第19話

「じゃあ……いきますっ!」


さて、何回目で掛かるかな?

1回、2回、3回……5回目のところで呆気なくポロロンと。


「か、掛かりましたっ!」


予想よりもあっさりと掛かったKSRは、東雲さんの喜び具合とは正反対に、淡々と静かにアイドリングを続けていた。

それにしても、何も知らない女の子が一人で誰にも頼ることなく……最終的にちょっと手伝いはしたけど、よく頑張ったもんだ。

大したもんだよ、ホントにさ。


「おめでとう」


まぁ派手に称賛したところで受け入れる事はないだろうし、そもそも気の利いた事なんて言えないから簡単な言葉しか掛けられないんだけど。


「……はい……ありがとう……ございます……」


そりゃ込み上げてくるモノもあるだろうさ。

そのまま黙っちまったけど……今は一人にさせといた方がいいかな。

そんじゃ、今のうちに軽くTT−Rのチェックでもしときますか。


さて……タイヤはD605で、これは前後とも要交換。

フロントは山こそあれどヒビ割れしてるし、リヤなんてほぼ坊主だし。

一応林道も想定してるから同じD605にしとくか。

いくら公道用タイヤとはいえ、さすがにD603で超ロングツーリングはライフ的に厳しいし、D604じゃさすがに林道楽しめないし。

あ、ついでにチューブも怪しいから交換だ。

何年使ってたのかも分からんし、ケチらず不安は排除の方向で。

ヘビーチューブにして予備持ってくって事で。

林道アタックする訳じゃないし、エア圧落とす気は無いからノーマルチューブでも良いんだけど、この辺はもう個人の好みだね。

チェーンとリヤスプロケは……う〜ん、チェーンの張り具合とそこそこ摩耗したドリブンの山からすれば、もう交換しといた方が無難だな。

一応チェーンゲージ当ててみるけど……あ、見た目通りアウトだわ。

カバーで見えないけど、フロントのドライブスプロケットも似たようなもんだろうから交換だ。

カバーの中はチェーンオイルでヌチョヌチョなんだろうなぁ……。

ホイールのスポークはチョイと調整する程度で大丈夫そうかな。

ハイパワーエンジンじゃないし、年式古くても室内保管で状態悪くないし、そうそう折れないだろ……折れても1〜2本なら許容範囲だ。

まぁ何本か予備持ってっときゃ現地でどうにでも出来るし、バカスカ折れでもしない限り致命的な事にはならんしね。

それと走ってる最中に逝かれても困るし、交換歴も判らないから距離も距離だしゴロゴロ異音とか無くてもホイールベアリングは交換しとくか。

フロントフォークは漏れこそ無いけどダストブーツにヒビ割れも見えるし要オーバーホール。

寝てた期間も長いし、多分走り出したらすぐ漏れ出す気がする。

漏れそうなのはKSRもだけどね……。

でもインナーチューブにほぼ錆が無いのが救いか。

さすが室内保管ってとこか。

これなら軽く磨く程度で十分だ。

ステムベアリングは……あ、車庫保管だけあってハンドルロック掛かってないからチェック出来るわ。

う〜ん、軽い引っ掛かりあるなぁ……これは下だけ交換すりゃいいかな。

リヤショックはオイル滲みあるからアウト。

これはもう外注でテク○クスさんに何とかしてもらおう。

スイングアーム周りはオーバーホールでいいけど、リンクから錆び水が流れた様な跡があるし少しキーキー音するなぁ……点検して洗浄&グリスアップでいければその方向で。

ブレーキディスクは前後共にほぼ摩耗限界で、減り方も良くないから交換だし、当然パッドも交換だ。

室内とはいえ眠ってた事まで考慮したら、走行距離考えてもキャリパーとマスターはオーバーホールしなきゃ。

やべぇ……ここまでだけでもかなりの金額いくわ。

でもチョイとモディファイでヘッドライトはLED化しとくかな。

あと小型なLEDフォグランプも追加かな。

夜間走行想定してるから明るさは確保したいし、ナビやスマホの使用にモバイルバッテリーの充電まで考えたら消費電力は抑えておきたいしね。

念の為レギュレーターは予備持っとくか。

初期のTT−Rはセルモーターに問題出てた記憶あるから、念の為オーバーホールするかな。

あと中古で手に入るならキックペダル追加で。

エンジン自体は……走り込んでた割にはキレイだけど、クランクケースとシリンダーの間からオイル漏れしてるなぁ……なんか液体ガスケットで誤魔化そうとした努力が見えるけど、そりゃ焼け石に水だよ、お父さん。

とりあえずエンジンは腰上バラシ確定だなぁ……あとはそれ以外の問題抱えてないことを祈るか……怪しいけどさ。

サイドカウルとシートが仮留め状態なのはバッテリーへのアクセス考えてたのかな……とりあえずテスターでバッテリーチェック……お、まだ11.8Vあるわ。

これならギリでエンジン掛かるかな。

とりあえず後付のキルスイッチONにして……と、あとは燃料タンク周りはキーが無いとどうにもならん……と思ったら、お姉さん登場。


「お疲れさま、琢斗くん。あっちは無事直ったみたいね」

「ええ、予想通りあっさりと。それよりも……放っておいていいんですか?」


東雲さん号泣しちゃてるで?

ゾンビィ1号みたいに干からびる勢いやで?

