第38話

長い。

一分でさえ、この近接戦闘では長すぎる。


それがもう5分は経っている。

ゆゆねの集中力は限界だった。


ゴーストはいよいよ増え、数え方が正確なら十を超えている。

それが好き勝手に壁から出入りして、体当たりしてくる。


老人とヤシャの戦いも終わらない。

ヤシャは何度か老人の急所を穿ったが、それは人にとっての急所で、もう老人には無縁のようだった。


まずい、ゆゆねは焦った。

どう考えても不利だ。

私は遠からず倒れ、ヤシャさんの呪文も底が尽く、ガジュマルさんも全方位からの攻撃には耐えきれない。


私は慎重すぎたのか。

それほど効果的でなくとも、奥の手を解放すべきだったのか。


いや違う。

活路は見えていた。

この5分の戦い。サンプルの中で。

ただ、耐えきれるという覚悟がなかった。


ゴーストたちは明らかに、私を狙っていた。

私が剣を下げたり、ガジュマルさんの守りに隙間できると、迷わず突っ込んできた。


何度かその攻撃をかすめて、わかった。

ゴーストたちは泣いていた。寂しくて、苦しいのだ。

だから、共感しやすい私を狙う。触れたいと。恋しいと。

凛々しいヤシャさんや、猛々しいガジュマルさんではなく。


うん、そうだね。

私はすこし違ったら。

あのゾンビや、ガイコツや、このゴーストと同じものになっていた。

泣いて呪って、なれ果てたろう。


けど、まだ生きている。

なんの間違いか、奇跡か、あるいは呪いか。

新しい世界。違うの風の世界にいる。

そして仲間と呼べるものがいる。


ならちょっとだけ、強くなれたはずだ。


「ガジュマルさん。ねこさん。私の援護をやめてください」ゆゆねは言った。

「なに」

「ヤシャさんだけに注力してください。私を一人に」


馬鹿か、とガジュマルは剣を振る。

「死ぬぞ、わかってるだろうがこいつらは」

「はい、私を狙ってます」

「なら」

「勝たなければ」

「自己犠牲は嫌いだ」猫はゴーストを押し返す。「大嫌いだ」

「いいえ」ゆゆねはガジュマルに、なにより自分に「私は死なない」そう言った。


キラリと、手の中のアイテムをガジュマルに見せる。

「まだまだ、ずっとずっと」


二人の視線が交差する。

ゆゆねとガジュマルは戦いの中、一瞬の静寂を得た。


ガジュマルはうなずいた。

「オーケー。耐えきれるんだな」

「はい」

「オーケー。5秒後、お前の援護を切る」


ガジュマルは容赦なかった。

きっかり5秒守り、そしってすっぱり、ゆゆねを敵陣の中に捨てた。

その決断が、ゆゆねには嬉しかった。


私は信頼されているのだと。

信じて、任されたのだ。


ああ、だから応えよう。


ゴーストがゆゆねを襲う。

正面はショートソードで斬り伏せた。

だが背面。頭上、側面、足元からも。

四方八方から、ゴーストが迫った。


「ぎぃ!」


舌を噛む。

当然、避けきれるわけがない。

ゆゆねはゴーストの群れに、もみくちゃにされた。

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