第21話
湖の中央に、その遺跡はあった。
ゆゆねは岸辺の木陰で、目を細める。
「あれがダンジョンなんですか? 平べったい足場がちょんとあるだけに見えますが」
「あのタイプは竪穴があることが多い」ガジュマルが言った。「古代機の工場だろう。水を多く使うからな、こういった場所によく作られる」
ヤシャがうなずく。
「ゴブリン騒動まで、村人は遺跡があることを知らなかったみたい。最近浮上したんでしょう。ゴブリンが悪さをしたのかも」
「ゴブリンが遺跡を? そんな知性があるんですか?」とゆゆね。
「倫理観がかけ離れてるから計りづらいけど、悪を成すことには抜け目ないわ。歴史ある種族でもあるし、古代文明には独自の解釈を持ってるみたい」
「上位の魔物の子分になることも多いんだ。繁殖力はバツグンだからな、兵隊には最適だ」
さて、とガジュマルが言った。
「オレたちの目的はゴブリンの殲滅だ。村に悪さをしてた連中で、村人の確認した限りでは10匹から20匹。根城はあの湖の遺跡だ」
「どう近づくんです? 見張りは見えませんが、こう平べったいとバレバレです。やっぱり、闇夜に乗じて……とか」
「ゴブリンは暗視を持つ。暗闇は奴らに利する」
「猫人も見えるけどね」ヤシャが言った。「でもダークエルフにはない。魔法は射程が大事。夜は私の戦力が半減するわ」
ゆゆねは二人を見る。
「私も夜は見えません。ステイタスにもそういう機能はないみたいでした」
「そうなの? ねねかは熱源視ができたというけど……まぁ、ないものは仕方ない」
ガジュマルが空を仰ぐ。
「というわけで、夜襲はない。真昼間にいく。ゴブリンは太陽が嫌いだ。竪穴にできるだけ陽光が入る時間に小舟で近づく。運がよければ、先手を取れる」
「あと1時間ってところね。ゆゆね、それまで教えたことを反芻してなさい」
「……はい」
ゆゆねは水面を見ながら、考えた。
今までのこと、これからのこと。
本当に冒険者になろうとしている自分に驚いた。
なにもできなかったはずなのに、この世界に来て卵を割ってから、生まれ変わったかのようだ。
「……たぶん」
ゆゆねは、湖面を渡る風をかぐ。
たぶん、そうだ。
風が違うのだろう。この世界の空気にはなにか不思議な重みを感じる。
豊かで、いろいろな匂いがする。
それが私の体と心を、わくわくさせてくれるのだ。
まるで幼いころ、お姉ちゃんと野原を走っていた時のような。
茂みの越えて、丘を越えて、すべてが新しく光っていたあの時の。
「ゆゆね。行くわよ」
ゆゆねは我に返り、振り返る。
ヤシャとガジュマルが木陰から小舟を出すところだった。
村から持ってきておいたものだ。
「はい」
ゆゆねはぎゅっと、腰のまだ慣れない重みを握った。
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