第11話
私は素直に感心した。
そして。
「あったり~。でもどうして分かったの?」
その答えに行き着いた理由を知りたかった。
だって茜がこの話をするとは思えないし、本人も言ってないって言ってたし。
だから話を聞いてちょっとだけ怒ったんだけどね。
だって善意で直してくれるって言ってきてくれたクラスメイトに「私のバイクに触るな」って言ってるのと同じなんだもん、そりゃ親としては怒るところでしょ?
もちろん美少女な茜に下心アリアリで近付いてきた可能性もある……ってか高かったから、怒ったのは少しだけだけど。
美人な母親から生まれてきた美少女さんなんだから警戒し過ぎる事はないと思うし。
実際ネットじゃ酷いこと書かれまくったし、茜は男性不信になるし……あ~、もう、思い出しただけでも腹が立つっ!
目の前にいたらぶっ殺してやるっ!
でも茜の話によると、琢斗くんにはそんな欲情まみれの目ではまったく見られなかったとか。
この年齢だと……まさか2次元嫁大好きっ!?
魔法使い予備軍かっ!?
「え、言うんですか?」
そりゃそうよ。
気になるもの。
茜も興味津々で答えを待ってるし。
「もちろん。だって気になるもの。事細かに懇切丁寧にお願いね!」
「いいのかなぁ……」
気遣い出来る子は、オネーサン大好きよ?
でも今は不要ね。
「今更の話だし、茜も気にしてないから言っちゃっていいのよ。むしろ琢斗くんの名探偵バリの推理が気になるわっ!」
「いや、名探偵って……身体は大人で頭脳は子供な小五郎さんですよ、俺」
小五郎さんみたいなのはダメ可愛いって言うのよ?
私は嫌いじゃないわよ、あのタイプ。
掌で転がせそうだしね〜。
まぁ私が大好きなのは旦那みたいなタイプだし、小五郎さんと旦那は少しタイプが違うけど。
「小五郎さんでもコ○ンくんでもいいから、早く早くっ!」
そう言うと、琢斗くんはまた茜を見た。
それに対して茜はまたしてもOKサインを出してる。
表情崩れるの我慢してるの丸分かりだけど、これも可愛いわね。
さすが私の娘、癒されるわぁ……。
まぁそれはともかく。
「それじゃ、あくまで俺の予想で話は少し長くなりますけど……」
おっけー、かもーんっ!
「まず毎朝の東雲さんです。東雲さんは毎朝早朝からバイクのエンジンを掛けようと、車庫の前で悪戦苦闘していました。そして先週に入った辺りでその表情が今にも泣きそうな顔になってきたので声を掛けました」
「ふんふん、ナルホド」
こりゃ下心が無いって事は証明されたかな。
普通の男だったら茜が困ってるのを見ただけで話し掛けてくるからね。
ましてやそれがクラスメイトなら、ここぞとばかりにアピールしてきてもおかしくないもの。
むしろ困ってる茜をスルーし続けたとか、そっちの方が凄いわ。
それでいて、泣きそうになってるのを見て放っておけなくなったと……あらやだ、いい子じゃないの、この子。
「そもそもその時点でお父さんがいないというのは推察出来ます。だって、いるなら手伝ってるでしょうからね。もっともこの時点では離婚なんかの可能性もありました。で、車庫に入ったらTT−Rがありましたので、これが東雲さんのお父さんのバイクだと考えました。で、こっちのKSRは東雲さんのものだと思いました」
「合ってる、合ってる。でもどうしてそっちの小さいバイクが茜のだって思ったのかしら?」
免許も持ってない小娘がバイクを持ってるとか、普通はおかしいと思う筈なのに。
「いや、珍しくないですもん、バイク好きの親が子供にバイクを買い与えるのって。子供を溺愛しすぎて子供に相手してほしくて、自分の趣味を理解してほしくてバイクを買い与えちゃうのなんて、バイク好きの間ではそれほど珍しくないですから。ましてや東雲さんみたいに可愛い娘がいたら、親が溺愛するのも分からない話じゃないですしね」
へ~、そんなもんなんだ。
うちの旦那だけかと思ってたけど。
小さいバイク買った時「全然普通だから! 常識的な親の行動だからっ!」って涙目で訴えてきた時は「うちの旦那は娘で身を滅ぼしそう」とか心配になったものだけど、そういう親多いんだ……ちょっと退くわ……。
それにしてもサラッと「可愛い娘」って言い切ったわね……琢斗くんは天然たらしか?
