第12話

切りどころが無くて長々と書いてしまいました……。



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天使じゃありません。

神です。

推理の的中率がとんでもありません。

天使ではここまで見抜けないでしょう。

それならば神しかありません。

ゴットアイです。

森羅万象なデウスです。

それでいて私の事を何度も可愛いとか言ってくれるものですから、どうにもムズムズが止まりません。

顔もトロトロに溶けそうになったので、それを我慢するのに必死でしたが、お母さんにはバレバレでした。

こっちを見てニヤニヤしてましたからね……これは今朝早くに作ったデザート用のプリンを取り上げるしかありませんね。

まぁお母さんへの報復はあとでキッチリするとして、天川くんの推理です。

当事者である私が知らないことをいくつも言っているのですが、それに対してお母さんが頷いているのです。

何一つ否定しないのです。

それどころか驚いてすらいますので、おそらく私の理解が及ばないところでもズバズバと当てまくっているのではないでしょうか。

でもちょっと落ち込みました。

天川くんに怖いと言われました。

私は絶望の意味を知りました。

そしてまた可愛いと言われました。

素直とも言われました。

顔が崩壊しそうです……困ります……。

落としてから上げるのはテクニックだとお母さんは言っていました。

つまり天川くんはテクニシャンな神。

……どうしましょう?

そうこうするうちに話の結論に近づいてきて、そこで天川くんが私の方を見たと思ったら突然話を終わらせてしまいました。

さすが神です。

天川くんはアレに間違いなく気付いています。

だから私に気を使ってくれたのです。

嬉しいですけど、今その気遣いは必要ありません。


「最後までお願いします……」


私が知りたいのはあなたなんです。


「天川くんの予想を教えて下さい……最後まで……」


私の元に神が現れたという確証がもっと欲しいのです。

でも私の事を気遣うあまり、なかなか話してくれません。


「いや、でも……」


どうやら私の頼みは聞いてくれそうもありません。

ではお母さんに助力を頼みます。

目でお母さんに訴えたところ、仕方ないなぁといった顔をしてから切り出してくれました。


「琢斗くん、ここまで来たなら最後まで言ってほしいな。茜はもう吹っ切れてるしね。むしろ茜の事情を知って、茜を理解して、茜の手助けをしてくれる……そんな人が必要なのよ、今の茜には。どんな理屈並べたって、面倒な拘りでこんなことになってる娘だからね」


お母さんグッジョブです。

良いこと言ってくれました。

デザートのプリンを取り上げるのは止めておきますね。

でも、最後の言葉は余計ですよ?

やっぱりデザートは無しです。


「でも……それなら俺が言うより東雲さんかお姉さんから言ってもらえた方が……。頭の中で整理しながら話してたから気が回らずにベラベラ喋っちゃいましたけど……これってぶっちゃけた話、他人の家庭の事情をあれこれと想像してた下衆野郎じゃないですか、俺って」


なるほど……そういう考え方も出来るんですね。

でも天川くんは下衆野郎なんかじゃありませんよ?

神ですし。

そもそも下衆野郎というのはねっとりしてて寒気がする程気持ち悪いのです。

天川くんからそんな感じは一度だって受けてませんよ?


「確かにそういう考え方も出来るけど……そこまで考えたのは、茜の事を心配してくれてたからでしょ?」

「それは……あそこまで頑張ってたら、まぁ……」


私の事を心配してくれてたそうですっ!

天川くんは慈愛の神でしたっ!

ヴィーナスですっ!

女の子には見えませんけどっ!


「私達から言うのが筋かなとも思うけど、やっぱり琢斗くんから言ってほしいというのが本音かな。たぶん茜もそう。聞いてもらうって事は、私達にしてみると不幸自慢にしかならないのよ……嫌な言い方するとね。私達が欲しいのは理解であって同情じゃないの。だって私達は不幸じゃないもの」


お母さんの言う通り、私は不幸だと思っていません。

ただ悲しかっただけです。


「もちろん琢斗くんに同情心があるのも分かってるけど、それはそれなの。むしろ同情されるのもおかしな事ではないと思っているわ。でも私達が話してしまうと『同情を買う』事になってしまうのよ……少なくとも、私達にとってはね」


