第30話

「墓所か」ガジュマルがうめく。

「はい」


はい、とその青年はもう一度言った。


「やなぎ谷の霊廟です。長く鎮まっていましたが先月、遠方の縁者が礼拝に行ったさい……」

「出た、と」

「はい。アンデッドです」


「アンデッド」ゆゆねは反芻した。「そのゾンビとか、ゴーストとか。ですよねぇ?」


青年は怪訝そうに、ゆゆねを見る。

「新入りの方ですか? はい、ゾンビ、スケルトン、ウィスプが確認できました」

「低級種ね。墓の汚染は?」ヤシャが訊く。

「中規模です。ただ、深部が暗い。恐らく……死王の一部が」

「死王」ゆゆは思い出す。


死王。お姉ちゃんが昔に相討ちになったという亡者の王さまだ。

たぶん、魔王のようなものだとゆゆねは考えていた。


「死王は細切れになりましたが、その破片はいまだ各地を汚染しています。魔物を機械をヒト種を。特に人の死体が汚染されるとアンデッドになります」

常識では? と不安げに青年はゆゆねに言った。


「霊廟に死王の部位か。なにかの意図を感じるが……ネクロマンサーどもの動きは?」ガジュマルが青年に訊く。

「こちらでは把握していません。大書庫も、あそこにはぐれ術師はいないと。まあ信用できたものではありませんが」

「野良のまじない師かね。なんにせよ出ちゃったもんは送ってやらんとな」

「受けてくれますか?」


青年はガジュマルに訊いたが、答えたのはヤシャだった。

「受けるわ。冒険者として、できるだけこういう依頼は受けることになっている。私たちが武装を許される大儀のひとつ」

彼女は続けた。

「ノーマルな埋葬依頼と取るわ。アンデッドを滅ぼし、できるなら死王の部位を持ち帰る」

「はい。やなぎ谷は僻地。とはいえこれ以上の規模になると、人里への害も。頼みます」


青年はいくつかの道具をヤシャに渡す。

細かいやり取りが終わると、ゆゆね達一人一人に丁寧に頭を下げた。


「ご武運を。白乙女はいつでも我らを見守っています」


青年は最後にそう言い、宿から去って行った。


「若い坊主だったな」ガジュマルは腰を下ろし、依頼書を読み直す。「オレたちチンピラにビビッてもない。バカにしてもない」


ヤシャは杖をなでる。

「信仰のよき形ね。彼らは基本、正しく優しく強い」


「お坊さん、信仰」ゆゆねが言う。「あれが聖会の人ですか。お祈りとか、お墓とかの中心になってる」


「聖会は唯一神を崇める集団ね。感情面ではその分身である白乙女を慕っているけど」

ヤシャが言う。

「他の神や信仰に排他的ではあるけど……今ではだいぶ丸くなったし、ふつうに交流する分には良い人たちが多い」


ふむ、とゆゆねは思った。

彼女には元の世界にあった宗教に似ている気がしたが、どこでも信仰とはそういうものなのかもしれないと飲み込んだ。


「さて、ゆゆね。キノコ狩り、ゴブリン狩りときて、次はゾンビ狩りよ」

「アンデッド。塵は塵に……とかってやつですか」

「ステイタスのモンスター図鑑をよく読みなさい。とりわけアンデッドは耐性と弱点が極端だから」


ヤシャが指を一本立てる。

「テストよ、ゆゆね。アンデッド退治に必要な物品。前回の依頼の分け前から自分で払って、買い集めてきなさい」

「お買い物」

「アイテム管理は冒険者の技能と呼べるもの。今のうちに覚えておきなさい。出発前に採点するから、そのつもりでね」


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