第17話
そんなにおかしな話だろうか?
確かに距離だけで言えばかなり馬鹿ネタだけど、自転車で日本一周とかしてる奴だっていっぱいいるんだし、バイクで日本縦断なんて時間が掛かるだけの楽ちんツーリングだよ?
日本縦断をキャノンボールランするってんなら頭おかしいって言ってもいいと思うけどさ。
いや、ホントの事言えばキャノンボールランするつもりだったんだけどさ。
KSRでも気合入れれば60時間は切れると思うから、二徹で走ればいけるだろと。
まぁ今回の件があるからキャノンボールはしないで九州からネタ拾いながら走る計画に変更しようとは思ってるけど……たぶん東雲さんにはこの辺の“ネタ”が重要になってくる気がするし。
「って事は、何? 琢斗くんは夏に2,300km位走るって言うの?」
「違いますよ」
「え? 違うの?」
そりゃ違うさ。
それだと佐多岬から青森までの単純距離でしかないし。
まず自宅から佐多岬の往復で最低2,900km。
そして自宅から青森までで約800kmで、函館から宗谷岬までが約600km。
これが往復だから、2,800km。
つまり。
「往復ですから、最低でも5,700kmは走ります」
「……琢斗くんって頭おかしいの?」
「至って正常だわ!」
失礼しちゃうわ、プンプン!
いかん、また理事長っぽい思考になってる……。
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「至って正常だわ!」
「いやいや、それは無理があるでしょ、琢斗くん。北海道に行くのですら過酷だって言ってるのに、距離がハイパーインフレ起こしてるわよ。スカウターで戦闘力計測したら壊れちゃうレベルよ?」
5,700kmとか海外に行くレベルだから。
今ササッとネットで調べたらカザフスタンとかインドまでの距離って出てきたわよっ!
「スカウターとか世代が合ってないでしょ……そもそもテロとか無縁で安全な日本国内を走るんだから、全然余裕でしょうよ」
「それはまぁ確かに……って、論点ずらしはダメよ!」
「そこは騙されとこうよ……」
距離の問題を安全性って言葉で誤魔化そうとするなんて……危うく騙されるところだったわ……琢斗くん、恐ろしい子っ!
それにしても、ちょっと……いや、かなり凄すぎじゃないかしら?
てもねぇ……まさかこんなところで旦那を思い出すとは思わなかったわ……。
そっかぁ……琢斗くんもなんだぁ……。
「……それで、何でまたそんな無茶な計画立ててるのよ?」
「何でって……やりたいからやるってだけで、そこに意味なんてありませんよ」
言葉だけ聞けば確かにそんなもんかって話なのは確かなんだけど、そのスケールがおかしすぎるんだっての!
山があったら登るでしょって軽いノリでチョモランマ登るのと何が違うのよってくらいおかしいわよ!
「アホだ……ここに真正のアホがいるわ……」
「よせやい、照れるじゃねーか。褒めたって何も出ないゾ?」
「褒めとらんわっ!」
“頭おかしい"は誹りで“アホ”は褒め言葉なんだ……バイクに関する方向性によってはちょっとポンコツ気味なのね。
面白いからいいけど……ってか、茜が凄い顔で睨んでるわ。
怖い、怖いわよ茜ちゃん。
こんな軽口にいちいち反応しないで頂戴よ。
面倒な女って思われちゃうぞ?
まぁ茜の計画には影響無さそうだから北海道行きの同行願いは継続するとして……。
「まぁ琢斗くんのバイク馬鹿っぷりはひとまず置いておくとして」
「誉め殺しで何させる気ですか?」
あら、カンがいいわね。
でも誉め殺しじゃないからね?
あと“バイク馬鹿”は褒め言葉に分類されるのね……。
「……まぁ琢斗くんのバイク馬鹿っぷりはひとまず置いておくとして」
「無視は良くないと思います」
いいのよ別に。
そこに触れてると話が進まないから。
「日本縦断ってどのバイクでするの?」
「今日乗ってきたKSRですよ」
ナルホド……じゃあ。
「琢斗くんはそのKSRにする拘りとかあるの? 茜みたいに」
ここは聞いとかなきゃね。
「いえ、確かに気に入ってるバイクですけど、たまたま安く手に入れただけですし、公道走れるのアレしか持ってませんから選択肢なんて無いってだけです。ロングツーリングに向いてるバイクじゃないですけど、まぁ苦しむのが自分だけなんだからイイかなと」
ナルホド……じゃあ問題無さそうね。
そうすると、あとは……。
「さっき北海道行きで高速乗れないと辛い云々って言ってたけど、琢斗くんの免許って普通二輪って事でいいのかしら?」
「ええ、もちろん。じゃないと高速乗れませんしね。ちなみにKSRもボアアップ済みで登録変更もしてますから高速に乗れますよ」
ほぅ……それなら問題はほぼ解決かしら。
「じゃあさ……違うバイクにしない?」
「違うバイク……ああ、ナルホド……イイですよ。ここまで絡んどいて今更の話ですし」
いや、自分で言っておいてなんだけどさ。
「……琢斗くん、ホントに察し良過ぎない?」
「いやいや、だからバイク乗りあるあるなだけですって」
「それにしたって……どう理解したのか一応聞いてもいい?」
あくまで私の主観でしかないけれど、悔しい事に旦那のことを一番理解してるのは私じゃなくて琢斗くんなのかもしれない……そう思っちゃったら、とことん聞いてみたくなるのも仕方がないでしょうよ。
「そんな難しい話じゃないでしょ……違うバイクって、下のTT−Rの事ですよね? 東雲さんのお父さんの」
「……確かにその通りなんだけど……それで結論は?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
決まってるんだ……その断言にちょっと嫉妬するわね。
「バイク馬鹿のもう1つの夢、日本縦断をお父さんのバイクで同時に叶えちまおうって話ですよ」
いや、もうね……ホントに脱帽よ。
凄過ぎでしょ、琢斗くん……。
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「……琢斗君って頭おかしいの?」
「至って正常だわ!」
神を冒涜するとは……夕食だけではなく明日の朝食も要らないのですね?
しかもアホだの馬鹿だのと……彼が許しても私は許しませんよっ!
とか考えていたら、話が別の方向に……もしかしてお母さんも聞いていたのでしょうか。
お父さんのあの話を。
「じゃあさ……違うバイクにしない?」
「違うバイク……ああ、ナルホド……イイですよ。ここまで絡んどいて今更の話ですし」
あぁ……やはり彼は気付いている様です。
「……琢斗くん、ホントに察し良過ぎない?」
「いやいや、だからバイク乗りあるあるなだけですって」
その程度の話である訳がありません。
だって、今の今まで家族である私ですら思い出せずにいた事なのですから。
これはもう奇跡と言っても良いのではないかと思うのです。
「それにしたって……どう理解したのか一応聞いてもいい?」
はい、私も琢斗くんの口から聞きたいです。
「そんな難しい話じゃないでしょ……違うバイクって、下のTT−Rの事ですよね? 東雲さんのお父さんの」
最早驚きはありません。
ただただ嬉しいだけです。
「……確かにその通りなんだけど……それで結論は?」
「そんなの決まってるじゃないですか」
お父さんを、お父さんの夢を理解してくれている事に。
「バイク馬鹿のもう1つの夢、日本縦断をお父さんのバイクで同時に叶えちまおうって話ですよ」
そう、お父さんは生前言っていたのです。
一度でいいから日本縦断してみたいなと。
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