家族が放っておくのもどうよ。


「あー……まぁ今は一人にさせときましょうよ」


それがいいのかね……まぁ家族の話に口出しするのもおこがましいか。


「で、東雲さんはこのままとして、こいつのキーが必要なんですが」

「だろうと思って持ってきたわよ。はい、これ」

「そりゃどうも」


確かにTT−Rの点検をしてからって話はしたけど、今日やるとは言ってなかったのに……話が早くて助かるね。

とりあえずガソリンタンクのチェックしちまうか。

うん、やっぱり満タン保管してたこともあってか、錆はほぼ無い。

これはかなり助かる。

ガソリンは……それなりに臭うけど、まだイケるな。

とりあえずエンジン掛ける程度なら問題無い。

エンジンオイルは古いだろうけど一応入ってる。

見た感じじゃ燃料希釈が進んだ感じもないし、まぁ掛けるだけなら問題無さそうかな。

ま、とりあえずキャブ下にホース繋げて……うん、コック不良は無いね。

んじゃコックをONにしてフロートレベルチェック……うん、こっちも問題無いね。

でもフューエルコックは……うーん、今のところ生きてるけど、途中で漏れ始めても困るしバルブとOリングは交換しといた方がイイな。

あとはエンジン掛けてみてだな……とか、あれこれ考えてたら。


「それで、これはどうにかなりそう?」


エンジン以外の点検が一通り終わったところで声をかけてくるとか、タイミング測ってる辺り東雲さんの家族らしい配慮だね。


「まだエンジン掛けてないから断言は出来ませんけど、まぁ最悪のケースでもどうにでも出来ますから、大丈夫っちゃ大丈夫ですよ。お金はかなり掛かりそうですけどね」


そう言いつつ、スマホをポチポチと。


「それは頼もしいんだけど……何してるの、琢斗くん?」

「TT−Rのパーツを登録して価格と在庫の確認してます」

「え? お店じゃないのにそんな事出来るの?」


今は便利な時代ですので。


「専用アプリあるんで、即座に在庫まで分かりますよ。ほら、こんな感じで」


買わないのも登録したから、金額の総合計出したら凄いことになりそうだけど。


「便利な世の中ねぇ……あ、在庫無しになってるのあるけど、大丈夫なの?」


そう言われて確認したら、リヤサスASSYだった。


「これは元々オーバーホールするから問題無いですね。単に在庫あったら新品選ぶのも選択肢に入れられるかなってだけの話ですね」

「そうなんだ……じゃあ大丈夫なのね?」

「まだ重要な部品の欠品は頭抱えるレベルでは起きてないバイクの筈ですから大丈夫ですよ。まだ中古車も多少は流れてますから、ドナーも手に入るといえば入りますしね」


実際、シリンダーもクランクも在庫有りだし。

まぁシリンダーはどうにでも出来るから重要とは言えないか。

あとは……。


「ま、あとはエンジン掛けてから金額が跳ね上がるかどうかってとこですね」

「お金で済む話なら気にしないわよ?」


うん、そりゃ確かにその通りなんだけどさ。