おいこら、そこの美少女。
嬉しいのはわかるけど、顔が崩れてニマニマしてるぞ。
まぁそれはそれで可愛いけど。
「それにこの車庫の広さです。広さ的にはクルマ3台分はあると思いますけど、実際に停められるのは2台です。そして奥まった3台目のスペースは明らかにバイク専用スペースです。このレイアウトだと、KSRがお父さんのだという可能性の1つが潰れてしまいます」
「それは、どんな可能性なのかしら?」
「KSRを普段の足として購入したという可能性です」
え?
何で?
「まだその可能性は消えてないと思うけど、どうして?」
「だって奥からバイクを出そうと思ったら、一度クルマを出さなきゃいけないじゃないですか。そんな面倒な事はしないと思いますよ?」
そうかなぁ……確かに面倒だけど、根拠としては弱くない?
「それにこの家……注文住宅ですよね?」
「ええ、そうだけど」
「そして……失礼を承知で言わせてもらいますけど、おそらく建ててから15年位じゃないですか?」
「そ、そうだけど……」
どうしよう、琢斗くんがどんどん名探偵っぽくなってきちゃったわ。
ちょっとドキドキするわね。
「あくまで目測ですけど、このガレージの車庫としての奥行きは6mありません。しかも駐車スペースの奥には家を建てた時から据え付けられていると思われる棚がありますから、これだと駐車スペースの奥行きは実質5mを切っている筈です。この数値だと、日常でのクルマの使い勝手に伴う駐車する際の前後スペースの余裕を考えたら、停められるクルマは軽自動車か、大きくてもコンパクトカーに絞られます。ギリギリまで無理をすれば小型セダンなら入るでしょうけど、日常で使うなら出し入れに気を使うレベルのギリギリサイズなんて狭小住宅でもなければまずありえませんし」
ど、どうなってんの?
もう推理に頭が追い付かなくなってきたんだけどっ!
旦那がバイクを所有してたかどうかが、車庫のスペースとどう繋がるの?
あと家の建築年数っ!
「バイクを普段の足にするなら、棚のスペースを殺してでもクルマを奥に停めて、出入り口付近にバイクの置き場を確保する筈です」
それは分かるわ。
でも、それから?
「で、ここまでの計画性を見ると大きくてもコンパクトカーまででOKと割りきれちゃう、大きいクルマに必要性を感じない方だと分かります。TT−R選んでるのも近い感覚でしょうし。刺激を求める人ならパワフルで頭の悪いCRMかヤマハに拘るならランツァがDT200WR、4ストならWR250R、ちょっとぶっ飛び気味な思考ならWR250F辺り選ぶでしょうし、クルマにしてももう少し大きいのを想定するでしょうからね」
確かにうちの旦那は大きいクルマとか無駄だし~とか言ってたわね。
挙げられたバイクがどう頭悪いのか、どうぶっ飛んでるのか、正直何を言ってるのかサッパリ分からないけど、バイクに関してはパワーは無いけど充分楽しいし燃費もイイし最高だよ~とか言ってたし。
「あと、コンセントとか水道です。スペースの広さに対してコンセントの数が多いですから、いろんな事を想定して……むしろ後々の事を心配しすぎて設置した感が強いですし、奥のバイクスペースにある天井付近のコンセントと大きめの穴を塞ぐプラグ……あれ、後々ガレージライフを楽しむためにエアコンと壁掛けテレビを設置する気満々だったと思われます。穴は室外機への冷媒管用ですね。」
え?
何?
旦那ってば、そんなこと考えてたの?
ちょっと楽しみ過ぎでしょ。
まぁでも旦那らしいか。
「ここまで色々考えて家を建てちゃう人がKSRを奥に保管するということは、そもそも家を建てる段階でバイクを普段の足にする必要の無い仕事をしていた可能性が高いですし、普段の足として購入したという可能性を否定するに足る理由になるかと思います。そもそも足にするならTT−Rでも然程不都合は無いわけですし、自宅の設計思想から見える合理的な考え方からも趣味としてだけで2台目を所有するのはおかしい気がしますし。バイクが好きと言うよりは、バイクという相棒が好きな方だったんじゃないかというのが自分の率直なイメージですね」
「……元々電車通勤だったから、普段の足としてのバイクが必要無かったのは確かね」
凄いわね……よく分からない話もあるけど、ここまでほぼ的を射ているわ。
「まぁこんな感じで、足として買った説は消えるかなと。あと……」
まだあるのっ!?