そうなのです。

同情されることはありがたいことですし、それが天川くんともなれば嬉しくてたまりません。

でも、こちらから話してしまうと『同情してください』と言ってるようなものなのです。

そんな恥ずかしい事は出来ませんし、したくありません。


「それに、茜がどうしてここまで頑張っているのかも、その最終目標も分かってるんでしょ?」

「……まぁ、予想だけなら一応……」


どうやらお母さんも天川くんを神と認めたようです。

さすがです。


「免許取り立ての女子高生が目標にするには無茶過ぎるって……気付いてるのよね?」


やっぱり無茶なのでしょうか……。


「それら全部に気付いてて、何も言わずに手伝おうとしてくれてたのよね?」

「……手伝うくらい、大したことないですし……」


どうしましょう、神の愛が嬉しすぎて泣きそうです……我慢しますけど。


「それに……バイクが直っても、そのあとの事も色々考えてくれてたんじゃないの?」


あ、顔を真っ赤にして横を向いてしまいました。

照れてます……可愛い。

でも、そうです。

この子が直ったらそれで終わりとか、私は嫌です。

でも、直ったあとの事も考えてくれていたみたいです。

嬉しいです。

嬉しすぎます。


「ってな訳で、続きをどうぞ~♪」

「……はぁ……分かりました……」


悲しいことではありましたけど、それを言われたからどうにかなるという事もありません。

天川くんが私とお父さんの事を理解してくれる方だと知る事の方が、私にとっては重要な事ですから。


「……えっとですね……ほら、東雲さんの名字って印象深いじゃないですか。何でこの漢字でこんな読み方するんだろう……みたいな。で、2年半位前になりますかね、クリスマスに駅前であった事故……アクセルとブレーキの踏み間違いで、駅前のショッピングモールにクルマが突っ込んだってやつです」


あぁ……やっぱりそうでした。

では、その時の事もきっと……。


「それで、この時の報道がちょっと腹立たしかったんですよ。一般人の事なのに、根掘り葉掘りベラベラと……そんなだったもんで、やっぱり覚えちゃってたんですよね……」


あの時は本当に酷いものでした。

家の前にマスコミの方たちがたくさん集まって、まるで私達が加害者の様に思えたものです。


「クリスマスだったからかマスコミも妙に取り上げて、やれ『幸せな家族を襲った悲劇』だの『家族の愛が救った命』だのと……美談だろうが、赤の他人の事情をベラベラと公共放送で流すとかいい加減にしろよって感じで……」


天川くんは怒ってくれていました。

同情するのではなく。

あの時起こったことは確かに悲劇だったと思います。

あの日、私はお父さんとお母さんへのクリスマスプレゼントを買う為に駅前のショッピングモールへ行きました。

その道中で私は声を掛けられたのです。

おぞましさしか感じない男性に。

当時中一だったにもかかわらず、私はかなり早熟で……お母さん曰く「男ウケするエロボディ」だったそうですが、その頃から気持ち悪い男性が寄ってくる様になっていまして、この時もまさにそれでした。

ですので私は走って逃げました。

少し走れば駅前という場所での事でしたので、人が沢山居るところへ逃げたのです。

振り向くとその男性はいなくなっていましたので、安心した私はひとまず当初の目的であったプレゼント選びをする事にしました。

しかし恐ろしいことに、その男が店の前からじっとこちらを見ていたんです。

店員さんに話をした事で駅前の交番からすぐに警官が来てはくれたのですが、警官が自宅まで送り届けてくれるわけではなく、結局話を聞いておしまいでした。

おぞましい男性もいなくなっていましたし、気のせいじゃないかとまで言われましたし……店員さんに話をした時点で消えてしまったみたいで、店員さんが目撃していなかった事が残念でした。

しかもお母さんの経験談ではあるのですが、同様の被害に遭った際に交番へ駆け込んだところ、今度はその駐在員さんがストーカーになってしまったそうなので、警察官すら安易に信用出来ないというのが我が家だったのです。

一応の危機が去ったとはいえ、そのまま独りで帰るのは怖すぎます……そうなると、もう信頼出来るのはお父さんしかいませんでした。

ですのであの日私はお父さんに電話したのです。

迎えに来てくださいと。

ひとまず危機は去りましたので、私は迎えに来てくれたお父さんと歩いて帰ろうとしたのですが……そこで事故に遭いました。

それは天川くんが話してくれた通り、アクセルとブレーキを踏み間違えて暴走した自動車がショッピングモールに突っ込んで来るというものです。

突然の事に一歩も動けなかった私を助ける為にお父さんは私を突き飛ばしてくれ、私は事なきを得ました。

ですが、私を突き飛ばしたお父さんは、建物とクルマに挟まれる形になり……亡くなりました。

お父さんが亡くなったのは私のせいだと、当時は自分を責めましたが……。


「まぁ俺も分かるんですよね……俺でも同じことしただろうなって。不本意で……本当に不本意ではあるんですが、うちの生意気な妹も可愛いんですよ。身贔屓ですけど東雲さん並に可愛いですね。で、まぁ妹にフラれて逆上してきた男に腹を刺されてえらいこったになったんですけど、そりゃ刺されようが助けますよね。だって妹なんですもん。まぁその……俺の武勇伝を言いたいんじゃなくて、その……東雲さんのお父さんグッジョブと……」