常識的な金額じゃどうしょうもないってバイクは結構あるからねぇ……逆に言うなら非常識なレベルでお金注ぎ込めばどうにでもなるって話でもあるけど、それこそ文字通り非常識過ぎるし。

どっちにしろTT−Rは“その界隈”とは違うからいいけどさ。

でもなぁ……状態調べた限りだと不安なんだよなぁ……爆弾抱えてそうで……どうにもセミレストア一直線な予感がヒシヒシと……新車購入時の予算的な問題があったのかなとは思うけど、オプションで用意されてたオイルクーラーが付いてないんだよなぁ、こいつ……ただでさえオイル量が1L程度しかないのに、それで高速バンバン飛ばしてたら入れてたオイル次第ではかなりヤバい……ポリマーまみれのオイルなんか使ってたらほぼアウトだ。

しかもタンクに“次回オイル交換93000km”なんてテプラが貼ってあるし……う~ん、ほぼ10万kmかぁ……回しまくった予想しか立たないんだよなぁ……ヤバいなぁ……とか思ってたら。


「……な、仲間ハズレは良くないと思います……グスッ……」


あ、いつの間にか東雲さんが復活してた……いや、復活はしてねーか。

泣き腫らして眼が真っ赤だし。


「そんな事言ったってぇ〜、茜ちゃんワンワン泣いてたしぃ〜」

「わ、ワンワンなんて泣いてません! 少し涙が出ただけです!」


泣いてたのは認めちゃうんだ……それ見ないように離れたんだけどなぁ……。

その辺掘り下げても面倒にしかならんだろうし、話を戻しちまおう。


「こっちは大まかな点検を済ませて、あとはエンジンの確認しようかってとこだよ」

「……グスッ……そうなんですか?」

「はい、そうなんです」


くそう、泣いてる娘は苦手だ……どうしたらいいかさっぱりわからん。

うちは姉妹揃ってまず泣かないし……昔は結構泣いてたけど、放置してたら泣き止んでたし……。

まぁ、どうせ俺が頭捻ったところで良い対処法なんか浮かばないし、やるべき事をやるって事で何事も無かったかの様にエンジンチェックに戻ろうじゃないの。

チョーク引っぱって、イグニッションON。

ん~、オドメーターは……91600kmかぁ……ま、掛ければ分かるか。

あとはスタータースイッチをポチッとな。

む……初爆はあったけど、眠ってただけあって掛かりが悪いな。

あとセル弱ぇ……バッテリーはマジでギリだ。

とりあえずキャブも点火系も問題無さそうだから、一度イグニッションを切って少し放置っと。

するとお姉さんが問いかけてきた。


「掛からないのかしら?」

「まぁ理由はともあれ放置されてた車両ですからね。バッテリーにあまり元気無いんで、一旦休ませたとこです。次でも駄目ならハスラーからちょっと電気を分けてもらわなきゃならないかもしれません」

「どうするのか分からないけど、やれる事があったら教えてね」

「はい、その時はお願いします」


さて、もういいかな。

イグニッションONで、もう一度スターターをポチッとな。

バッテリー保つか……もうチョイ……あと少し……って、掛かった!

けど、こりゃアカンッ!

