第22話
「……………………………はぁ〜っ!? あれって、琢斗くんが直してたのっ!?」
いやいや、まさかの有名人だったわ。
芸能人とは言えないでしょうけど、世間的にもその辺の業界的にも有名人に分類されるのは間違いないでしょうし、まさかそんな人が助けてくれてたなんて思いもよらなかったというのが正直な感想ね。
でも“その程度”では済まない情報が含まれているのも確かで……。
「これでも整備士の免許持ってるプロですからね」
確かに彼は整備士の資格を持っていると言っていたわね。
でもそれは整備を生業とする人達にとっての必要条件でしかないわよね。
整備士の資格を取ったばかりの新人整備士さんと、職歴ウン十年のベテラン整備士さんの技術や知識が同レベルな訳がないもの。
だけど、あの番組は素人の私が見ても整備の次元が違う、ベテランといった一般的な評価で済ませていいものではナなかったと思うわ。
「いやいや、そういう問題じゃないでしょっ!? 琢斗くん、まだ高校生よねっ!? どんなバイクでも直すって、ノウハウとか熟練の技的なモノとかはっ!?」
だって、あの時の番組で扱ってたバイクって、確か『進駐軍が〜』とか言ってたわよ?
私のお父さんどころかお爺ちゃんでさえ生まれてたかどうかな時代のバイクを直すとか、レベルも次元も違い過ぎない?
スペックが常識を遥かに超えてハイパーなんですけど……。
「まぁ…………実家がヒストリックレーサーとかゴロゴロしてたバイク屋で、物心つく頃からバイク触るのが当たり前の生活してて、ずっとバイクと共に生きてきた様な人間ですから……もちろんそれだけじゃ色々と足りませんけど、足りるだけの事をしてきたって自負はありますし、だからこそ今があるって感じですかね」
とにかく子供の頃から努力してきた……という認識で良いのかしら?
努力の一言で済ませて良いレベルの話ではないと思うけど……。
「一応資格取得には年齢制限がありませんので実務経験という問題さえクリア出来れば資格取得は幼稚園児だろうと可能なんで、俺も家業を上手く利用して小学生のうちに資格は取得してたんですけど、資格を早く取得しても問題が色々ありまして、高校進学前の未成年が整備士として働いて金を稼ぐってのは法的に難しいんですよ……特に義務教育の面で。起業する事自体は可能なので店は出せましたけどね。中学生がマンガ家デビューして個人事務所設立するのと似てるんじゃないですかね。まぁ俺の場合はマンガ家と違って肝心の整備で稼げなかったんですけど……マンガ家みたいに特殊な業種なOKで、国家資格が必要な業種だとNGってのは納得できないところはありますけど、ゴネたところで良い事はないですしね」
「う〜ん……詳しくは分からないけど、マンガ家云々は納得だわ。ナルホドねぇ……」
ナルホド、これは分かるわ。
実際私も中学時代に個人事務所にしたしね。
でもマンガ家と違って整備士としては稼げないのよね?
って、チョット待って!?
小学生で国家資格!?
その辺の知識皆無だからしっかりとは理解出来てないとは思うんだけど、もしかして……琢斗くんって天才?
う〜ん……その辺の話はよく分からないから一先ず置いておくしかないわね。
お金の話は重要だからね!
「で、そんな制約がありながらも何か抜け道はないかと探した結果が例の番組なんですよ」
「……そこがちょっと分からないわね。整備するって事はお金貰う訳でしょ? さっきの話からするとお金は貰えないって事よね? まさかボランティア?」
マンガ家がボランティアでマンガ描くとか無いわぁ……ちょっとしたカットならともかく。
「ええ、整備費としては貰えませんよ。だからあくまで“番組制作協力金”という謝礼的な形で金を貰ってるんですよ。あくまで個人的な趣味で整備しているという体なので、こちらからは映像という情報提供のみで、それに対する対価なのでチューバーなんかに近い収入でして……なので整備費は発生してません。」
「う〜ん、まだよく分からないわね……と言うか、抜け道とか言ってる時点で結構ヤバい話じゃないの?」
結局整備した事でお金貰ってる訳でしょ?
抜け道には思えないんだけど……。
「まぁグレーゾーンなのは確かなんですけど名目が全く違いますし、実際映像で稼いでる同世代の人間もいる訳ですから言い逃れは可能かなと。実際それで済んでますしね。あと関連動画をネットにアップしてる分でも稼げてますね。テレビがエピソードを中心に、アップしてる動画では整備自体をメインにしてる感じです。これがあるから謝礼金自体に説得力が出てきてるんですよ。それに、そもそも個人的に無償でバイクを直す事自体は法的には問題無いですしね。トラブった場合はそれなりに厄介な話になりますけど、元々動かないバイクが相手ですから余程の事がない限り問題にはなりませんし。もっとも整備士としては金を貰って整備に責任を持つのが本来の姿ですから、業界的には褒められた話ではないんですけどね……だからその辺も考慮して業界を荒らすことの無い特殊な事情を持つ方のバイクのみに対象を絞ってる訳です。まさに東雲さんみたいな事情のバイクなんかをね」
確かに誰彼構わずタダで引き受けてたら、バイク業界が成り立たなくなるわよね。
それと収入を確保した上で法的な問題をクリアしようとした結果ってのも分かるけれど……それでも聖人過ぎやしないかしら?
