第49話

からんからん。扉が鳴る。

ゆゆねは双子の店『ふたば屋』に入った。


「「いらっしゃい。よくまいった」」


イスの上で、赤と青のコビトが跳ねた。


「「湖の疲れはとれたか。マナなき子」」

「はい」ゆゆねはうなずいた。「一日へばったら、なんとか」

「「主の素体はよい。鍛えれば、応じてくれる。存分にいじめよ」」

「はぁ」


それで、とゆゆねは言った。

「その、今日来たのは」

「「わかっておる。報酬じゃな」」「待たれよ」「しばしな」


双子が店の奥に消える。

すぐに戻ってきた。

赤は布袋、青は小箱を抱えていた。


「「受け取るがよい。冒険者」」

「はい」


3000銀ちょうど。

ゆゆねは袋の中身を確かめ、カバンに仕舞った。


「えっと。この木箱は?」ゆゆねは約束にない品に戸惑う。

「「贈りものよ。マナなき道に、しるべになればと」」「開けるがよい」「開くがよい」


言われるまま、ゆゆねは箱を開けた。中には。


「ネックレス?」


銀のチェーンに、黒い玉がひとつ。首飾りに見えた。


「「うむ。見覚えがあるだろう」」

「えっと」あっと、ゆゆねは思い出す。「これ巨人さんの。さとりさんの首輪にあった」

「「うむ。さとりの元。マナセンスの核」」


青の双子が黒い玉を指す。


「「この玉は古い魔物の目玉でな。我ら双子の祖先が宝石に加工し、首輪にはめた。百目のウウガ。その目玉を十三使った。巨人といえど、耐えられる限界であったろう。今は四つにし、さとりに返した。残りのうち、一つを主にやろう」」


「目玉」ぎょっとしながらも、ゆゆねはその黒い輝きに見入る。


「どういう力があるんでしょうか? 魔法のアイテムですよね」

「「魔力感知。マナセンス。視覚と聴覚で、マナを感じることができるようになる」」

「わ、私でも?」

「「うむ。自立した魔法器ゆえ、術者の魔力は使わぬ」」

「害とかは? だってさとりさんは」

「「玉一つでは、一般的なマナセンスと変わらぬ。魔術師を名乗るものなら、みな持つ」」

だが、と双子。

「「長い時間の使用はやめた方がよいかもな。特に主は酔うかもしれん」」


ゆゆねはチェーンをつまんでみた。

マナセンス、魔力の感覚器。

シーフの仕事には、大きな助けになるだろう。


「どう使うんですか?」

「「留め具を外してな、その両端を耳に入れる」」


双子が身を乗り出し、レクチャーする。

ゆゆねは、ストラップの付いたワイヤレスイヤホンに似ていると思った。


「これを、はめる」


はめた。


――しぃぃぃぃぃぃぃ――


耳鳴り、さざなみ、ノイズ。

まず聴覚に違和感があった。

四方八方から、様々な重さを持った音が迫ってくる。


「うっ」


続いて視覚。

色のうねりが、虹のもやが視界を出入りする。


「これが」


マナセンスか。

ゆゆねは不快感から首飾りを外したくなるが、こらえた。


双子はその様子を興味深そうにのぞき込む。


「「マナは」」諭すように双子は言った。「「個によってとらえ方が違う。ゆえ、細やかなことは教えられぬ」」

ゆえ、とまた双子は続ける。

「「今見えるもの、聞こえるものがどう意味を持つのか。慣れるしかない。己で、知るしかない」」


そっと、双子は片手ずつ伸ばし、ゆゆねの耳から首飾りを外した。


「「お主はマナがない。最初は見聞きするだけでも、負担なはず」」


ゆゆねはヤシャに言われたことを思い出す。

属性を持たない私は、魔力抵抗力がまったくないのだと。


「「学べ、鍛えよ。幸い、主には魔術師の友も、魔術屋の友もいる」」

「友」

「「おや。友は言い過ぎたか。だが、さとりの恩は忘れぬ」」


双子はイスを降り、カウンターの裏から出てくる。


「「たまに来るとよい。客でないときでも歓迎しよう」」

「あっ。は、はい」


ゆゆねも席を立ち、ぺこりとした。


「「ではな。我らも湖から休めておらぬ。眠るゆえ、今日は店じまいじゃ」」

「はい。お疲れさまです。また、お買い物にきます」


そうでないときも、と笑いゆゆねは店を出た。


「うん」


ゆゆねは首の新しい感触をなでる。

大通りに向かって歩き出した。


ゆゆねは“さとり首輪”を手に入れた!

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