話が逸れてる様に聞こえますけど、これは分かります。

遠回しに「私に責任は無い」と言ってくれてるのですね。

心遣いが嬉しすぎます……あと、ありがとうございます。

お父さんを誉めてくれて。

あの時、誰もが言いました。

残念だったねと。

でも、お父さんを誉めてくれる人はいませんでした。

誉めてくれてたのはお母さんだけでした。

「あの人はよくやった」と。

「大事な娘をよく守り抜いた」と。

そして天川くんは言ってくれました。

お母さん以外では天川くんだけが言ってくれました。

お父さんに「よくやった」と。

この喜びをどう表現すれば良いのでしょう……あ、お母さんも泣きそうです……。

だって私はお母さんの「よくやった」という言葉で立ち直ったのです。

自分が下を向く必要はないと。

むしろお父さんを誇りに思えと。

そしてお母さんと二人で頑張っていくと決めたのです。

でも、こんな思いがけない会話の中からこの様な嬉しい言葉を聞くことになるなんて……心が喜び過ぎて身体が震え始めてます……。

ありがとうございます、天川くん……。


「……ありがとう琢斗くん……誉めてくれて……」

「い、いえ、別に……」


あ、天川くんが照れてます。

そしてお母さんが泣き始めてしまいました……気持ちは分かりますけど。

だって私も同じですから。

でもちょっと待ってください。

刺されたって何ですかっ!?


「……っと、まあその……話が逸れちゃいましたけど、それで亡くなられた方の名前は記憶に残ってまして、その方の名前が東雲さんの家の表札に……なので、東雲さんが頑張ってるのはそういう事なのかと……」


天川くんは、今朝早くに我が家へ来てからというもの、ただの一度も我が家の敷地内から出ていません。

ずっと車庫の中で私の事を気にしてくれていましたから。

という事は、昨日帰る際か今朝来た時しか表札を確認する機会が無かったと思います。

普段から他人の家の表札を確認しているような変な人ではないと断言出来ますしね。

知り合って間もないですけど……。

となると、天川くんは少なくとも今朝来た時にはもう全てを知っていたという事です。

いえ、今までの話し方からすると、おそらく昨日帰る時にはほぼ全ての事を理解していたのでしょう。

本当に……本当に凄いです……。


「お見事っ!」


お母さんが泣きながら称賛の言葉を。


「ありがとうございました」


私が感謝の気持ちを天川くんへ伝えました。


「いや、その……予想しただけだから……」


天川くんにとってはそうなのかもしれませんが、「よくやった」と言ってもらえただけで私達は救われたのです。

それだけは忘れませんし、天川くんに覚えておいてほしいです。


「よくそこまでズバズバ当てられるわね。琢斗くんって、リアルコ○ン君なの?」

「いやいや、あんな超人と比べられても……」

「いやいやいやいや、こんなのどう考えたって無理だから」


ええ、無理だと思います。

お母さんに同意します。

だから天川くんは神なのです。


「え~……状況証拠だけでほぼ分かる事ばかりだと思いますけど……」


なるほど……神は凄いことが当たり前すぎて、それが理解出来ない……私も真理に至りました。


「って事は、茜がどんな目標を立ててるのかも分かってるんだよね? さっきも否定しなかったし」


そうですよね。

天川くんはそこにも少し触れていたのですよね。

目標がなければ頑張れないと。

これは見方を変えると「頑張るだけの理由であると分かっている」と言えるのではないでしょうか。


「それは、分かってると言うか……ほぼ想像でしかありませんね」

「じゃあ、その想像とやらを教えてくれないかな。懇切丁寧に、事細かに、コ○ン君ばりにっ!」


お母さん、グッジョブです。

ここまで来たら、天川くんにはパーフェクトを狙ってほしいです。


「……ここまで来たら、今更ですか……」

「そうそう、今更今更ぁ~」


楽しそうですね、お母さん……嬉しいのは分かりますけど、精神年齢が下がり過ぎですよ……。

気持ちは分かりますけど。

分かりますけどっ!


「それじゃまぁ……東雲さんは以前からバイクの免許を取ったら、お父さんと一緒に一緒にツーリングに行こうと約束していたと思います。それもかなり遠くへ。おそらく今年のお盆休みを利用して。で、東雲さんはお父さんと約束していたツーリング先に行く事を目標にしている」


今更驚きはしませんが、当たっています。

ツーリング予定日は、今年のお盆休みです。

社会人が大型連休を取れるのはお盆と正月、それとGWくらいだそうですから。

残念ながら、誕生日の問題でGW前に免許を取得する事は無理でしたし……。


「それで東雲さんが悪戦苦闘してた件ですけど、事故のあと勉強とかその他諸々が手につかなくて成績が落ちて……お母さん辺りに心配されて『お父さんを悲しませる気?』とでも言われて受験勉強に集中して見事高校には合格。で、晴れてバイクに集中出来るとなったものの、エンジンが掛からない。別に慌てなくてもツーリング先は逃げたりしませんが、東雲さんには期限がある。それが今年のお盆です。しかも目標とする場所が遠いから、お盆前にバイクに乗りこんで慣れなければとてもではないがロングツーリングなんて無理。おそらくこの辺もお父さんとの予定に入っていて、近場のツーリングでバイクに慣れてから本番に望む計画だったかと。おそらくは既に教習所に通い始めていた東雲さんは、予定が狂いそうになって追い詰められて……と、ちょっと待ってね、東雲さん」


