第28話

「おっ……お待たせしました!」


普段と全く違う格好なんですが……大丈夫でしょうか……。


「コスプレしてって言いましたっけっ!?」


あ、あれ?

予想してた反応と明らかに違います……お母さんは大丈夫って言ってたのにっ!


「えっと……あの……これを着るべきだって、お母さんが……」


嘘はいけませんので、正直に言います。

でも、何と言ったらいいのでしょう……お母さんが妙に弾けちゃってる感じがするんですよね……あ、ほら、やっぱり。


「どーよ、うちの茜ちゃんは? イケてるでしょっ!?」

「イケてるかイケてないかなら、イケ過ぎてるわ! ってか、クルマに乗るのに何でこの服選んだのよ!? あとすっかり騙されたわ、年齢不詳めっ!」


ほ……褒められているのでしょうか?

あと、琢斗くんがお姉さん呼びしてるのは社交辞令だとさっきお母さんが言っていましたが、嘘だったんですね……なんだか色々騙されてる気がしてきました……。

お母さん……後でじっくり問い詰めさせてもらいますよ?


「年齢不詳って程じゃないと思うけど? 私一応29だし?」

「何歳の時に東雲さん産んだんだよ!?」


私も今知りましたっ!

いつも「乙女の秘密よ!」とか言ってたのと、私にとって母の年齢というのは大きな意味を持ちませんので、特に気にしてませんでした。

若い若いとは思っていましたが、ホントに若かったんですね……って事は、ちょっと待ってください。

琢斗くんの言う通り……いつ私を産んだんですか?

いえ、計算すれば出てきますけど……でも私の年齢自体にも若干の疑問符が付きませんか?


「茜産んだのは14の時ね。誕生日は茜と一緒だから、3日後には30になるけど……プレゼントよろしくね?」

「詳しく聞いていいのか困る話をぶっ込んでくるなよ! あとプレゼントね! 分かりましたよ!」


一応私の誕生日時に問題はないみたいですけど、正直驚きです……私の場合として年齢を当て嵌めると、私にも既に子供がいる計算じゃないですか!

想像もつかない世界です……経緯はともかく、産んでくれてありがとうございます。

でも……プレゼント要求するのはなんかズルいと思いますっ!

私もさっき貰いましたから反論出来ませんけどっ!


「アリガトー。楽しみにしてるわね。あと茜産んだのは、色々と身の危険を感じた末に、誰かに犯されるくらいなら旦那とヤッちまえって旦那拘束して無理矢理ヤッたら見事に当たっただけだから」


衝撃の事実がっ!

何ですか、その肉食ぶりは!?

普段から肉食とは言ってましたが、肉食どころか犯罪じゃないでしょうか!?


「犯罪臭がヤバ過ぎだわ! 反応に困る返答とか聞きたくなかったよ! 良い旦那さん捕まえておめでとうございますね!」


ほらっ!

琢斗くんも言ってるじゃないですかっ!


「アリガトー。旦那は私の事大好きだったから合意よ、合意」


確かにらぶらぶでしたけど、それで済ませていいのでしょうか。


「さっき拘束したって言ってましたけど!?」


そう、それですっ!


「……後々でも旦那が納得すれば、それは合意なのよ!」

「開き直りやがった!」


どうしましょう……衝撃の事実もそうですが、我が母ながら恥ずかし過ぎる過去を琢斗くんに披露するのはやめてください……。

あとですね……今話してるこの恥ずかしい話の内容全てが私の出生の秘密なんですよ……クスン。


「とりあえず、東雲さんは違う服に着替えてきてね」

「あの……これはやっぱりマズいでしょうか?」


あぁ……やっぱりダメだそうです……頑張ったのになぁ……。


「似合ってはいるんだけど、もう少し普通の服でね……」

「……はい、分かりました……」


フォローしてくれるのは嬉しいですが、何と言いますか……心にグサグサ来ます……。

やっぱり普段の着慣れた服にしてきますね……とは言っても、この後教習所に行くのですから自然と着る服も決まってしまうのですが……今回レザースーツを選んだのも「教習受けてる最中に転倒しても、これなら平気よ!」とお母さんが言ったからというのもありますし。


「茜ちゃん……やっぱりアレよ! アレを着るのよ!」


アレとは、先程何故か候補に挙がってた服でしょうか?

確かに可愛らしいとは思いますけど、私に似合うとは思えないです……あと、アレでは教習所に行けません……恥ずかし過ぎて……。


「……ちなみにアレとは?」

「……メイド服ですが何か?」


そうです、あれはメイド服でした。

「これなら琢斗くんもイチコロよっ!」とお母さんは言っていましたが、私に似合うとすればクラシカルで大人しめなメイド服だと思います。

少なくともあからさまに「可愛い」フリフリな服とは無縁ですので……。


「『何か?』じゃねーよ!? ちっとも普通の服じゃないだろうが! ってか、何でメイド服があるんだよ!?」


何であるのかと問われてしまうと「お母さんの仕事を兼ねた趣味」としか……。


「負けられない戦いだからに決まってるでしょ!」

「何と戦ってるんだよ、アンタは!? あと負けられないと何でメイド服なんだよ!? あと、ちっとも所有の説明になっとらんわっ!」


そうです、負けられない……のだと思います。

何に負けられないのかはよく分かりませんけどっ!

分かりませんけどーっ!


「最強のメイドと言ったら日本一有名なまほろさんでしょ! 勝負服としてまほろさんバージョンのメイド服は鉄板よ!」

「鉄板どころか398日後に活動停止しそうだからヤメロ!」


大丈夫です、琢斗くん!

物語上では、その残り稼働日数は記憶の彼方へ飛ばされてしまいましたから!

それはそれとして、私はいったいどうすれば……。


「……あ、あの……結局私はどうすれば……」

「メイド服に決まってるでしょ!」


もうお母さんには聞かないことにします。

本人が目の前にいますので、直接聞くべきだと思います。


「いや、ホントに普段着でいいから……」

「……はい……分かりました……」


やっぱりですか……着慣れないながらも頑張ったのになぁ……。


「あ、東雲さん、チョット待って」

「……はい?」


なんでしょう?

まだ問題でもありましたでしょうか?


「今の東雲さんスゲー似合ってるから、写真撮ってもイイ?」


き、聞きましたか、お母さんっ!?

似合ってるんだそうですっ!

写真を撮りたい程だそうですっ!


「はっ、はい、どうぞっ!!」


思う存分お願いしますっ!


「わ……私に突っ込みはないのかしら? かしら?」

「めんどくさいんでパスの方向で」

「ひどい! 頑張ったのに!」


お母さん……確かに真由美繋がりとは言っていましたけど……やっぱりダメ出しされてるじゃないですか……。

いえ、似合ってるか似合ってないかで言うなら、間違いなく似合っているのですが……女子高生の服が似合うとか、これで3日後に30歳を迎える女性とは思えません……我が母ながら恐ろしいです……。

それと、もう一人恐ろしい方が。


「……琢斗……今日はホントにヒドい……もう泣くよ?」

「マジごめん……あとでフォローするから、ホントに勘弁して……」


ワールドワイドな美人さんをここまで放置するとは……琢斗くんにとっての美しさとは、一体どういう基準なのでしょう?

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