「さっき東雲さんが言ったんですよ、『この子』って。バイクとかクルマを擬人化しちゃうのはオーナーあるあるですからね」
あらら……茜ったら、他所様の前でこの子呼びしちゃったんだ。
名前はKSRのケイちゃんなんだけどね。
前に「バイクに名前付けちゃうとか(ぷゲラッ)」って言ったらむくれちゃって大変だったのよねぇ……。
「あと話が前後する形になりますけど、KSR110が初期型で18年位前のバイクだったりします。でもその時東雲さんはまだ生まれてませんから、東雲さんのお父さんがKSR110を買ったのは東雲さんが生まれた直後じゃないかと思われます。おそらく初期型の安い新古車見つけて飛びついたんじゃないですかね? 子供も生まれるし、子供を育てる為にも狭いアパート引き払って一軒家建てることにしたら、勢い余ってバイク買っちゃった……みたいな。奥さんいるのに借家で2台目のバイク買うってハードル高いですからね」
そうそう、あの人が唯一衝動買いしたのがKSRだったのよね〜。
元々仕事が順調で充分過ぎる稼ぎがあったから、広い部屋にでも引っ越すかという話をしていたところで茜がお腹の中にいることが分かって、それならいっその事家建てちゃうか〜ってなったのよね〜。
で、実際に建てちゃって新築に喜んでたらあの人がバイクを買ってきちゃったのよね……夢見過ぎて。
それにしても……よく当てるわね、こんな事まで。
「それと、バイクの所有者云々とは別に、駐車スペースからもうひとつ分かる事があるんですけど……」
……え?
ここまで来て更に?
「車庫の床なんですけど、車幅が微妙に違う、パターンも違うタイヤの跡がクッキリ2台分残ってるんですよね。1台分はそこのハスラーのものですけど、もう1台分別の跡がある……これで長期間に渡ってクルマが2台あったと判断出来ます」
「た、確かに2台あったけど……」
どうしよう、琢斗くんがどんどんコ○ン君になってきたわ……。
なんなの、タイヤの跡って。
もうホントに名探偵になっちゃってるよ?
「それが今はスズキのハスラーだけ。これもたぶん東雲さんのお父さんが乗ってたクルマですよね?」
「確かにそうだけど、どうして乗ってた人間が誰か分かったの?」
ちょっとちょっと、マジなの?
本格推理になってきてない?
「いや、だって好みの傾向が同じですもん。オフロード車のTT−Rに、オフロード車派生のモタードなKSR、それにアウトドアライフでの楽しみ方を前面に押し出したハスラー。どれも『納得できる』チョイスなんですよ」
言われてみると確かにそうね……ハスラーのCM見て「キャンプ行くぞ~♪」とか言ってたし。
「で、2台あった筈のクルマが1台になっている。もう1台は必要なくなったからお父さんのクルマを残して売り払ったってとこですかね。そして、KSRの持ち主である東雲さんが何日も何日も頑張っている最中、2台目のスペースにクルマが戻ってきていた記憶が俺にはありませんし、世間的には休日である昨日も、そして今日もクルマは戻ってきてません。ここからお父さんがいない理由を絞る条件になってきます」
こ、ここからどうなるのかしら……?
「長期出張中とか離婚という可能性もありましたけど、それはおかしいとしか思えませんし」
い、いよいよね?
「な、何故かしら?」
「いや、だって泣きそうになるまで何日も頑張るとか普通じゃないですって。最初の方に戻りますけど、そこまで頑張ってるのに放置する父親も普通にあり得ませんから。赤の他人が見ても十人が十人可愛いと認める娘で、しかもメチャクチャ素直ですし、反抗期とか平気で超越してそうですもん、溺愛してない方がおかしいですって」
ふむ、とりあえず琢斗くんは茜の事を可愛いと思ってる事は確かみたいね。
おい茜。
ニマニマとだらしない顔するんじゃない。
呆れられちゃうぞ?
「それに長期出張とか離婚なら電話なりメールなりスカイプなりラインなりZOOMなりで聞けばいい話じゃないですか。例えそれが海外にいたのだとしても。でも東雲さんはただひたすらキックペダルを蹴り続けてました。何一つやり方が変わることもなく、ただただ黙々と。となると、やっぱり東雲さんがお父さんに聞く事が出来ないという可能性にぶつかります」
やだ、聞き込んじゃうわ……ホントにコ○ン君を見てるみたい。
「で、東雲さんがお父さんと仲が悪いという可能性ですが、これは正直考えにくいです」
「どうして?」
「いや、だってさっきも言いましたけど、東雲さんって凄い素直ですよ?」
うん、分かってる。
自慢の娘だもの。
あと美人だし。
私に似て。
私に似てっ!
