第26話
さて、とりあえずTT−Rは載せたし、あとは東雲さん達を待つだけなんだが……いや、真由美さんが店知ってるって言ってたからあとから来てもらって先行してもいいとは思うんだけど、何となく置いて行っちゃう感が拭えない……。
とりあえず大人しく待つとして。
「琢斗……説明……早く……」
「うん、ちょっと待っててね〜」
横でひたすらツンツンと俺の腕を突っついているソナタもスルーするとして、今更ながらに先延ばしにしていた疑問点を考えてみる。
それは単純に何で真由美さんのバイクは無いのかなって事。
東雲さんにだけ買い与えて、真由美さんに買わないとかあり得るか?
元々がお姉さんの為に買ったけど「要らない」って断られたのなら分からんでもない……けど、さっきKSRを買った経緯についての予想が否定されなかったところからすると、KSRは元々東雲さんの為に購入したモノであって、真由美さんのお下がりって事ではなさそうだ。
じゃあ元々真由美さん用のバイクはあったんだけど、手放しちゃったパターンか?
でも、そうだとすると真由美さんがバイクの事を知らな過ぎるという疑問が解決しない。
あと痛い。
痛いってば。
「……早くってばぁ……」
「……痛いからやめてくれ」
グーパンに変化しとるがな。
で、超インドア派の理由は理解するけど、少なくともお父さんが一緒に走るのであれば問題はクリアされてると考えてイイ筈。
仮に真由美さんに結構なトラウマ的体験がったとしても、それはそれなりに大きくなってからの話だろうし、お父さんの暴走っぷりからすると東雲さん同様に産まれた直後にバイクを購入してたっておかしくないし、経済的な問題があっで先延ばしになってたとしても東雲さんの分と同時購入とかしてる方が納得出来る。
そうなると軽く10年以上は遡る話になる。
それに東雲さんは完全に自分のバイクだと思ってるみたいだし、真由美さんは一歩退いて見守ってる感じだしねぇ……。
あと真由美さんと東雲さんの身長はほぼ同じだから、違う車種を買い与えていたという事も考え難い。
KLX125とか買ってたって可能性もあるだろうけど、それだとKSRとの年式的な齟齬が生まれるからなぁ……モンキー辺りが好きならKSR選ばずに最初からそっち買うしねぇ……って、痛い痛い、マジで痛いってっ!
「……無視はヒドイ……」
ホントに痛いから、ソナタちゃん。
パワー増し増しはやめて。
あと無視じゃなくて色々考えてるだけだから。
こっちは“アイツ”と違って頭の回転遅いんだから、思考に時間掛かるんだってばさ。
一番齟齬となってるのは全体的な時系列なんだけど、もうひとつの大きな疑問は「お母さんどこ行ったんよ?」って事なのよね。
話題に上らな過ぎるんだよねぇ……お父さんとは真逆で。
でもなぁ……結論出すなら簡単なんだけど……“あれ”が“それ”だとすると年齢不詳にも限度があるだろって話だし……って、何してくれてんのソナタ!?
「ヘルメットに何してやがるっ!?」
俺のヘルメットにプシュプシュと凄い勢いで大量に何吹き掛けとんねんっ!?
「私のニオイを付けてる……マーキング……琢斗は私のもの……」
「臭いからやめなさいっ!」
「臭いとかヒドイ……」
マーキングとか犬ですかっ!?
あとソナタちゃんの匂いじゃなくて、ただの香水の香りだから!
頭から女性物の香水の香りがプンプンとか、地味ながら嫌がらせがヒドイわ!
薄っすらと香るならイイけど、ここまで来ると最早”臭い”っての!
しかもビチョビチョじゃねーかってレベルで吹き掛けやがって……帰ってからヘルメットの内装洗わなきゃいけないだろうが!
予定が詰まってるってのに!
いや、スルーしてた俺が悪いんだけどさ……。
「おっ……お待たせしました!」
よしよし、ナイスタイミングだ東雲さん……って、何それっ!
「コスプレしてって言いましたっけっ!?」
そこにいたのは、レザースーツに身を包んだミニ不二子ちゃんだったよ!
似合い過ぎで開いた口が塞がらんわ!
俺は今からハーレー用意するべきなんですかねぇ!?
店にありますけどね!
フルレストア済みのWLAがっ!
「えっと……あの……これを着るべきだって、お母さんが……」
おっと、犯人はヤツか……ってか、ここで今更ながらのネタばらしかよ!
もうちょっと早くしてほしかったよ!
「どーよ、うちの茜ちゃんは? イケてるでしょっ!?」
「イケてるかイケてないかなら、イケ過ぎてるわ! ってか、クルマに乗るのに何でこの服選んだのよ!? あとすっかり騙されたわ、年齢不詳めっ!」
確かにあんたが母親なら全部辻褄合うわ!
年齢不詳はうちの母さん達くらいかと思ってたけど、世界は広いなっ!
「年齢不詳って程じゃないと思うけど? 私一応29だし?」
「何歳の時に東雲さん産んだんだよ!?」
計算すりゃわかる話だけどさ!
