第46話
足はブーツ越しに、砂の粒子を数える。
乾いた口は、風の味を感じる。
進む。
1メートル進むのに1分。
極限までゆっくり、しかし疲れ果ててはいけない。
しばらくその行軍を続けると、体が慣れてきた。
代謝は低く、地を滑るヘビのように。
緊張で流れていた汗が止まった。
どこか寒い。
今は肺から出たばかりの呼気だけが、いやに熱く感じた。
進む。
あと100メートル
睨む巨人に変化はない。
改めてこの距離で、巨人を観察する。
確かに人の形をしているが、ゆゆねには鉱物のように見えた。
半裸の皮膚はひび割れ、ところどころ苔むしている。
草が生えている部分さえある。
さとり。
他者の思考さえ読み取ってしまうマナセンス。
それはどんな世界なのだろう。
話者が望んだとして。
思考のうち、言葉として外で出るのは数割だ。
それを全部受けてしまう。
望まないこと、秘めたいこと、呪ったこと。
それも全部受けてしまう。
上手く使える人もいるだろう。
良く使える人も、悪く使える人も。
けれど彼は、この巨人は、その世界に耐えられなかった。
だから、誰もいない湖に逃げ込んだ。
ゆゆねはきっと、この巨人は優しい人なのだろうと思った。
誰かを傷つけてしまう前に、自分を封じたんだろうと。
弱くて、臆病で、優しい。
「私は――」
どこか共感した自分を省みる。
私は優しいのだろうか。
私が持つのは、優しさを真似た弱さで、臆病さで、卑怯さで。
真ん中が空っぽであることを、誤魔化しているだけじゃないだろうか。
マナには色があるとヤシャはいった。
聖と闇で白と黒。これが大二素。
火風土水で赤緑茶青。これが小四素。
ではマナがない私の色は?
「たぶん」
最初は黒なんだと思った。
どす黒い空っぽの穴が私だと。
けど違う。
闇ならば重みをもち、聖に抗うこともできる。
それがこの世界のマナだ。
私にあるのは虚無、虚空。あるいは透明。
つまり、無色だ。
パソコンなどでいえば、透過色だ。
ステイタスの属性欄に、記述さえないのはそういうことだろう。
透明。
まわりを見る。
空と雲と水。果てがない。
私にある無色は、この澄み渡るものなのか。
それとも、宇宙の果てにあるという何もない場所か。
胸にある空っぽに、なにかが埋まるときは来るのだろうか。
マナと呼ばれるものか、それに似た感情が
猛る火。自由な風。確かな土。冷静な水。
ゆゆねは、さとりの巨人に着いた。
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