第41話

「「いらっしゃい、マナなき子」」


双子はちょんと、カウンターの上に顔を出す。

ゆゆねはいつ見てもそっくりだと思った。


「「再び会えるとは良きこと。買い、去り、もう来ぬ者も多い」」

「はい、帰ってこれました。このお店で買ったアイテムが、役立ちました」

「「それは我らも嬉しい。どれを使った?」」

「えっと。ぜんぶ、です」


ぜんぶ、と双子が顔を見合わせた。


「「それは豪気な。愚か者か、あるいは大物よ」」

「私、弱っちいから。出せるものは出さないと」

「「いや、正しい。今生きているのだから。出し惜しみ死ぬなら、破産せよ」」

「えっと。破産はちょっと」

「「誇張よ。我らも客には、長く生きてほしい。健康と銭を、保ち」」


ゆゆねは店内は見渡す。

本当に、カラフルだった。

かっこよく、かわいく、おぞましく、たのしい。


「それで、アイテムをまた買いにきました」

「「ほう。用途は?」」

「次の依頼はまだです。でも、私は新入りも新入りなので、基本の基本も足りないんです」


いくつかの必需品は宿のお古や、ガジュマルたちからは分けてもらっている。

しかし、質も量も種類も、足りていない。


「「漠然だな。が、新芽。己が要るものも明瞭にはわからぬか」」

「はい。とりあえず、解錠道具は合うのを買ってこいって。私、シーフなんです」

「「シーフ。忍びの者か」」双子は目を見開く。「万能の」「無能よ」

「簡単なのは持ってます。でも、私にはちょっと大きくて」

「「理解した。解錠道具こそ、シーフの剣。よく調整しよう」」


双子は散り、戻る。

集めた品を卓上に置く。


「「ペンの如きもの。靴の如きもの」」


皮のつつみを広げた。

様々な大きさの銀色の棒が並ぶ。

ゆゆねには、歯医者さんのトレーの上に思えた。


「「丁度でなければ。わずかに違えば」」双子は四つ分の手で棒を持つ。「君は死ぬ」「友は死ぬ」

「し、死ぬ」

「「誇張ではない。鍵が罠が暴れれば、死ぬ。君の指先の狂いで、死ぬ」」


ゆゆねは座り直す。それがシーフなのだと、理解した。

「死にたくないです。死なせたくないです」

「「なら吟味しよう。テストの錠をいくつか。解いてみるとよい」」


ごとん、ごとん。

双子は大小5つの錠を置く。

カギとは思えない優美なものから、鉄塊のような武骨なものまで。


「「この地、風の国の近くで多き錠だ。基礎として覚えよ」」

「5つ」

「「細やかにはもっと多い。だが、これを覚えれば応用も効く」」

「はい」


ゆゆねは、双子の片方から渡された棒、ピンを受け取った。

よし、と袖をまくる。

シーフの入門だ。


―――――――――


ゆゆねは目頭を押さえる。集中力がなくなってきた。


「「よいだろう。傾向もわかった」」


双子がピッキングツールをまとめて仕舞う。

ひとつだけ、革袋が残った。


「「まだ未熟。手先もまあまあ。だが、けれど」」双子がのぞき込む。「よき眼」「よき瞳」


ゆゆねは思わず、四つの眼球から目をそらす。

なにかを知られた気がした。


ゆゆねは錠前の種類を見分けるのに、ステイタスの力を借りた。

その錠前の年代、型、難易度がわかった。

自前の知識のないゆゆねには大きな助けになった。


しかしチート。

ずるをしたという思いがあり、気まずくなる。


「「マナなき子。マナなき子」」


双子が繰り返す、どこか楽しそうに。

なにかを見透かされた思いがした。


「あの、実は私」

「「よいよい。みだりに口に出すな。それは両刃だ」」


双子は「なー」「のー」と互いの手を合わせる。


「「この解錠道具。主に送ろう」」

「えっ」

「「プレゼントじゃ。代金はいらぬ」」


なんで、とゆゆね。嬉しさより、懐疑が勝った。


「「もちろん魂胆あってのこと。主に、お主らに」」

双子は同時に歌う。

「「依頼を頼みたい」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る