第10話
前話最後の『お父さんの形見』云々の話は、自分の体験が元ネタになっています。
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お母さんが現れてから、私はずっと黙っていました。
あまりにも会話がスムーズに展開され過ぎていて、私が加わる隙がまったく無かったからなのですが……これがコミュニケーション上級者なんですね。
勉強になります。
でもおかしいですね。
天川くんは私とお話しする時妙にそわそわしていましたから、私と同じコミュニケーション弱者なのではないかと思っていたのですが……これはむしろ私の方に多大なる問題があるということではないでしょうか?
常日頃お母さんから「あんたはその辺ダメダメだからね~」と言われていましたが、まさかこんな形で証明されてしまうとは……多少なりとも自覚はありましたが、正直屈辱です……。
そんな悔しさに襲われていたところで、話の流れが変わってきました。
「バイクに触るなって言われたんじゃないの?」
「言われてませんよ?」
あぁ、どうしましょう……触れてほしくない話になってきました……あとでちゃんと謝ろうと思っていたのですが……言い訳ですね、分かってます……。
そうです、私は天川くんに対してとても失礼な事をしているのです。
赤の他人……と言ってしまうのは少し寂しいですが、ほぼ赤の他人と言ってもいいクラスメイトのオートバイを直してくれると言ってくれたのに、私はそれを拒否してしまったのです。
触らないで下さいと口にこそしませんでしたが、これほど失礼なことはないと思います。
もちろん私なりの理由はあります。
知らない方に触られるなんて考えたくもないのは確かですが、それは言い訳になりません。
だって天川くんはその理由を知らないのですから。
そもそも天川くんがその「知らない方」に当て嵌まるかと言えば違うのではと思うのですけれど……とんでもない存在を除けば彼だけだったんですよ、嫌らしい視線を向けて来なかった男性は……。
そしてそんな彼だからこそ触られる事自体は問題無いとは思っているのです。
でもそんな彼にでさえ触れてほしくない……暗にそう言ってしまった理由はただひとつ。
この子を直すのは私の義務だと思っているからです。
お父さんとの約束を果たすことが、お父さんへ感謝を伝える一番の方法だと思っているからです。
なので、そこで他人の力を借りるのは違うと思うのです。
自分の力で成し遂げてこそ意味があると思うのです。
でも、そんな失礼な私を怒るでもなく、彼は優しく提案してくれたのです。
自分で直せばいいと。
普通ならこんな面倒な提案はしないと思います。
それでも私の横でアドバイスするからと、絶対直るからと励ましてくれたのです……これは私の我が儘に気付いた上での提案としか思えません。
アドバイスを受けている時点で他力本願と言われてしまうと苦しいのですが、自分の中のルールではOKという答えが出ているのでいいのです。
だって、彼の言葉が「これなら他人の力を借りる事にはならないでしょ?」と聞こえたのですもの……。
こんな失礼極まりない自分に呆れる事なく優しい提案をしてくれるとか、天川くんは天使でしょうか?
「言われてなくても気付いたんでしょ?」
「確かにそうですけど……そういう人は珍しくありませんし、東雲さんの場合は特におかしな話ではないですし」
あ、やっぱり気付いてましたね。
つまり天川くんは天使です。
でも、どうして私の場合「特に」おかしくないのでしょう?
「……どうして『特に』そう思ったの?」
お母さんも気になったみたいです。
私も気になります。
そこで天川くんは私を見ました。
天使に見つめられてしまうとか、緊張します。
顔が崩れてしまいそうです。
ここはキリッとするところですっ!
「茜の事は気にしなくていいわよ~。さぁさぁ言っちゃって~」
そうです、私も気になります。
ここでまた天川くんが見つめてきました。
私に気を使ってくれているのがわかるので返事をしたいところですが、無理です。
喋ったら顔が崩壊してしまいます。
なので私は右手でOKサインを作りました。
「じゃあ言いますけど……東雲さんのバイクって……」
天川くんにちゃんと伝わっていました。
私、グッジョブです。
「お父さんの形見ですよね?」
あぁ……やっぱり天川くんは身体は子供で頭脳は大人な名探偵さんでした。
天使で名探偵とか凄すぎます。
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