当然のようにズバズバと言い当てる天川くんが、何故か席を外して自分のバイクに向かいました。

そして後ろに装着されている箱から何かを取り出し、それを持ってきました。


「はい、東雲さん。多少前後してるとは思うけど、誕生日おめでとう」

「……あ、ありがとうございます?」


渡されたのは、黒地に緑色が映えるグローブでした。


「ライムグリーンなカワサキ乗りは、やっぱり緑に拘らないとね」


そう天川くんは言いますが、そもそも何故私の誕生日を知っているのでしょうか?

あ、神ですから今更ですね。

でも。


「あ……ありがとうございます……」


そんな神に、私は簡単な謝意しか言葉に出来ませんでした。

さすがにお母さんは違ったみたいですが。


「茜へのプレゼントありがとね……でもね、琢斗くん……その辺の予想位してて当然だと思ってるんだけど、出来ればそこも事細かに教えてくれないかしら?」


私も気になります。

だって間違いなく私の知らない真実を暴いてくれてそうなんですもの。


「……いや、分かりますよ。バイク好きが誕生日前から教習所に通うのはお約束ですし、小型のAT限定なら2日間で取得出来ますけど東雲さんは普通二輪を取るつもりでしょうからね。学生ですし学校もあるわけですし、もっと日数が掛かりますから。それに……教習所に通いはじめたから、バイクのエンジンが掛からないことに焦り始めた……免許取れてもバイクが直らなければ走れないから……だから追い詰められた……違う?」

「いえ、その通りです……」


推理どころか、ごもっともな話でした。

でも何故小型ではなく普通二輪免許だと思ったのでしょう?

私のケイちゃんは110ccですので、免許的には小型二輪に該当します。

詳しくは分かりませんがスクーターと同じオートマチックに該当するのだとか。

それでしたら小型二輪のAT限定免許を取るのが普通だと思うのです。

しかしお父さんは「取るなら普通二輪のAT限定!」と言っていましたので、私はその通りにしています。

日数も費用も全然違いますが、迷うことはありませんでした。

ただ、どうしてなのかは未だに疑問なのですが……。


「……もう驚きはしないけどね……どうして小型じゃなく普通二輪だと思ったの?」


それはお母さんも同じでした。

お母さんも知らないのです。

何故普通免許なのか。


「だってロングツーリングに行こうってのに、高速道路に乗れないとか結構無茶ですよ?」


確かにお父さんも言っていました。

「目的地が遠くにあって休みの時間が限られているのに、時間短縮可能な高速道路を使わない理由がどこにある?」と。

でも、私のケイちゃんは高速道路に乗れません……。


「でも茜のバイクは110ccだから高速には乗れないわよ?」

「まあ確かにそうですね。でもお父さんはその辺のちゃんと考えてましたよ?」


そう言ってからまた席を離れ、お父さんのオートバイの横にある棚にあったダンボールの箱を指差し。


「これ、出してもいいですか?」


お父さんのものではありますが、遺品と言うよりは棚で眠っていたお父さんの“何か”でしかないので勿論首を縦に振ります。

すると天川くんはその箱をこちらに持ってきました。


「これがお父さんの対策です」


ビニールテープでしっかりと梱包されているので手だけで開ける事は出来ませんが、とにかくこれが“お父さんが私に普通二輪免許を取らせる”理由だったみたいです。

何が何やらサッパリですが。


「琢斗くん……これが何なのかサッパリ分からないんだけど……?」

「いや、まぁ自分も開けるまでは確証は持てませんけど、一応箱のデザインから考えたら間違いないかなと……見覚えありますし。で、ここに持ってきたのは開ける許可が必要だったのと……お父さんの事を怒らないであげてほしいなぁと……」


開ける許可ならもちろん出します……と言いますが、開けてくださいとお願いしたいくらいです。

でも、お父さんを怒らないでとはどういうことでしょうか?


「いや、怒りはしないけど……怒るようなものなの?」


お母さんの雰囲気が少し怖くなりました。

お父さんの浮気を疑っているのでしょうか?

あれだけラブラブだったお父さんがそんな事する訳ありませんし、そもそも話の流れからオートバイに関係するものなのは間違いありませんよ?

お母さんはお父さんの事になるとポンコツになりますので、困ったものです……。


「まぁ怒ると言いますか……女性には無駄遣いと怒られるケースが多いものじゃないかと……で、一応お断りしておいた方がいいかなと……」


なるほど……ちょっと高いお買い物というわけですね。


「それならまぁ……」


お母さんも納得してくれたみたいです。

そして私も。


「開けてください、天川くん……」


当然承諾します。

お父さんが何を考えていたのか、2年以上経ってから疑問が解決するという奇跡のような可能性に、震えが止まりません。


「じゃあ失礼して……」


そう言って天川くんが着ているジャケットの中から取り出したのは、金属の棒状の塊でした。

それをくるくると回すと……何とナイフになりましたっ!


「琢斗くん……そのバタフライナイフの使い方かなり上手いけど、そのドラマを知ってるのは私たちよりかなり上の世代よ?」

「ちっ、違うっ! ただ携帯しやすいのと取り出しやすいからだからっ!」

「へぇ~……廚二病乙(笑)」

「くっ……こんなところでダメージ受けるとは……」


何を言ってるのか分かりませんが、二人が楽しそうです……むむぅ……悔しいです。

そんな会話をしつつも梱包が解かれていき、中を見ることが出来ました。

でも……これは何でしょう?


「えっと……予想通りだったのかしら?」


お母さんも分からないみたいです。

しかし天川くんは当然違いました。


「ええ、予想通りです。ってか、お父さんバイク好き過ぎでしょ……」


確かにお父さんはオートバイが大好きでしたが、好き「過ぎ」なんて言ってしまうとお母さんの嫉妬心がメラメラと……。


「で、何が好き過ぎなの?」


あ、怒ってますね、分かります。

天川くんにも分かったみたいですけど、スルーするみたいです。

流石です。


「いやまぁ……これはボアアップキットって言いまして、早い話がバイクの排気量を上げる為の部品です。これはビッグキャブ付きの178ccキットなんで、これだけで問題解決です」


なるほど……排気量を大きくして125ccより大きくする事で高速道路に乗れるようになるという事ですね。


「でも、排気量を上げただけで高速道路に乗ってもいいものなの?」


お母さんが疑問を口にしました。

実際どうなのでしょう?


「もちろんダメですよ。排気量による区分も原付二種から軽二輪に変わりますので、そのままじゃ法的にアウトです」


言われてみるとその通りです。

ではどうするのでしょう?


「ですので、軽二輪へ登録変更をします」


なるほど……言ってることは何となく分かりますけど、どうすればいいのかはサッパリわかりません。

神は上位言語を使われましたか?


「あのね、琢斗くん……それってかなり大変なんじゃないの?」


お母さんの疑問も尤もです。


「まぁ知らない人が1からって話なら確かにその通りですね。でもやる価値はあるんですよ。小柄な女性が不安無く両足を地面につく事が可能なバイクで高速道路を走行可能な車両にする……これって凄く意味があると思うんですよ。東雲さんのお父さんもおそらくその辺を悩んだと思うんですよ。で、まずは足のつくバイクを選んで、排気量アップはアフターパーツメーカーさんに任せる。どうせ出すのが目に見えてましたし、実際出してきましたからね。ですので、多少お金が掛かろうが娘の為ならナンボのもんじゃ~いと暴走したのが、この箱だったという感じじゃないかなと」


……正直なところ詳細までは理解出来ませんでしたが、私がオートバイに乗るために色々考えてくれていたのだといく事は分かりました。

お父さん、ありがとうございます。


「なるほどねぇ……でも、それだと特に怒るポイントは……待って……それってそんなに高いの?」


そうですよね……よくは分かりませんけど、簡単に済む話じゃない事だけは分かります。


「ええ、まぁ……お店に出せば、登録まで含めると新車なKSRの半分近くかなと……だから怒られるんですよ。『それだけお金を掛けるなら、最初から大きいの買えばいいでしょうがっ!』とか、そんな感じで。まぁこういう怒られ方するパターンは大抵自分が乗るバイクでやろうとした場合で、今回のケースはお父さんが東雲さんの事を考えた末に出した結論だと思うので、その点も考慮してあげてほしいかなぁと……。まぁここで隠すのも卑怯なんで言いますけど、半分は東雲さんの為の選択で、半分は間違いなくお父さんの趣味です。だってバイク好きなんてそんなもんですもん。そもそも足付き性で話をするなら軽くてコンパクトな150cc辺りの高速に乗れる中型スクーター選べば済む話なんですもん。それなのにKSR選ぶとか……買った時期考えたら選択肢が無かったってのもあるかとは思いますが、まぁ何と言うかですね……お父さん、娘の為とか言いながら楽しみすぎだろと」


お金の話は納得できましたけど、そうですか、お父さん楽しんでたんですか……フフ……まさかお父さんの知らない一面を知ることになるとは思いもしませんでした。

そしてそれはお母さんも同じで。


「……ふ……ははっ……そうか……そうだったのね。何かこそこそしてたから問い詰めたのに結局はぐらかされてそのままになっちゃってたけど……そういう事だったのね。茜の為って言えばそれで済んだってのに……そっか、趣味か……楽しみすぎか……ふ……ははっ……お、おかし過ぎる……」