ゴロゴロ言っとる上にすぐ止まっちまったわ。

そっ閉じならぬ、即OFFだ。


「う~ん……」

「……だ、ダメなんでしょうか?」


東雲さんが不安そうに聞いてくるけど、嘘はつけないからなぁ。

今の音聞いたなら予想は付いてると思うけど。


「正直に言うけど、エンジン駄目だね」


ニュートラルの無負荷状態でエンジン掛けた瞬間からこれだけの異音が出てるとなると、音からして多分クランクのサイドベアリングだ。

球が1個以上砕けてる感じかな。

オイルポンプなんかの異音とは違うし、タイミングチェーンが暴れてるのとも違うし、タペット廻りの音とも違う。

ミッション系ならニュートラルという無負荷状態でエンジン止まる程の抵抗あるならもっと違う音になるし。

一応とはいえエンジン掛かって、排気音聞いた限り排圧はしっかりしてるみたいだったから、バルブ周りに極端な問題は無い筈。

だから、ひとまずヘッド廻りは排除でいい。

でもカムジャーナルはヤバそうだから、ラインボーリングで修正掛けるのは予定に入れとくか。

カムに傷とか無ければいいけど……。

あと、ついでだしポートもいっとくか。

そのまま組み直すだけとか、個人的に許容出来んし。

あとはWPCとかDLCなんかは追加して、新車時よりも低フリクションな素敵エンジンに仕上げちまおう。

で、その辺はともかくクランクまで逝ってなければいいなってところだけど、おそらく無理っぽい。

軸ズレの程度次第ではシリンダーもピストンもコンロッドもアウトだし……アイドリングしない時点でお察しだけど、やっぱり高速でブン回してた末って感じかなぁ……。


「ちょっとお聞きしますが、東雲さんのお父さんってツーリングは大抵日帰りでした?」


どちらが答えてくれても良かったんだけど、案の定復帰途上の東雲さんじゃなくてお姉さんが答えてくれた。


「そうね。私達が“こんな”だからってのもあって、いつも日帰りだったわね」

「やっぱりそうですか……」


うん、予想通り“回し過ぎ”だね。

普通に下道を法定速度で走ってる程度なら、いくら非力な250シングルでもオイル交換しっかりしてれば10万kmオーバーとか全然余裕だからね。


「えっと……駄目って言うのは予想よりかなり良くない感じなのかしら?」


勿論直すのは問題無いけど、説明だけはしとかなきゃね。


「ぶっちゃけ、今までの無茶のツケが来てる感じですね。さり気なく買い替えようかな〜とか話振られませんでした?」


異音に気付いて何とかバイク屋に持って行って、直すくらいなら買い替えた方が安いし早いですよって言われて、悩んでひとまず家に帰り着いた……かどうかで最後のトドメ刺してアイドリングすらしなくなっちゃった感じかなぁ。

積載されて帰ってきたなら家族が知らない訳無いだろうし。

東雲さん、とても仲良かったみたいだしね。

で、東雲さんのお父さんの傾向を考えたら『こっちの方が年間維持費安くなるなぁ……』とかブツブツつぶやき気味にアピールしてたんじゃないかって気がするんだよね。


「うーん……あ、思い出した。あの事故の直前に『冬になるとバイクの値段下がるんだよなぁ……維持費もこっちの方が安いし……』とかブツブツ言ってたわ。バイクに関しては一度も反対とかしたことないし、自分の稼いだお金で好きな物買えばいいだけの話なんだしいいんじゃないの〜って言った気がするけど」

「ナルホド……」


やっぱりブツブツ言ってたんかいっ!

そして軽く返されると……お父さんはドキドキしながら話していたんだろうに……ま、これもお約束か。

それはともかく、大体把握したわ。


「それで、結論としてはどうなのかしら? 買い替えなきゃいけないような状態なら諦めるけど……」


え?

何言ってんの?

東雲さんも下向いちゃったし……いやいや、ちゃんと話したよね?