ここ重要っ!
あと茜、ニマニマ禁止っ!
萌えちゃうでしょうがっ!
「で、東雲さんが昨日言ってたんですよ、エンジンの掛け方は『お父さんに教えてもらった』って。断定するには弱い理由ですけど、これも東雲さんとお父さんの仲が良好だろうと思わせる理由です」
まぁ茜がお父さんっ子だったのは確かなのよねぇ。
それにしても、よくもまぁこれだけ頭が回るわね。
ただバイクの修理に来ただけの子がここまで気を回す?
茜に気があるってんなら、このネタで僕は気が付く男なんですアピールして、更に白い歯なんて見せてイイ人アピールまでかまして落としに来るところでしょうけど、琢斗くんは私が聞かなきゃ知らんぷりしてたのは間違いないし。
茜を気にして許可が出てから話し始めたくらいだからねぇ……琢斗くんって、冗談抜きで優良物件なんじゃないかしら。
「ここで引っ掛かるのが東雲さんの頑張りです。俺が知ってるだけでも四月の頭から昨日までずっと頑張っていました。いつも同じ場所で。いつも同じジャージで。そして今日もそのジャージでした。しかもそのジャージは高校の指定ジャージです。つまり高校に合格してから揃えた新しい服です。で、その新しい筈のジャージなのに、右足膝の内側辺りが妙にテカテカしてたんですよ。んでもってKSRって見た目通りミニモトって言われるジャンルのバイクで、小柄な女の子でも足が届く数少ないバイクの1つなんです。でもいくら小さいとはいえ小柄な人だと相対的に足つき性が厳しくて、キックペダルを蹴るとどうしても足が車体に当たって擦れちゃうんですよね。まぁ東雲さんは小柄と言うほどじゃないですけど……と、まぁそこでキックペダルを一回蹴る時間を余裕込みで20秒とします。普通なら何度も何度も蹴りまくりますけど、東雲さんはお父さんに教えてもらった方法を一つ一つ丁寧に繰り返していたみたいですから、おそらくこれくらいは掛かっていたと思われます。で、一日にバイクに費やせる時間を早朝の一時間だと仮定すると1日約180回蹴る計算になります。1ヶ月だと5400回です……1ヶ月とはいえ結構な回数ですよね。そこからさっきの新しい筈のジャージのテカり具合まで含めて考えると、春休みより前……おそらく受験が終わった直後辺りから悪戦苦闘してたんじゃないですかね?」
「き、期間まで当てちゃうのね……」
もうなんなの、この子っ!
どこまで当てれば気が済むのっ!?
聞いたのは私だけどねっ!
「当たってて何よりです。で、そこまで頑張るからには理由が無いのはおかしい。むしろ理由なくあんなに頑張ってたら怖いです」
……おいこら、琢斗。
確かに分かるんだけど「怖い」とか言われて茜が落ち込んでるだろうがっ!
あ~、茜ちゃん?
あくまで例えよ、例えっ!
仮定の話だからねっ!?
茜が怖いって訳じゃないからねっ!?
「で、東雲さんはこうも言ってたんですよ。『車載工具を持ちたいからアドバイスしてくれ』って。この時話してたのは『遠出するなら車載工具を持っているに越したことはない』って内容でしたから、そこから導き出される結論は『東雲さんはバイクで遠くに行く事を目標にしている』と考えられます。しかもレジャー目的じゃありません。おそらくどこに行くかも決まってる筈です。目標が明確じゃないと人間はそんなに頑張れませんしね」
もうズバズバ来るね、琢斗くん。
でもそうなのよね……何度言っても止めないし、お店に修理に出せばいいって言っても嫌だって言うし。
それにしても琢斗くんってホントに茜の事を良く見てるわね。
ジャージのテカりだって、きっと前から心配してたから確認したんでしょ。
茜の生意気おっぱいより膝の内側を気にするとか、琢斗くんマジで優良物件だわ。
いや、おっぱいに目が行かないとか、性の不一致で不幸になる可能性もあるか?
