな、この親父は……まぁ楽しいことが好きなだけで無害な善人ではあるんだけどさ。
「それに、ほら……琢斗の“おかしさ”とか、説明した方がいいでしょ? 私が“こんな”なのとも一応とはいえ無関係な話じゃないですしね」
こんなとか言ってんじゃねーよ。
ただ単に下半身不随なだけじゃねーか。
普通だよ、普通。
「えっと……その辺の話をお伺いしてもよろしいのでしょうか?」
ほれみろ、わざわざそんな言い方するから真由美さんが気にしちゃってるじゃん。
東雲さんに至っては、どう反応していいか分からなくてあたふたしとるがな。
でもまぁ。
「別に隠す様な話は無いですし、好きに聞いちゃってください」
まぁ高校生が店長で整備士ってのは世間的に見て異常だってのは理解してるし、その辺を説明してくれると助かるっちゃ助かるのよね。
「んじゃ、東雲さん達は私と一緒に」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「……よ、よろしくお願いしましゅ……」
東雲さんや……噛みました?
噛みまみた?
あと。
「あ、忘れてた」
「え? 何を忘れてたの、琢斗くん?」
そりゃ決まってますよ。
オイラは店長ですぜ?
「モト・アトリエへようこそ」
お店の名前はアピールしとかないとね。
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