最初から大丈夫だってさ。

そりゃ勿論。


「直りますし直しますよ。ただ結構金掛かるな〜って思っただけです」

「そうね……そう言ってたわよね、最初から。ちなみに買い替え話をしてたって予想はどこから来たの? さっきの日帰りってのと、どんな繋がりがあるの?」


あ、やっぱそこ気になるんだ。


「予想って程の話じゃないですよ。家族が心配だからお泊りツーリングで家を空ける訳にはいかない……けど走りには行きたい……そこで日帰りです。昼間はそうそう問題なんて起きないでしょうしね。でも行きたいところはそこそこ距離がある……だから朝早くに出発して燃費無視して高速飛ばして……ってのを繰り返した末の9万kmなんだろうなぁ……って話です。250ccのトレールバイクって高速走るのにはあまり向いてませんから、100km/hで巡航するとかなりエンジンに負担が掛かるんです。で、法定制限速度の実速100km/hって、メーター読みだと誤差があるんで105〜110km/hでところでして、その速度域だと燃費もガタ落ちのアクセル全開に近い高負荷状態なんです。それを何度も繰り返した末の9万km……それがこのバイクの現状じゃないかなって話ですね」


いくら規制が緩かった時代のツインカムだと言っても、所詮は250ccの量産車用空冷単気筒エンジン。

これでメーター読み110km/h……いや、おそらく下りでは警察に見逃される事を祈りつつギリギリ狙って実速で110km/h近い速度で走ってた時もあったと思うんだよね。

TT−Rで実速110km/h近くの巡航するなら間違いなく全開だ。

そんな全開走行を続けた末の9万kmなら……そりゃ逝ってもおかしくないわ。

むしろよく頑張ったよ、TT−R君は。


「ナルホドね……それで買い替えに話が行ったって事?」


いや、買い替えは買い替えでも、東雲さんのお父さんはそんな諦めのいい男じゃないと思います……主にダメ人間な方向で。

何故ならそれがおっさんライダーだから。


「うーん……多分その前にワンクッション入れてると思いますよ?」

「ワンクッション?」

「ええ、ワンクッションです。おそらくですけど、その話をする前にバイクは探してたと思いますよ。え〜っと……ここにある本、ちょっと引っ張り出してもいいですか?」


実際“この手法”で誤魔化そうとするおっさんライダーは沢山いるんだよね〜。

で、あるわあるわ、バイク雑誌が。

そして…………おっ、あったあった、バイクブ◯スが。

さてさて……折り目はあるかな……あ、やっぱりビンゴだ。

東雲さんのお父さんが何を考えてたのかってのはかなり重要みたいだから、ここは答え合わせだ。


「はい、これが東雲さんのお父さんが考えていたワンクッションです」

「これって……TT−R?」


はい、そうです、折り目が付いてたのは、TT−Rレイドの中古です。

これが東雲さんのお父さんが考えていた“手法”ですよ。

お、お姉さんだけじゃなくて東雲さんも覗いてきた。

やっぱり気になるよね。


「ええ、探してたんですよ、東雲さんのお父さんが乗ってたのと全く同じTT−Rを。で、こっそり買い替えて何事も無かったかの様にガレージに置いておくつもりだったと思います。バレなきゃセーフですからね、本人的には。でも残念、30年近く前のバイクが、しかも程度の良い車両がそうそう転がっている訳もなく、バレないプランを諦めて泣く泣く買い替え話をし始めた……多分こんな感じじゃないですかね」


ついでに言うなら、コンプレッサーやら工具やらがそこそこ揃ってたりするのも自分で直しちゃるわと足掻こうとした末ってのも無きにしもあらずかな。

実際廃刊になったアウトラ◯ダーのバッグナンバーに隠れてTT−Rのサービスマニュアルあったし。

まぁサービスマニュアルだけなら重整備しない人でも持ってたって不思議は無いけど、サービスマニュアル見てハードルの高さに尻込みして、手を出す前に断念した……今回のはそんなとこかな。