それは困るわね……私の血を引いているのだから、茜は間違いなく肉食系だしね。
「そして東雲さんの悪戦苦闘を家族が放置するとは思えません。少なくともお姉さんが東雲さんを止めないってのは違和感があります。お姉さんは止めた。でも東雲さんは止めなかった。そして理由を知っているから強く言えずに今に至る……違いますか?」
あらやだ、お姉さんだって。
嬉しいこといってくれちゃってまぁ。
あとでおっぱい揉ませてあげるわ。
でもその通りなのよね~。
「うん、何度言っても止めなかったよ。だってめっちゃお父さんっ子だったもん、茜は。それこそ私と奪い合うくらいに」
おかげで夜は燃えたこと燃えたこと。
昼間娘に旦那を奪われてた反動がもうね。
「確かにこれだけ可愛ければ溺愛もするでしょうね。でもお姉さんも綺麗だから同じく溺愛されたんじゃないですか?」
よし、琢斗くん分かってるねっ!
おっぱいを揉みしだく事を許可しようっ!
私は乱暴なくらいの方が好きなのっ!
「そりゃそうよ~。もう溺愛されまくってまいったわ~」
そう、私は肉食系改め野獣系女子だからっ!
女子だからっ!
ここ重要!
「そうですか……で、話を戻しますけど、ガソリンの件もありました」
「ガソリンの件?」
軽く流したわね……まぁいいわ。
許してあげる。
そう言えば、茜が言ってたわね。
ガソリンが腐ってたって。
そしてガソリンの話をしたところで何故か不具合箇所が分かったって言い出して、魔法使いみたいだったって。
「はい、ガソリンです。今回の件はフューエルコックというガソリンの手動弁が開きっ放しになっていた事で起こった不具合なんです。不具合であって故障じゃないんですよ。人間で言うなら雨の中で傘もささずに濡れ鼠になって、そのままでいたら風邪をひいちゃいましたって感じなんです。そりゃ風邪もひくわと。ここでホントの意味での故障を例えるなら、おそらく故障=骨折とかじゃないかと思います」
「へぇ……風邪に骨折か……面白いわね、それ。故障じゃないんだ」
こりゃ納得だわ。
これなら茜も問題無く作業するってもんだわ。
だって素人の私にも説明が分かりやすいんだもの。
「ええ、そうです、故障じゃありません。で、問題はここからなんですが、バイク好きがこのミスをする事ってあまり無いんですよ。たまに忘れて慌てたりってのは無くもないですけど、基本的な約束事なんです。でも、KSRのフューエルコックは開きっ放しになってました。ちなみにあっちのTT−Rの方はしっかりと閉じてありました。つまり東雲さんのお父さんはフューエルコックのトラブル事例を知っていた事になります。じゃあ何故KSRのフューエルコックは開いていたのか……」
ヤバイわ、この子……ホントに探偵業出来るわよ。
もう凄いを越えて恐ろしいわ……だってこの子……下手するとアレにまで辿り着いてるかもしれない……。
「おそらく忘れていたということは無いと思います。まぁ忘れていた可能性は否定出来ませんけど、こっちの仮定の方がしっくり来るかなと。可愛い娘とツーリングに行きたくて、まだ免許も取れない年齢の娘の為にバイクを買ってしまった。そのバイクを娘の免許取得まで放置してたら調子が悪くなってしまうから、調子維持の為に毎週末エンジンを掛けていた。で、そんな時にちょっと外へ出なければならない用事が出来た……」
うん、予想が悉く当たってる……ってか見てたんじゃないのって位その通りだわ……。
「で、ここでガソリンの話に戻るんですけど、若干の臭いの変化でしかないんですが、慣れてる人なら変化具合で多少は予想も出来るんですよね……で、臭いからすると最低でも一年以上、おそらくは二年弱ほど放置されてたと思われます。そこで二年ちょっと前の……」
今、チラッと茜を見たわよね?
ホントに恐ろしいわね、この子……茜が悪戦苦闘してたところから、アレに辿り着いちゃってるわよ……普通じゃないわ。
「……いえ、以上です。自分の予想はこんなところです」
……え?
ここで止めちゃうの?
まぁ完全に気付いてるものね。
そりゃここで止めちゃうか……茜のためにもね。
私もまさかここまで完璧を超越した予想で深掘りされるとは思わなかったから楽しんじゃってたけど、確かにここが潮時ね。
この先は茜のいない時にでも聞くとしましょう。
連絡先はあとで聞けばいいし……ってか、逃がさないわよ?
そう思って切り上げる旨を伝えようとしたところ。
「最後までお願いします……」
茜から待ったが掛かった。
もう吹っ切れてる話だとは思うけど、わざわざここで掘り返す必要あるの?
それとも琢斗くんが気付いているという事実の方が重要って事?
「天川くんの予想を教えて下さい……最後まで……」
茜はマジみたいね……まぁ琢斗くんなら問題無いか。
だって優しいもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます