第14話
さて、料理が出てくるまで待ちな訳だけど、これだけでもなかなかに贅沢だね。
だって美女と美少女が二人並んでキッチンで料理してるんだよ?
「……こそ……………される時………こが分…………茜………っ!?」
「また…………な事………ただ…………作るだ…………し、それ………分水…………?」
「……っ! 分かって…………………っ! …………くん…………く優良…………っ!? それは…………だって……………でしょっ!?」
和気あいあいとは微妙に違う気がするけど、仲の良さが伝わってくる台所風景だね。
これだけでも金取れるレベルだし、それをある意味独占状態なんだから不思議な気分だ。
うちの妹は料理からっきしだし、東雲さんの女子力が眩しいわ……帰ったら妹の隣で「お前と同じ美少女で、料理まで出来ちゃう人間力高い娘見ちゃったわ……」とか言ったら、負けん気だけは無駄に強いあいつなら奮起するかもしれないな。
女子力なんて時代錯誤な事を言う気はないけど、自活力くらいは養ってもらわないと兄として心配だし……。
あいつ、スポーツ以外全部身内任せだからなぁ……そもそも今朝の朝食用意したのも俺だし……俺様渾身のフレンチトーストに文句つけやがって……晩飯、アイツだけは納豆ご飯のみにしようかな。
姉の方は……独創ポイズン料理の天才だから、煽ったりしたら間違いなく死ぬ……俺が。
ってか、そんな事考えてる場合じゃないや。
夏に向けてのスケジュール確認しなきゃ。
サマーブレイクあるから鈴鹿とはぶつからないけど、出るのは決まってるからなぁ……他のレースともぶつからない日程で慣らしツーリングの予定を組まなきゃ。
それに少なくとも人間の慣らしも兼ねて梅雨入り前に1度は走りに行っておきたいしなぁ。
今のレベルでボアアップキット組み込むのは厳しいかもしれないけど作業自体はそこまで難しくもないし、つきっきりで見てれば出来ると思うし、出来ればお父さんの計画通りにしてあげたいなぁ……。
登録変更の書類は俺が揃えるとして、申請するから平日休みは……あ、来月中旬に学園祭の振替休日あるから、それでいけるか。
あとは走る事そのものも初心者のペース考えなきゃいけないし、フェリーの予約もあるし……余計なお世話なのは分かってるけど、心配だしなぁ……。
レースがここで……こっちは連戦だから日本に帰ってこないし……やべぇ、スケジュール的にかなりギリギリじゃね?
とか、あれこれ考えていたら。
「お、お……お待たせしましたっ!」
妙に緊張してる東雲さんが料理を運んできてくれた。
言ってくれれば料理くらい運んだのに。
「おお、美味そう……」
「いえ、素人料理ですみません……」
「いやいや、メチャクチャ美味しそうだよ?」
「っ!!!!……………っ!!!!」
あ、なんか後ろ向いてフローリングをスタンピングしてる……Gでも出たのかな?
それにしてもお世辞抜きで美味そうだ。
おい、我が家の姉妹よ……こっちの美少女の人間力は圧倒的だぞ?
「お待たせしたわね、琢斗くん。とりあえず茜は放っておいて……」
「放っておいちゃダメだろ……一緒に食おうよ」
「いただきますっ!」
「いただくなっつーのっ!」
お姉さんがフリーダム過ぎる……。
あと東雲さん……いつまでGと戦ってんの?
無駄撃ちはイカンよ。
レースでインを差すのと同じで、スパンと一撃よ、一撃。
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「今こそ人間力が試される時……ここが分水嶺よ、茜ちゃんっ!」
お母さんが妙な気合を入れながら意味不明な事を言ってきました。
「また意味不明な事を……ただお昼御飯作るだけなんだし、それが何で分水嶺なんですか?」
「かーっ! 分かってないわね、茜っ! 琢斗くんは間違いなく優良物件よっ!? それはアンタだって分かってるんでしょっ!?」
もちろん頷きます。
当然です。
だって神ですから。
「ここで茜の良さをアピールすれば、琢斗くんは未来の旦那様間違いなしよ! だって茜は私似の美人さんなんだから!」
「にゃっ、にゃにを言ってりゅのか分からにゃいんですけどっ!?」
か、神が旦那様!?
どっ、どどっど、どうしまひょう!?
私が天界に嫁ぐという事でしょうか!?
「あ、茜のじゃなくて私の旦那かも?」
……………………なんですって?
「あっ、茜? じょ、冗談だからね? だからそんな怖い顔しないで? ね?」
怖い顔ってなんですか。
失礼ですね。
ただちょっと睨んだだけじゃないですか。
琢斗くんに誤解されるような言葉は謹んでほしいです。
まったくもう……。
まぁお母さんには幸せになってほしいとは思いますから、お母さんが認める方なら再婚してほしいとも思いますが……。
でも、琢斗くんがお義父さんになるのは違う気がするんです。
超違うと思うんです!
「……まぁいいです。でもアピールなんてしません。琢斗くんには食べてもらえればそれだけで満足ですし……だから手は抜きません!」
絶対美味しいものを食べてもらうんです!
神への供物は手を抜いてはいけないのです!
もっとも料理人でもない小娘の家庭料理で満足していただけるとは思えませんが……でも、大切なのは気持ちなので!
「はぁ……健気ねぇ……ここまで即落ちしてるとは思わなかったわ……でも『琢斗くん』かぁ……」
意味が分かりません。
お客様に料理を振る舞うのは普通の事だと思うのですが、何故健気という不可思議な評価になるのでしょうか?
あと即落ちとは何でしょう?
それにクラスメイトなのですから、琢斗くんと呼んだっておかしくない筈です。
お母さんだけ琢斗くんって呼ぶのはズルいですしっ!
「まぁいいわ。琢斗くんを待たせるのも悪いし、ちゃちゃっと仕上げちゃいましょう」
当然です。
わざわざ時間まで割いてもらっているのにお待たせするとか言語道断です。
ですが、待たせてはいけないと言うのであれば。
「じゃあちょっと黙っててください」
「あ、ハイ、スミマセンデシタ……」
茶々を入れないでください。
とは言いながらも、完成です!
パンもしっかり焼けました。
「それじゃ、お母さんはパンとサラダをお願いします。私はシチューを運びますので」
「アイアイサー!」
……上機嫌なのは分かりますが、歳を考えてください……。
それはともかく、料理を運ばなくては!
「お、お……お待たせしましたっ!」
あ……今更ですけど、琢斗くんに好き嫌いがあるか聞いてませんでした……もし食べれないとか言われたらどうしましょう……。
「おお、美味そう……」
よ、良かった……大丈夫そうです……でも……一生懸命作りましたけど、所詮私の料理ですし……。
「いえ、素人料理ですみません……」
「いやいや、メチャクチャ美味しそうだよ?」
「っ!!!!……………っ!!!!」
お、美味しそうって言ってくれました!
ど、どどっど、どうしましょうっ!?
嬉し過ぎてじっとしていられませんっ!
「お待たせしたわね、琢斗くん。とりあえず茜は放っておいて……」
「放っておいちゃダメだろ……一緒に食おうよ」
「いただきますっ!」
「いただくなっつーのっ!」
……お母さんの晩御飯は要らないみたいですね。
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