そういう人も結構いるし。

住宅ローン払ってたおっさんライダーなら、経済的余裕はあまり無かったかもしれないし。

あと重整備になっていくほど一般的なハンドツールじゃどうにもならなくなるからさ……重要になるのは特殊工具なんだよね。

そしてアレコレ揃えていくと素敵な金額になるから、滅多に整備しない人がそこまで金掛けるかという話になっちゃうんだよね。

一応ついでに言うなら、日本全国分のツーリング○ップルもあったし、亡くなる直前に買ったであろうバイクブ○スも何冊か並んでたんだよね……バイクブ◯スなんてTT−Rの所に絶対折り目付いてるでしょうよ……。


「あのね琢斗くん……ちょっと聞きたい事が……私達ってバイクに関してはただの一度も文句言ったりしたことないのよ。でも、何と言うか……私達って知らないうちにあの人を責めてたなんて事はあるのかしら?」


う〜ん、そう思っても仕方がないのかなぁ……でも、そういう話じゃないんだよなぁ。


「……えっとですね……その場にいた訳じゃないですけど、これに関しては断言します。おっさんライダーってそんなもんなんです」

「……そんなもんって?」


これ、俺にも突き刺さってくる話なんだよなぁ……契約金入ったら服買ってって散々言われた末に買い物まで付き合わされたし……。


「まぁどこまでいってもバイクって殆どの人にとっては贅沢品なんですよ。ろくに家族旅行にも行けない実質的お一人様用車両で、保険料だけでも年間数万円掛かる贅沢品、それがバイクです。ましてや軽自動車とはいえハスラーも持ってた訳ですから、通勤にすら使わないバイクはそれこそ贅沢品です。そんな金あるなら娘や嫁さんに服でも買ってやれよって世間様は言う訳です。バイク乗りからすればお前に迷惑掛けてないんだから放っておけよと言いたくなる理屈ですが。普段から一人で大きなSUV乗り回してる人より100倍エコでしょうよと。で、そんな文句はありつつも世間様が言う様にバイクが贅沢品であるという認識が本人にはありますから、家族が認めてくれてるという事実を毎回確認せずにはいられない訳です。前回は認めてくれてたけど、今回認めてくれるかどうかは分からない……だからコソコソと買い物しますし、隠しきれない物に関しては毎回お伺いを立てる訳です。ですから話を聞いた限りですと家族側には何の落ち度も問題もありませんよ。家族無視して散財しまくった挙げ句経済状態最悪にしちまうダメ人間も世間にはいたりしますから、むしろ家族を大切にしてたって事だと思いますし、おっさんライダーはそういう生き物って認識してくれれば充分じゃないですかね」


ライダーにとってはこれほどあるあるな話もないんだけど、一般人との認識のズレってどうしてこうも大きいんだろうね?

想像つきそうなもんだけどなぁ……まぁバイク脳な俺が一般人に疑問を持つなんて烏滸がましいか。


「ナルホドね……そういう生き物なんだ」

「ええ、そういう生き物です」


その認識でいいです。

それ以上バイク馬鹿のことを深く理解しようなんて思ったら、自分もライダーになるしかないからね?

そして、日本縦断したあとは乗る人のいないバイクがガレージに1台ポツンと置かれる事になるんだけど……それは気付いてないのかな?

KSRは東雲さんのバイクだけど、こいつは今の所乗り手のいない状態で俺の役目はあくまで日本縦断のついでに東雲さんが宗谷岬まで行く手助けをする事で、こいつのその後は何も決まってない。

きっちり直すのに、その後お役目御免なんて可哀想だよね?

ついでに言うなら、TT−Rのリヤサスは車高調整可能だからセロー並みとは言わないけど近いレベルまでローダウン出来るし、それならお姉さんでも気軽に乗れると思うでー?

まぁ事故なんかで後々の人生左右したりする選択だから、言葉にして他人に薦める様な事はしないけどさ。

こういうのは自分の意志で選択しないとね。

なので、俺は自分がやるべき事をやるだけ。

でもね……乗りたくなるようには仕掛けるからね?

女性ライダーを増やすチャンスを逃すなんて、俺はそんな甘い男じゃないよ?

ふふふ……。

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