その数字がおかしいんだってば!
再婚で連れ子なら話は分かるけどね!?
でも似過ぎなんだよ、あんたら親子はさ!
どう見ても血縁なのよ!
ここまでヤバいと言いたくもなるわ!
「茜産んだのは14の時ね。誕生日は茜と一緒だから、3日後には30になるけど……プレゼントよろしくね?」
「詳しく聞いていいのか困る話をぶっ込んでくるなよ! あとプレゼントね! 分かりましたよ!」
やっぱりだーっ!
中学生で子供産んだとか犯罪臭しかしねーわっ!
「アリガトー。楽しみにしてるわね。あと茜産んだのは、色々と身の危険を感じた末に、誰かに犯されるくらいなら旦那とヤッちまえって旦那拘束して無理矢理ヤッたら見事に当たっただけだから」
どえらい爆弾ぶっ込んできやがった!
「犯罪臭がヤバ過ぎだわ! 反応に困る返答とか聞きたくなかったよ! 良い旦那さん捕まえておめでとうございますね!」
「アリガトー。旦那は私の事大好きだったから合意よ、合意」
「さっき拘束したって言ってましたけど!?」
「……後々でも旦那が納得すれば、それは合意なのよ!」
「開き直りやがった!」
とんでもねーな、まったく……。
でも、呑気に話なんかしてる場合じゃないから。
「とりあえず、東雲さんは違う服に着替えてきてね」
「あの……これはやっぱりマズいでしょうか?」
アリかナシかで言えばアリなんだけど、TPOを考えないと痛い人認定されるからね……。
「似合ってはいるんだけど、もう少し普通の服でね……」
「……はい、分かりました……」
よし、分かってくれたみたいだ。
だけど。
「茜ちゃん……やっぱりアレよ! アレを着るのよ!」
また要らん事言い出したぞ、この年齢不問が。
「……ちなみにアレとは?」
確認しておけと、俺のゴーストが囁いてるわ!
「……メイド服ですが何か?」
「『何か?』じゃねーよ!? ちっとも普通の服じゃないだろうが! ってか、何でメイド服があるんだよ!?」
確認して正解だったわ!
「負けられない戦いだからに決まってるでしょ!」
「何と戦ってるんだよ、アンタは!? あと負けられないと何でメイド服なんだよ!? あと、ちっとも所有の説明になっとらんわっ!」
ホントに意味が分からないわ!
「最強のメイドと言ったら日本一有名なまほろさんでしょ! 勝負服としてまほろさんバージョンのメイド服は鉄板よ!」
「鉄板どころか398日後に活動停止しそうだからヤメロ!」
誰かこの人の思考ルーチンを正常化してよ!
「……あ、あの……結局私はどうすれば……」
「メイド服に決まってるでしょ!」
もういい加減黙ってくれませんかねぇ!?
いや、ある意味面白いんだけどさ!
そこは否定しないけどね!
「いや、ホントに普段着でいいから……」
「……はい……分かりました……」
なんかトボトボと歩き出しちゃったよ……。
え?
俺が悪いの?
コスプレの戦いとか意味がさっぱり分からんけど、本人的に気合い入ってたのかなぁ……でも、とりあえず。
「あ、東雲さん、チョット待って」
「……はい?」
いや、このカッコをそのまま終わらせるには勿体ないでしょ。
「今の東雲さんスゲー似合ってるから、写真撮ってもイイ?」
この逸材を逃す手はないからねぇ……後でバイト頼んでみなきゃ。
それに、ほら……北海道行くとなるとお金掛かるからさ。
学生だろうと、やっぱり自分で稼いだお金で行くのが正道だと思うし。
北海道に行くこと決めてたくらいだから、インドア派でも何かしらの稼ぎはあるのかもしれないけど、別の稼ぎがあったって問題無いだろうし。
「はっ、はい、どうぞっ!!」
お、落ち込みが飛んでった。
レイヤー魂なんだろうか、やっぱりコスプレってのは「似てる」とか「似合ってる」って評価されると嬉しいみたいだね。
実際スゲー似合ってるんだけどさ。
これは後で母さん達に画像送っておけば判断してくれるだろうし、確保指令が出るのは間違いない。
しっかり稼いでもらうとしよう……東雲さんの為だけじゃなく、俺達の為にもね……ウフフ。
あとね……そんな悲しそうな眼で見ても突っ込みませんよ?
「わ……私に突っ込みはないのかしら? かしら?」
「めんどくさいんでパスの方向で」
「ひどい! 頑張ったのに!」
頑張る方向がイロイロ間違ってるでしょうが……確かにお若くて美人さんですし、真由美違いを突っ込んでほしいんでしょうけど、コスプレ会場でもないのにティーンエイジャーで魔法科な真由美さんとかどーなのよ?
年齢はともかく……あとね。
「……琢斗……今日はホントにヒドい……もう泣くよ?」
「マジごめん……あとでフォローするから、ホントに勘弁して……」
もう頭がいっぱいいっぱいなんだってば……。
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