お母さんがとても楽しそうです。

いつも楽しそうにしているお母さんではありましたが、心の底から楽しそうには感じませんでした……ですが、これは違います。

絶対に笑っています。

心の底から。

お父さんが亡くなってからというもの、お父さんの話題が笑い話になった事なんてただの一度もありませんでしたから……。

天川くんには本当に感謝です。

この気持ちをどう言えば上手く伝えられるのでしょうか……。

でも、天川くんはやっぱり天川くんです。

これすらもなんて事ないと言うのです。


「まぁバイク好きなんて自分も含めて基本的に子供ですからね。KSR買ったのだって、自宅でDIYしやすいバイクだからですよ、間違いなく。TT−Rはその辺の楽しみとはちょっと遠い、走ってナンボのバイクですしね。で、娘の為に買ったバイクなのに我慢出来なくなって色々イジり倒した挙げ句に『お父さん、私のバイクに触らないでよねっ!』とか『そんなにイジりたいなら自分のバイクでやりなさいよっ!』とか言われて凹むんですよ」

「や、やめて、琢斗くん……ふ、腹筋が痛い……い、息が……出来ない……」


本当に楽しそうですね、お母さん……今日は本当に良い日です。

私にとっては記念日と言っても良いかもしれません。

だって、これほど幸せなんですもの……。


「……まさかこんな事実が判明するなんて……ホント、琢斗くん様々ねっ!」


その通りです。

天川くんには感謝しかありません。


「たぶんこんなだろうなって話ですから事実かは分かりませんし、感謝されるような話では……バイク好きあるあるの定番ですからね。まぁ話を戻しますけど、高速道路に乗れるようにすることは最初から想定してたから普通二輪を取れってお父さんは言ってたと思うんですよ。普通二輪免許を取るってのは、お父さんの指示でしょ?」


その問いに、私は勿論頷きます。


「だよね。で、KSRを軽二輪登録にしてまで目指したい場所ですけど、こんなの大抵のライダーなら迷わず答えられますよ」


そういうものなのでしょうか?

私の感覚では海外旅行よりも遥かに難易度が高い目標だと思うのですが……。


「確かにそうみたいね……登山家が山に登るのと一緒だとか言ってたしね」


そこに山があるから……というものでしょうか?


「近いものではある気がしますね。ツーリング好きのライダーならとりあえず一度は行ってみたいと思うものですし。勿体ぶるまでもなく、目標としてるのは北海道だよね?」


ここでも私は首を縦に振ります。

あっさりと言われてしまいましたが、その通りですから。

私が目指しているのは北海道です。

北海道のあそこを目指しているのです。

でも天川くんならあそこにすら気づいているのでしょうね。

その証拠になるかは分かりませんが、ここでは話が終わりませんでした。


「で、KSRを軽二輪登録してまで目指す場所のヒントはアレです」


そう言って天川くんが指差したのは、壁に飾られている額でした。

額に貼り付けてあるのは4本の旗。

確か現地のサービスステーションで貰えるものだと、お父さんは言っていました。


「あれって……旗の事?」


お母さんも知っていたみたいです。


「ええ、その旗です。あれって北海道にあるローカル・サービスステーションのホクレンで無料で貰えた旗なんですよ。今は有料化しましたけど、今でも一応手に入ります。で、ただの色違いに見えるかもしれませんが……あそこに飾ってある四本の旗、全部年が違うんですよ」


どこで貰った旗なのかは聞いていましたが、年が違うということは……ちょっと気になります。


「え……年が違うって、何?」


お母さんも知らなかったみたいです。

またしてもお父さんの新たな事実が……これは確認しなければ……あ、お母さんも同じ気持ちみたいですね。

私と連れだって額の前までやって来ました。

そこで旗を確認したところ……。


「これって……四年連続で北海道に行ってたの?」


お母さんの驚きも納得出来るというものです。

何故なら、北海道とはそれほどに遠いのです。

飛行機に乗れば一時間半で新千歳空港に到着します。

羽田からでも成田からでも変わらないそうです。

新幹線なら函館までで4時間位です。

でもこれがオートバイになると話はガラリと変わります。

一番楽な方法ですと茨城県の大洗からフェリーに乗って苫小牧に上陸するというルートになりますが、フェリーだけでも19時間掛かるのです。

我が家のある横浜からの移動時間を含めると、ほぼ24時間掛かると考える必要があります。

しかもお盆の大洗便は超人気チケットだそうで、まず取れないという話でして……。

別ルートとして日本海側を通る新潟~小樽間のフェリーもありますが、こちらも人気チケットだそうでして予約は困難を極めると……そしてこちらも約19時間掛かりますので、新潟までの移動時間を考えると、トータルでは更に2時間位延びると思われます。

実質的にこちらも北海道へ上陸するまでに24時間以上掛かるということですね。

そしてこの2ルートが取れないとなりますと、事実上青森まで自走するしかなくなるそうなんです。

で、走るとなると高速道路だけと考えても青森までで800km近くになるそうで、海を渡って函館から更に目的地までともなると、片道だけで1500km近くにもなるのだとか……自宅から高校までの距離が1.5kmですから、およそ1000倍ですっ!