いくら無償で整備してるとは言っても、琢斗くんみたいな性格の子が無責任な整備をするとは思えないし、他からお金を貰ってるとはいえリスク背負って整備してるとしか思えないし……定期点検みたいな軽い整備じゃなくて、あの人のTT−Rみたいにまともに動きもしないバイクを直すって感じの重整備ばかりなんだろうし……。
ってか、想定と全然違っちゃったから、肝心な事話してなかったじゃないのよ。
でも、鈍い私でもさすがに分かっちゃったわ〜。
これはアレよ。
琢斗くん、お金取らずに全部やっちゃう気だわぁ……。
だけど、それはさすがにねぇ……。
「あのね、琢斗くん……今までの話から予想は付いてるんだけどさ……TT−Rの整備費って……」
「ええ、貰えませんよ。元々貰う気も無いですし。TT−Rに関して頼まれたのはあくまで“乗る”事だけですし、事の発端も勝手にこっちから絡んでいっただけの話ですから、これで金取ったら訪問セールスと同じになっちゃいますしね。むしろ俺的にはKSRより高速移動が楽なバイクで日本縦断出来るんですから、直すだけでバイクがグレードアップするとかむしろラッキーな位ですし」
やっぱりか〜。
だけど整備費ナシってのは、かなりの無理を頼む方としては容認出来る話じゃないのよねぇ……。
でもそれなら。
「琢斗くんのお店にいる他の整備士さんにお任せするってのはダメなの?」
琢斗くんのところの整備士さんなら触ってもらっても気にならないと思うし。
「ダメではないですけど、無理ですね。今でもそこそこ仕事抱えてますから、そこに重整備を入れる余裕は無いですね。それでも夏までに直すなら何とかなると思いますけど、東雲さんがKSRに慣れる為の事前ツーリングなんかもしなきゃいけませんし、お父さんの計画的にはそこから一緒に走る予定だった筈ですから、それに間に合わせるには即作業に入らないといけませんので、自分が整備する以外の選択肢は無いですね」
デスヨネー。
うちのハスラー君の定期点検だって予約必須なのに、大変な整備を必要とするバイクを即日引き受けてくれるとか普通は無いわよね……。
じゃあこれなら?
「整備を撮影してもらって、それを買い取るってのは?」
「いや、お姉さんは放送局の関係者じゃないですし、元々整備中は全て撮影してますし、オーナーさんには全ての映像を動画データとBD映像にして渡してますのでお金を貰う様な事じゃないですね」
……なんなのよ、この鉄壁の布陣はっ!
それじゃこっちが申し訳無いんだってばっ!
「それじゃあ、どうすればいいのよぅ……」
「いや、どうもしなくていいんじゃないかと」
「そんなのダメよぅ……」
「いや、法的に無理ですからね?」
「でもでもぉ……」
解決策が思いつかない……。
あぁ、なんか思考がおこちゃまになってきちゃったわ。
そんな幼児退行してる私に投げてくるプランはと言えば。
「その辺はとりあえず棚上げしましょうよ。まずは直してからって事で」
「……う〜ん、でもなぁ……」
「ほら、そんなこと言ってる場合じゃないですよ。呼んでたトラック来ましたから、とっととTT−R積んじゃいますよ」
そうね……なにはともあれ、バイクを直さない事には話は進まないんだし、それまでに解決策を考えておくわっ!
でも、そんな事はどうでもいいくらいの衝撃が。
「知らない美人が二人も……琢斗、浮気?」
超絶美人さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
しかも外人さんよっ!
ファッション誌で表紙にいるのが当たり前なレベルよっ!?
何なのこれ、状況が飲み込めないんですけど!?
「いや、浮気判定がそもそもおかしいからな?」
しかも琢斗くんが超タメ口なんですけど!?
ここに来て茜ちゃんのライバル出現とか、今なら神を呪えるわよっ!?
ってか、どう反応していいのか分からないわよっ!
ほらっ、茜ちゃんなんか呆然としてるわよっ!?
それくらいヤバい美人さんよっ!
あぁ、さっきからずっと思考が幼児退行してるわ……。
「あ〜……えっと、何となく気持ちは分かるんですけど、これからも絡むことになりますので慣れてください」
「この美人さんに慣れろとか、無理ぃ……」
どうやって慣れるのよぉ……ってか、茜ちゃんを見なさいよっ!
これから絡むとか言われたもんだから、対人能力一桁な茜ちゃんが呆然どころかフリーズしちゃってるじゃないのよっ!
「いや、美人度ならおねーさんも東雲さんも同じだと思いますよ? まぁそのへんは置いておくとして……」
茜ちゃん共々褒めてくれたのは嬉しいけどぉ……置いておかないでよぉ……。
「さっき言ってた姉妹のうちの姉なんですよ、このウクライナ美人さん」
確かにっ!
姉妹とも美人とは言ってたけどっ!
こんな超絶美人だとは思わないわよっ!
はぁ……私と茜ちゃんの敗北感を何とかしてよぉ……。
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