不思議
「ご馳走様ー!今日も美味しかったですよ!」
「ありがとうございます」
いつも変わらない日々
そんな毎日を過ごす事にも慣れてきた。
実家の飲食店での、普段と変わらない何の変哲もない会話にも、慣れてきた。
近所に住んでいて、いつも家族で食べにきてくれる娘さんは、必ず顔を見て挨拶して帰る。
それも最初は慣れなかったが、
それにも慣れてきた。
名前も知らない、お客さん
その内の一人に過ぎなかった。
ある日タバコを、吸いに散歩していた時
ばったりと遭遇した。
知らぬふりをしようと、顔を伏せていたが
「こんにちは?マサト君だよね?」
まさか声をかけられると思っていなかった。
罰が悪そうに顔をあげて、あたかも気がつかなかったかのように装った。
「あっ!どうも、ばったり会うなんてそんな事もあるんですね」
「近所に住んでるもの、そんな時もあるよ!
それに、よくこの道を散歩しながら、タバコ吸ってるでしょ!」
「えっ?」
「よく見かけるよ」
少し戸惑いながらも、恥ずかしくなった。
「そうだったんですね、ならもっと早く声かけてくださいよ」
我ながら社交辞令も上手になったと思う。
もうすっかり自分を偽ることにも、慣れすぎていた。
適当にその場をやりすごく事も、上手になってきた。
いや、そうやって生きて来たのだから当たり前の事なのかもしれない。
他の誰にも心は開けない。
ユミ以外には…
「ごめんね、いつも誰かと電話してたり、不思議な表情して居たから、声をかけるタイミング逃しちゃっての」
「そうですか、なんかすみません」
「なんで、マサト君が謝るのよ笑」
「そうですね、すみません」
「ほらまた!」
不思議と笑みが溢れた。
軽く流すつもりだったのに、なんでだろう?
こんなに、他人と話すのはいつぶりだろう?
自分でもよくわからない気持ちだった。
「なんか変だね笑
そういえば、マサト君って私の名前しってる??」
「いえ、予約の苗字しか知らないです」
「そうよね!改めて、かすみです!」
「あっマサトです」
自分でもわからぬ間に、笑顔になっていた。
「もうだいぶ前から顔見知りなのに、変な感じね笑」
「そ、そうですね、何か変ですね」
「これからもよろしくねマサト君?」
「こちらこそ、でわ失礼します」
今の自分の感情が、わからなくなり、今すぐこの場から立ち去りたかった。
「また今度見かけたら声かけるね!お仕事頑張ってね!」
軽く会釈し、その場を離れた。
心臓の音はうるさく、熱くなった体温は中々戻る事がなかった。
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