しかも片道だけの話なのですっ!

これを四年連続でとなると……お父さん、どれだけ北海道が好きだったんですか……。

もっとも散々北海道の魅力を叩き込まれましたから、お父さんの気持ちも何となく分かりますけどね。

ちなみに八戸と仙台からのフェリーもあるそうなのですが、移動時間に余裕を持てる方でもない限り選ばないとお父さんは言っていました。

もしくは“旅”そのものを目的としていて、北海道をその一部と考えている方だとか。

お父さんは後者に近いと言っていましたが、それでも北海道の魅力が勝ち過ぎて早く渡道したくなるのだとか。

勿論お父さんが計画していた途中の寄り道ルートも覚えてはいますが……。

とにかく私の目標は北海道なのですから、やはり青森まで走らなければならないのでしょう。

お父さんもそのつもりで部品を用意してくれてたみたいですし。

うん、気合いを入れなければ。

勿論ケイちゃんを直さなければなりませんが、こちらに不安はありません。

だって、私には神がいるのですから。

そしてその神は、またお父さんの知られざる一面を教えてくれるようです。


「やっぱりそれは知りませんでしたか。まぁ言いたくなかったんでしょうけどね」

「そ、それは何故でしょうか?」


思わず聞き返してしまいました。

だって、お父さんはあれほどまでに北海道の楽しさを語ってくれたのに……。


「いや、そりゃねぇ……四年連続で毎年北海道とかアホじゃねーかとか言われるのが嫌だったんじゃないかなと……」


そういうものなのでしょうか?

私には何故なのか理解出来ません。

そしてそれはお母さんも同じだったみたいです。


「それってそんなにアホな事なのかしら?」


しかし、天川くんはそれにも明確な答えを持っていました。


「じゃあ、失礼を承知で、あくまで誉め言葉としてどれだけアホなのか列挙しますよ。あくまでお父さんがやったであろう話ですけどね」


アホなのかを列挙すると言っているのに「褒め言葉」とはこれ如何に?

ですが、その通りなのか天川くんが語るお父さん像に、私は全く嫌な気持ちを抱きません。


「まず世間の一般的な発想として、四年連続で北海道に行って飽きないのかって話です。ライダーではない一般人ですと次は九州行きたいとか台湾とかグアム・サイパンとか、まぁそんな感じで別のところに行きたくなるものなのに、あんたはなんで毎年毎年同じところに行くのよと……好きなんだから放っておけよって話なんですけどね。で、ライダー自身の話をしますと、とにかく過酷なんですよ、お盆の北海道行きは。帰省ラッシュで大渋滞してる高速道路を、しかも熱中症待ったなしの気温の中をヘルメット被ってライダースジャケット着こんで汗だくになりながら走るわけです。そして理由は後にしますが、お父さんの場合は青森便を選んでいると思われます。で、お父さんが当時もこの辺に住んでいたと仮定しますと青森までは高速だけで800km位ありますから、TT−Rに乗って給油とトイレ休憩のみのノンストップで走り倒したとして普通なら10時間は掛かります。10時間となると、偏西風に乗れるフランス~成田間と然程変わりませんから、どれだけとんでもない時間か分かるだろって話です。しかもこれは国内旅行ですからね。まぁお父さんの場合はおそらく高速には乗らなかったと思うので、国道4号線を夜通し爆走したと仮定して15〜16時間は掛けたと思われますが、とにかくそれだけの時間を掛けてもまだ北海道に上陸していないわけです。まだ海を渡ってないですからね。そこからフェリーに乗って約4時間掛けてやっと北海道に上陸するわけですが、北海道とは言ってもそこはまだ南の端っこな訳でして、世界遺産の知床までとなると、更に同じ距離を走らなければ到着しません。しかも全行程が晴れているとは限りません。雨の中、綺麗な景色を見れるでもなく、ただただ走り続けるなんて事もある訳で、他人が見れば苦行以外の何物でもないですし、当人にしたって苦行以外の何物でもありません。自動車で行けば快適に移動出来ますし、飛行機に乗ってレンタカーを借りれば済む話です。何故そこまでするのか、何故そこまで苦しさを我慢するのか……」


