第21話

何か話が逸れまくってるけど、もう勝手に話を進めてしまおう。

ってか、整備に戻る途中でメッセージ送っといたから、そろそろ来る筈なんだよな。

んな訳で、まずは東雲さんとお姉さんにこいつを渡しておこう。


「ってな訳で、わたくしこういう者です」


これでも一社会人として名刺はちゃんと持ち歩いてるのよ。


「あ、ありがとうございます……」

「これはどうもご丁寧に……」


よし、これで後はTT−Rを運ぶだけ……。


「って、ちょっと待ったーっ!」


ん?

往年の告白タイムかな?


「私、ここ知ってるんですけどっ!?」

「????」


まぁこの辺では最大手の自負はありますけどね。

あくまで“この辺”限定だけど。

人材不足で手を広げられないのよね……。

ってか、東雲さんの頭の中がクエスチョンだらけになってるみたいよ?


「あのね茜ちゃん、あなたが頑張ってたのは知ってるけど、それでもどうしようもなかった時の為にバイク屋さんを探してたのよ。で、どんなにボロボロなバイクだろうと直してくれるってお店があってね、それが……」

「うちの店って訳ね」

「……ほわぁぁ…………」


お姉さん、説明ありがとう。

でも、あかん……なんか東雲さんの眼がキラッキラしてる。

でもねぇ……。


「一応訂正しておきますけど、そんなボロボロを直すなんてフルレストアみたいなの、仕事としては受けてませんよ」


あくまで“バイク屋としては”だけど。


「え? 違うの? どんなにボロボロでも、どこの国のどんなバイクだろうと新車同様に直すって聞いてたんだけど?」


う〜ん、強ち間違ってはいないんだけど……。


「……それは部署違いと言いますか、別枠と言いますか……そもそも殆ど仕事として成立しないんですよ、それって」

「……? どゆこと?」

「????」


まぁ分からないよね……でも、ある意味あなた達はその“別枠”なんですよ?


「分かりやすい例を挙げるなら、まさにこのTT−Rですね」

「え? このTT−Rが?」

「ええ、このTT−Rです。さっき部品見積もりの話はしましたけど、それだけでざっと50万位はいってました。で、そこに普通は工賃が入りますし、更にエンジン駄目だったのが加わりましたから安く済んでも80万前後は掛かると思われます。で、TT−Rの中古車相場って幾ら位だと思います?」

「……分からないけど、話の流れからすると80万より安いって事よね?」


察しが良くて助かります。

はい、そうなんですよ。


「ええ、ピンキリですけどエンジン掛かって一応走れますってレベルだと20万程度から、ある程度のメンテナンス済みな低走行車で50万超えるかなってとこですね。で、問題なのはちゃんと走れる同一車種のバイクが中古で安く売ってるのに、それよりも遥かに高い金額を出してまで修理する人が世の中にどれだけいるかって話なんですよ。しかも新車の値段すら超える値段を。実際、乗ってる方の大半はライトな層が多いですから、そんな重整備なんてそうそう無いんですよ」


専門店として特化しても商売が成立する刀みたいなバイクならともかく、普通のバイクに思い入れだけで大枚払おうって人はそうそういないんだよね。

人気のある名車ならともかく、希少ってだけでお金を出す人は少ないから……。

しかも希少となると今度は盆栽化しててガレージとかリビングに飾りっ放しだったりして、年間走行距離0kmってのが大半を締めたりしてるから結局仕事には繋がらない。

もっともRC−30みたいに現役でサーキットなんかを走りまくってる個体が結構いたりする“超例外希少車”もあるけど。

30年以上前のバイクなのにメーカーがパーツ再生産してリフレッシュメニューまで用意されちゃうなんていうRC−30みたいな希少バイクは例外中の例外で、大枚払ってまで直したいと思われるバイクとやらがそこら中にゴロゴロしてるなんて話は無い訳で……。

まぁRC−30はともかく、だからこそ今回のTT−Rは“別枠”の1つになってるんだよね。


「確かにそうよね……私達みたいな特殊な事情でもなければ、何十万もの差額を出してまで乗ろうとは思わないでしょうね……。でも、それだと“どんなバイクも新車同様に直す”って話はどこから出てきたの?」


そりゃもう分かりきってますよ。


「それは“愛車SOS”の影響ですね」

「……あれ? なんか聞いた事あるかも……」


まぁ不定期なネタですからね……と、一般人への浸透がイマイチな事に悲しくなっていたら、意外な事に東雲さんが。


「……あ、確かテレビで……」


おっ、嬉しいっ!

あんな不定期特番を覚えててくれるなんて……。


「あっ、思い出したわっ! 父親が乗ってた思い出のバイクをこっそり直してサプライズするって番組よねっ!?」

「ええ、まさにそれです」


父親には限らないんだけど、その辺は置いておくとして本音を吐露したい。

良かったぁ……思ったより浸透してたよ……努力してきた甲斐があるってもんだ。


「ん? でも何でテレビ番組が出てくるの? お店とは関係無くない?」


無かったら話しませんよ?


「勿論関係ありますよ。だって撮影してるのはうちの店ですもん」

「え? あれって琢斗くんのとこで撮影してたの?」


あ、さすがに話の大筋以外は覚えてないか……そういう番組構成だから仕方がないけどさ。


「そうですよ。ってか、番組内で整備してるメカニックは俺ですし」

「……………………………はぁ〜っ!?」


…………お姉さん、何度も大きい声出して疲れないのかな?

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