天川くんに言われれば言われるほど、私が目標としている事の過酷さが分かります。

お父さんも確かに大変だということは言っていました。

しかしそれ以上に楽しいのだと。

そして楽しい事はいっぱい教えてくれましたが、苦しいことはあまり教えてくれませんでした。

……私は本当に大丈夫なのでしょうか……本当に私は辿り着けるのでしょうか……。

しかし、そんな私の不安にも天川くんはちゃんと気付いてくれました。

どうしてこうも察しが良いのでしょうか……あ、神ですもの、当然ですね。


「そんなに不安がらなくても大丈夫だよ、東雲さん。ツーリングライダーなら大抵誰でもやってる事だし、そもそも学生なんだからわざわざ過酷になるのが分かってる社会人と同じ日程で予定を組む必要はないんだから。暑いのとか汗が苦手とかいう女の子もいるとは思うけど、KSRのキックを汗だくになるまで蹴り続けられる人なら全然余裕だから。むしろ蹴り続ける方が大変だからね」


そうなのですか……安心しました。

やはり天川くんは凄いです。

彼から太鼓判を押されるだけで安心出来てしまいます。

さすが神です。

さす神です。


「で、まぁ苦しさを我慢する理由ですけど……単純に楽しいからなんですよ。苦しいのが楽しいとか、どMですよね。でも実際そうなんですよ。苦しんだ先で絶景が見れたりすると、それだけで今までの苦しさが全て吹き飛んじゃうんですよね。何となくですけど登山に近いかもしれませんね。登ってる最中は苦しいですけど、登りきった先で見れる絶景は何物にも代えがたい……みたいな。言い過ぎかもしれませんけど、そんな感じじゃないかなと。今でこそ登山人気が凄いですけど、以前なら趣味が登山なんて言ったら『何が面白いの?』とか平気で言われてましたし、その辺はバイクも変わりませんからね」


これは何となくわかります。

でも、お父さんはMさんだったのですか……新たな発見ですねっ!

あれ?

お母さんは何やらドヤァという顔をしています。

つまりお父さんがMさんだと知っていたと……これが夫婦なんですね……。

でも、これが分かってしまうということは、私もMさんなんでしょうか?

Mさんだったとして、天川くんに嫌われたりしないでしょうか?


「で、そんな苦行でしかない北海道ツーリングを飽きもせずに四年連続で行っていた……まぁバイクの楽しみを理解してくれない方からするとアホの極みな訳ですよ。『富士山に一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿』という言葉がありますけど、お父さんは一度じゃ済まない馬鹿だと自覚していた……だから一度登った普通の人を演じた。でも隠すのもおかしな話なので回数は言わなかった。嘘はついてませんからセーフです。しかも旗を見れば分かる話ですし隠しもしていないのだから、本人的には間違いなく超セーフです。要するにですね……お父さん的には『家族に話すのは超恥ずかしいから、適度に誤魔化しとこ(てへぺろ)』って感じだったと思われます……ってか、世間のおっさんライダーは大抵こんな感じです」


そうですか……優しいお父さんでしたが、ちょっと見方が変わりました。

なんか可愛いです。


「……なるほどねぇ……確かにありそうな話ね……と言うか、絶対にそれね。間違いないわ……フフ……ダメ、可笑しすぎる……」


お母さんには納得出来る話だったみたいですね。

しかも、かなり楽しそうです。

良かったです。


「で、まぁ最後になりますけど、旗の下に飾ってある葉書がラストピースです。あれは日本最北端にあるサービスステーションの最北端給油証明書なんですよ。で、日付のスタンプが押してあると思うんですけど、この証明書が一枚しかない上に旗は四本あって、証明書は最初の年の旗と一緒に画鋲で刺してある。だからおそらく初年度の証明書なんだと思います。んでもって、よく俺も覚えてたなぁと呆れてはいるんですが報道の時に見たお父さんの年齢の記憶があるんですよね……そこから逆算すると、お父さんが北海道ツーリングに行っていたのは浪人とかしてなければ大学の四年間だったと思われます。高速に乗らない青森自走ルートと仮定したのもこれが根拠です。でも最北端証明書は一枚……たぶんですけど、その他の三年間は雨が酷かったとかトラブルが起きたとかでそこには行けなかったんじゃないのかなと。大学生なら日程の余裕はあったでしょうから、社会人ライダーみたいに目的地を一地域に集中させるような必要はないですからね。制約なんて無いんですから、好きに走り回ればいいだけですからね。『あっちに雨雲見えるからこっちに行こう』みたいな感じで。その代わり大学生のお約束でお金は無かったでしょうから、毎回下道を爆走したと思いますけど。で、北海道初上陸の東雲さんを一緒に連れていくとなったら、それはもうひとつしかありません。4度も上陸したにも拘らず一度しか行けてない場所。そしてツーリングライダーなら一度は必ず目指す場所、それが……」


長いようであっという間でしたが、ついに到達しました。

私の目標に。

なんて素晴らしいのでしょう。

何一つ間違うこと無く結論に辿り着く彼は間違いなく神です。

信徒として、この証明を聞き逃すわけにはいきません。

彼の結論は勿論……。


「日本最北端・宗谷岬です」


見事の一言です。

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